新穂


「あぁっあっあっ!司さっあっあぁんっ!」
「新穂くん、」
「イッちゃうっあぁんっ俺っまたイッちゃう、つかささっあっあんっ!イ、くぅ…っ!あぁあんっ」
「はぁ、っ、俺も……っ、」
新穂と司は、汗ばむ体を密着させながらお互い同時に精を放った。


処理を終えた二人は、社長専用仮眠室の大きなベッドの上に寝転んでいた。
司は処理を終えたあとも、新穂をすぐには帰さずたわいもない会話をしてくれるのだ。
聞き上手な司に、新穂は最近出来た後輩の話を嬉しそうに話した。
「で、その朝比奈が、なんでか椎名さんにいつもくっついててー…俺にはチューしてくれたから仲良くしてくれると思ったんッスけど、なんかどうにも冷たい感じで…」
「へぇ。なんだか面白い子だね」
「あ、でもでも、色白で細くって、可愛いし、見てるだけで癒されるんッスけどね!」
「そっかー。一回会ってみたいな、新穂くんの後輩ちゃんに」
司が笑顔で言うので、新穂も笑顔で頷いた。
しかしすぐに胸がもやっとして、変な感覚になる。
この気持ちがなんなのか、新穂はよくわからないでいた。

「俺、朝比奈のことが好きだから、司さんにも会って欲しいなーって思うんッスよ。でも実際会ってみたいって言われると、なーんか変な感じなんッスよね」
昨日の司とのやりとりを説明する新穂に、素っ気なく相槌を打つのは綾瀬だった。
「知るかよ」
「……」
二人の話を少し離れた席で聞いていた佐倉は顔をしかめる。
綾瀬はなぜもっと大事な言葉が言えないのか?
そう疑問を抱くが、他人の感情に鈍感すぎる綾瀬に気遣いを求めることが間違いなのだと、佐倉は一言も発さないうちに悟った。
そんな不思議な空気が流れる処理課に、一本の電話が入る。
久遠がそれを取った。
「雪村指名?あいつは今日休みだ」
久遠が電話でやり取りしているところを、新穂は期待の眼差しで見つめる。
久遠はそれに気付いて、電話の声を聞きつつも新穂に笑いかけた。
「それ以外誰でも良いんなら…新穂を行かせる。…あぁ、わかった」
久遠は電話を切ると、また新穂に微笑みかける。
「今から四階の仮眠室な」
新穂はぱっと顔を明るくさせた。
「やったぁー!今日初処理ッス!課長ありがとうッス!あー誰だろ!?名前言ってたッスか!?」
「熊田って言ってたぞ」
「え!?熊田さん!?」
熊田という名前に、新穂は覚えがあった。
いつも雪村を指名する社員だ。
熊田のペニスは一体どんなものなのか、雪村に確認したことがあった。
『でかいけど、遅漏だからなぁ。結構だるいよ』
雪村の言葉が脳裏に浮かぶ。
「最高ッスーーー…っ。一回だけでいいからハメて欲しいってずっと思ってたんッス」
「そりゃ良かったな」
「今すぐ行って来るッス−!」
新穂は足取り軽く処理課を飛び出した。
しかし扉から出たすぐ近くに立っていた男を見つけ、思わず急ブレーキで走るのを止める。
焦って飛び出した新穂に微笑みを向けたのは、司だった。
「おはよ。今日も元気そうだね」
「あ、つ、司さん、おはようございます」
爽やかな笑顔に、新穂は思わず照れる。
「今日も父は他社のお偉いさん方に会いに行ってるみたいなんだけど。いつものとこ行く?」
今日もあの大きなベッドの上で処理を、という意味であることはさすがの新穂も理解が出来る。
そのまま頷いて付いて行きたい気持ちになったが、今自分は処理に行く途中である。
「え、えっと…」
曖昧な言葉を呟いて、新穂は悩んだ。
司のことはもちろん好きである。ぜひ行きたい。
今から処理をしに行く熊田は、もともと雪村指名であり、不在のため代わりに行くだけ。
ここで行けなくなったとしても、また他の誰かが処理をしに行くだけだろう。
しかし、やはり新穂の頭には雪村の言葉が思い浮かぶ。
『でかいけど、遅漏だからなぁ。結構だるいよ』
大きいペニスでしつこくガンガン突かれるところを妄想して、新穂はムラムラしだす。
司との処理はもちろん気持ちがいい。しかし昨日も処理をしたばかりだ。
セックスが、むしろ男のペニスが好きな新穂は、完全に性欲に負けてしまった。
「す、すいません、俺、これから処理に行くんッス…!」
新穂の言葉に、司は優しく微笑んだ。
「そう、それは良かったね。待ちに待った君の仕事だ」
「そ、そうなんッス!今日やっとの処理で…!初めての人なんで、が、頑張ってきます!」
「うん。応援してるよ。じゃー俺も今日は真面目に社会勉強しよっかな」
司はそう言って去って行った。
「……………」
先に処理の予定が入ったのは熊田さんの方だし。
新穂は少しもやもやする気持ちに正論を立てて、四階に向かった。


