初詣、願う事は
「今年もあなたと一緒に」




「今から初詣行かない?」

と誘われたのは大晦日の夜。私はとっくに年越し蕎麦を食べ終えて、まったりと紅白を見ていた時だった。

「また急だね」

いくら近くに神社があるからって、今頃誘うなんて。時間は既に23時近く。
私、もうお風呂入ってバッチリ着替えちゃってるんですけど。それはもう今からでもベッドに入って夢の中に旅立てるくらいに。
もっと早く誘ってくれればよかったのに。

「ダメ?」
「ダメじゃないけど…」

今から出掛ける事、親、何か言うかなとか色々考えて、曖昧な返事を返すと、リョーマくんは痺れを切らしたのか「行くの、行かないの?」と私をせっつく。曖昧な返事を返すといつも「Yes or No?」を求めてくるのはやはりアメリカでの生活が長いからなのか。

「行きます…いや行きたい、です」

お供させて頂きますとも。リョーマくんから誘ってもらえるとは思わなかったし、突然の誘いにびっくりしたけど、こうして誘ってもらえるのはやっぱり嬉しい。
後から込み上げて来た喜びに頬が緩む。

「じゃ決まり、先輩ん家まで迎えに行くから。それじゃ」
「え、ちょっと…」

ツーツーと耳元で響く音。
いつものことながら用件のみの電話に苦笑い。
紅白鑑賞は中断して親に今から初詣に行くと告げ、まぁ、あまりいい顔はされなかったんだけど。この際、あまり気にしないことにしよう。ごめんね、お母さん…。あ、お父さんも。
誰と行くのと聞かない少し私を信用し過ぎている両親に心の中で謝った。

寒くないように着込んで、出掛ける準備をした。今年の初詣の時に買ったお守りも忘れないように鞄に入れて。
再び鳴る携帯。ディスプレイを見ると表示されているのは、リョーマくんの名前。

「もしもし」
「用意出来た?」
「うん、出来たよ。今どこ?」
「俺、外いるから」
「あ、じゃすぐ出るね!」
「ん」

流石にインターホンは鳴らさないらしい。そこら辺はちゃんと考えてくれてるのね。


家を出ると冷たい風がピューッと吹きつける。空気はピリッと張り詰めてる。私この空気、嫌いじゃない。なんかしゃきっとするから。大晦日から新年を迎えるのにはいい空気。門扉を出ると、家から少し離れた所で寒そうに身体を小さくして待っているリョーマくんを見つけた。

「お待たせ」
「…寒い」

私の顔を見るなり、リョーマくんは冷たい風を避けるようにマフラーに顔を埋めて言った。小さい顔がすっぽりと半分ほどマフラーに埋もれてなんだか可愛い。

「じゃくっついて歩く?」

そうふざけて言うと、リョーマくんはまさか私がそんな事言い出すなんて思ってなかったのか、目を大きく見開いて一瞬固まってしまった。

「バ、バカじゃないの?さっさと行くよ」

たまにからかうと楽しいのよね。
でも照れ隠しとは言え、そう全否定されると悲しい。一応、私、リョーマくんの彼女だよ、ね?
そんな私の気持ちを察したのか、察しなかったのか、リョーマくんは、ふっと小さく白い息を吐いて、口を開いた。

「……別に、いいっスよ。くっついても…」
「へっ?」

思わず間抜けな声を出してしまった。
今、なんて?
くっついてもいいって?

「……やっぱ、何でもない」

一瞬にして取り下げられた許可。
早過ぎだよ!!

「あー、待って、待って!」

お言葉に甘えてリョーマくんの腕にしがみついた。こんな風に歩くのは初めてで。何だか照れ臭い。でもおかげであったかい、いや熱いくらい。

「あったかいね」
「…ん」

リョーマくんも照れ臭いのか私の顔は見ずに歩いてる。
こうして腕を組んで歩いても様になるなんて、リョーマくん、ホント急に大きくなったな。出会った時はいつも見上げて話し掛けられてたのに。
あっという間に抜かされてしまうんだと思うと少し淋しいような気もするけど、側で彼の成長を見るのも悪くないと思う。

「願い事、決めた」
「へぇ、何?」
「ご想像にお任せします」

リョーマくんは眉をひそめて「そんなのわかんない」と首を横に振った。

「私のより、リョーマくんは何お願いするの?」
「え?んー、先輩が高校に合格しますように、かな」
「……余計なお世話ですよ」
「へぇ、自信あるんだ」

何よ、そのあからさまに自信ないだろって顔は…。

「頑張るから、多分大丈夫。それに受験自体は再来年だよ。気が早いよ」
「あ、そっか。じゃ先輩が苦手科目が克服出来ますように、かな」
「リョーマくん!」

思わずムッとした顔をしてしまう。
だってしつこいんだもの。

「本気で心配してるのに」
「私、そんなに心配される程、成績悪くないよ」
「そう?ならいいけど」

嫌な事、思い出した。来年は受験生。
部活もだけど、忘れず勉強もちゃんとしなきゃ。
ちゃんとやらなきゃきっと、絶対後悔する。
青学はエスカレーター式だけど試験はあるし、酷い点数取ると落とされてしまう。

「勉強しなきゃなぁ」
「英語なら教えてあげるよ」
「うん、困った時は宜しく」
「いつでもどーぞ」

私に頼られるのが嬉しいのか、満足そうな顔で笑うリョーマくん。そんな頑張らなくてもいいのに。
でも頼ってと言ってもらえるのはすごく嬉しい。


受験に向けてとか、来年のテニス部のこととか色々あるけど、それでもやっぱり私の願い事は、今年もあなたと一緒にいたい、かな。
いつも、いつも願ってるけど。やっぱりこれしかない。
…勉強は、私自身の問題だから。
テニス部は…気になるからテニス部のマネージャとして、優勝祈願しとこ。リョーマくんに言ったら必要ないとか言われちゃいそうだけど。
リョーマくんと一緒にいたいっていうのは広瀬 静個人の願い。
お賽銭二回あげたら大丈夫かな。


「あ、もうすぐ0時」

リョーマくんが思い出したように腕時計を見て言った。リョーマくんの腕時計を覗き込むと時計は23時58分を表示していた。
もうすぐ新しい年。

「ねぇねぇ、カウントダウンしようよ」
「いいっスよ」

二人だけでカウントダウン。
遠くから除夜の鐘が聞こえる。
新しい年の始まりをキミとこうして迎えられることを幸せに思う。




明けましておめでとう、今年も宜しくね。



fin



A HAPPY NEW YEAR 2007
2007/01/01




お題配布元:precious days














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