つたない恋を一緒につむごう 好きだと、思った。 それは何時からだったのか今はもうよく思い出せないけれど。 キミの生意気なところや、ぶっきらぼうな優しさも、たまに笑った顔がとても可愛いところもまるごと好きで仕方ない。 学園祭の最終日、飲み込んでしまった「好き」という言葉。 勇気を出して伝えればよかったと後悔した時には、もう遅かった。 近いけど遠いあの日は、もう二度戻らない。 でも、キミに拒絶されるのが怖かったんだ。とても、とても。 だっていつの間にかこんなにも好きになってしまってたんだもの。 キミを想うとどうしてこんなに胸が熱く、切なく軋むんだろう。 いつも自然とテニスコートばかりに目が行く。 そっと見ているだけじゃ想いなんて伝わらない事。 そんな当たり前の事、痛いほどわかってる。 狭いはずの校舎。 それなのにすれ違う事すらなくて。 時間が経つにつれて、ほんの少しだけ縮まっていたはずの距離が、また離れていった。 そんな気がして、自分からは何も出来なくなってしまった。 最後に電話したのはいつだったっけ。そんな事を思い、携帯を開いた。 リダイヤルにリョーマくんの名前はもうなかった。着信履歴も同じく。 携帯のディスプレイにリョーマくんのメモリを表示させてみる。少し前までは、簡単に押せていた発信ボタン。今はもう押せない。 今更何を話すっていうの? 『久しぶり、元気にしてた?』 『部活、頑張ってる?』 とか? イキナリそんな電話したらリョーマくん困るよね。 想いを伝えるチャンスはあの2週間の間にいっぱいあったのに。 勇気を出せなかった自分を酷く後悔してる。 私の片想いは、既に手遅れ。 そう思っても尚、諦められず、思い続け、一緒にいたいと思ってしまう。 あぁ、もうなんかぐちゃぐちゃだな。 「ねぇ、いつもそこで何してんの?」 急に話し掛けられたその声に驚いて、咄嗟に携帯を閉じてから、振り返るとそこにはキミがいて。声が出なかった。 だって今キミの事、考えてたんだよ。 大好きなキミの事。 「久しぶりっスね。どうして試合、来てくんなかったの?……約束したのに。」 …約束? そんな約束してな、い。 少し首を傾げて、学園祭の時の記憶を引っ張り出す。 『越前くんのテニスしてるとこ見てみたいな』 『さっき見てたんじゃないの?』 『違うよ、練習じゃなくて試合!!』 『じゃ試合、見に来れば?』 『行ってもいいの!?』 『別にいいよ』 最初、会話がもたなくて冗談混じりに言った言葉。あれは約束したとは言わないよ。私でさえ忘れていた、そのやり取りを覚えてくれていた。 たったそれだけで… 視界が滲んだ。泣いちゃダメ。リョーマくんが困るじゃない。 「……な、泣いてるの?」 案の定、突然の事にリョーマくんは、驚いたように目を丸くして私を見てる。 誰だって急に目の前で人が泣いたらびっくりする。 私は何かいい言い訳を必死で考えたけど、動揺し過ぎて何も思いつかなくて。 「違っ…目が…」 これ以上喋ると、涙が溢れ出してしまいそうで、喋ることが出来なくなってしまった。 「泣いてるじゃん、一体どうしたの?」 伺うように私を見つめる大きな黒い瞳、そしてその声があまりに優し過ぎて、堪えきれずに、泣いた。 わけもわからず泣きじゃくる私をリョーマくんは何をするでもなくただ側にいてくれた。 今はそんなリョーマくんの優しさが痛かった。 「落ち着いた?」 まだ上手く話すことが出来なくて、こくこくと頷いた。 「で、なんで泣き出したわけ?」 「……情緒…不安定かな?」 「話してみれば?聞くし」 「言えないよ」 言えるわけない。原因は目の前のリョーマくんだから。 「俺じゃ頼りにならない?」 「そんな事……ないよ」 「だったら…」 「面白くない話だよ」 「そんなのわかってる」 それもそうだよねと苦笑いしてみれば、やっと笑ったね。とリョーマくんは小さく笑った。 「……好きな人がいるの。でもなかなか上手くいかなくて」 リョーマくんの顔をまともに見ることが出来なくて思わず俯いてしまう。 「ふーん。で、こっから眺めてたってわけ?」 リョーマくんは窓からテニスコートを眺めて、重いため息を吐いたと思えば、スタスタと廊下側へと歩き出した。 「……俺、行く。先輩のそーいう話、聞きたくない」 私の顔を見ずに答えるその声はとても不機嫌そう。そういえば、こういう話苦手って言ってたっけ。 此処でこのまま別れてしまえば、きっと本当に終わりだと思った。 そんなのイヤ、 待って、 待って、 待って。 「ちょ…何?」 思わずリョーマくんのジャージの裾を掴んでしまった。どうしよう……。 これはきっと最後のチャンス。 私のこの想いが叶うだなんて思ってない。 ただ、伝えたい。 大好きだ、と。 「……聞いて欲しいの」 「聞きたく、ない」 「お願い、だから…」 此処でこの手を離してしまったらきっと後悔する。今までよりも、もっと。 「わかったから、そんな顔しないでくれる」 余程酷い顔をしていたのか、不機嫌そうな顔が一変して、困った顔。 意外にくるくると変わるその表情すら愛おしくて。どうしようもなかった。 さぁ、勇気を出して。 一言、言えばいい。 こんなことを言ったら、リョーマくん、どんな反応するんだろう。そう考えるとやっぱり怖かった。 深く深呼吸をして、リョーマくんの目を見て言葉にできない気持ちをも込めて、私は想いを言葉にした。 「私……リョーマくんの側にいたい、一緒にいたい。ずっと、ずっとそれを伝えたかった。でも怖かった…拒絶されるのが。リョーマくんが、好き。ずっと、ずっと好きだったんだよ」 ひとこと、と思っていたのに溢れた出した気持ちは止まらなくて吐き出すかのように言ってしまった。 リョーマくんは、暫くの間、その場に立ち尽くして、俯いてしまった。 その反応を見て、あぁ、やっぱり困らせちゃったな。と思ったけど。 不思議と『好きだよ』と告白した事に後悔はしなかった。 この先、どんな結末が待っていようとも怖くない。 でも私の言葉で困らせたことに対しては申し訳なくて「ゴメン…ね」と告げた。 「なんで先に言っちゃうわけ?」 そう言って被っている帽子を深く被り直す。そのせいでリョーマくんの表情はよくわからない。 そしてその言葉の意味も。 「学園祭の時からずっと先輩のコト鈍い、鈍いと思ってたけど、俺も負けてなかったわけだ」 頭を抱えて、リョーマくんは今日何度目かのため息をついた。 「話が見えないんだけど…」 「いい加減気付けば?」 「え?」 「俺も先輩と同じキモチってこと」 「私、と同じ…?」 リョーマくんは黙って頷いた。それを見た私の視界はまた自然と滲んだ。 「また泣く」 「だって…」 リョーマくんは私の腕を掴んで引き寄せるとそっと抱きしめてくれた。リョーマくんに比べて少し身長が高い私はリョーマくんの肩で泣いた。 なんかカッコつかないじゃんとリョーマくんはふてくされたように小さく呟いて、私の頭を何度も撫でてくれた。 いつか、此処があたしの一番落ち着ける場所になればいいとぼんやりと思った。 「先輩、思ってたよりも細いね…俺の事で悩んで食事も喉に通らなかった、とか?」 「残念ながらそこまでデリケートじゃないよ」 「なんだ…つまんないの」 「なっ……」 「泣き止んだ?」 そう言って勝ち誇ったように口の端で小さく笑っていた。 それは彼なりの優しさで。 そう思うと心が温かくなった。 「素直じゃないんだから」精一杯に強がって小さくそう返すと、「ソレ、お互い様でしょ」と言う目の前の彼はいつもの生意気な顔はしていなくて。今まで見たことないくらい優しい顔をして私を見ていた。 その柔らかな表情を見て、私はリョーマくんをもっと好きになってしまった。 きっと暫く見れないであろう、その彼の表情をそっと心に焼き付けた。 なかなか素直になれない、私たちはこれからも幾度もすれ違うだろう。 でも、忘れない。 自分の想いを伝える勇気。 これからも一緒にこのつたない恋をつむいでいこう。 ふたりで、ゆっくりと。 fin 2006/11/23 お題配布元:自主的課題様 花あらしの宇佐美ちよさんがこのお話のリョーマside『ぼくたちはいつまでも不器用に恋をする』を書いてくださいました。 素敵なお話になってますので是非ご覧になってくださいませ。 |