四階の仮眠室で待っていた熊田は、待ちきれなかったのか既にスラックスも下着も脱いで下半身を露出していた。
熊田のペニスを目にした新穂はその大きさにアナルをきゅんっと締める。
「す、すいません、遅くなりました…!」
「新穂くんだっけ?早速だけどしゃぶって勃たせてよ」
熊田は自分の大きなペニスを掴みぷるぷると揺らした。
新穂は揺れるペニスに釘付けになりながら、ベッドに乗り熊田の股に顔を寄せる。
「い、いただきます…!」
新穂は熊田のペニスの先端をぺろっと舐める。
ちろちろ舌で何回か舐めてみたものの、やはり我慢できずに口を大きく開きぱくりと咥えこんだ。
そしてペニスの味をしっかり味わうようにしゃぶりまくる。
頬や喉奥をペニスの先でごりごりされる感覚に、新穂は胸を高鳴らせた。
口内でも舌を高速に動かしてペニスを刺激する。
「新穂ちゃん、結構スケベなしゃぶり方するんだね。ちんこ好きなの?」
「んっ、はぁ、はっ…、好きッス…、ちんぽ大好き…!」
新穂は唾液まみれのペニスをれろれろしながら熊田を上目遣いで見る。
熊田は初めて知る新穂のいやらしい姿にペニスを硬くさせた。
「しゃぶってるだけで腰揺れてるもんねぇ…、」
新穂は既に勃起していた。
それどころか、興奮しすぎて我慢汁までシーツに垂らしてしまっている。
「はっ、ん、俺、はぁっ、はぁ…っ、早く、ちんぽ欲しくて…っい、いつでもハメられますからぁ…っ」
新穂は噂通りの大きな遅漏ペニスに早く掘ってもらいたくて堪らないでいた。
しかし熊田の方は、まだそういう気にはならないらしい。
「まぁ、とりあえずしゃぶってよ。俺フェラ顔見てんの好きなんだよねー」
「は、ふぁい…っ」
新穂はうずうずしながらも、硬くなっている熊田のペニスを口に咥えた。
ぢゅぽぢゅぽと卑猥な音を立てながらしゃぶりまくる。
しかし自分も堪らなくなって、解しまくったアナルに指を入れて掻き回した。
「可愛い顔して変態ビッチなんだ、新穂ちゃんって」
熊田にそう言われて、新穂は顔を火照らせながら頷く。
「まーたまにはこういう、ちんこのことしか考えてないような淫乱に処理してもらうのも良いかもねぇ。ほら、雪村ちゃんって綺麗だから、あんまり無茶なことしにくいじゃん」
熊田はそう言いながら膝立ちになった。
ペニスが口から抜けてしまい、新穂も熊田に合わせて身を起こす。
「ほら、ちゃんと咥えて」
熊田は腰を動かしてわざとペニスをぶらんぶらんと揺らした。
「ぁ、はっ」
新穂は舌を出しながら揺れるペニスを追いかける。
そして口に咥えこむと、またじゅぽじゅぽと頭を動かしてしゃぶるのを再開した。
熊田は口の端を上げながら、必死でフェラをする新穂の頭を掴む。
「もっと喉奥まで咥えてよ」
「んんっ!!」
熊田は腰を突き、新穂の喉奥までペニスを突っ込んだ。
呻く新穂を気にせず、熊田は頭を抑えつけながらガンガン腰を振る。
「あー、最高、一回やってみたかったんだよね、イラマ」
「んっ、んんっ、おっ、んごっ、んぉっ」
新穂は喉の奥をごんごん刺激されて、目に涙を浮かべた。
苦しさに吐きそうになるが、自分の口を大きいペニスで犯されていると思うと体は熱くなり手は自分のペニスを擦ってしまう。
熊田がまるで、オナホを使っているかのような激しいスピードで腰を振るのに合わせ新穂もペニスを擦ると、くちゅくちゅといやらしい音が激しく鳴った。
「イラマされて泣き顔晒してるくせにオナってるとか、本当に変態なんだね新穂くんって」
「んっんんっんんん〜〜〜っ!!」
新穂は雑な扱いにも単純に興奮して、そのまま射精してしまった。
新穂の精液が、熊田よりも先にシーツを汚す。
熊田は新穂がイってしまったことに気付いて、口からペニスを抜いた。
「あれ、何、イッちゃったの?だめじゃん、俺の処理なのにさぁ」
新穂は咳き込みつつ、熊田を見上げた。
「す、すいません、俺、すぐイッちゃうんッス…」
「べつにいいけどさぁ、俺よりイッてたらどっちの処理してるかわかんないよね?ちゃんとしてくんないと」
「す、すいません、次はちゃんとするんで…っ」
新穂は慌てて体勢を変えた。
四つん這いになりながら、熊田に見えるように尻を突き出す。
「俺の穴で気持ち良くなってください…っ」
新穂は必死だった。
巨根の熊田に早く挿入して欲しいことももちろんあるが、司以外の社員の処理は久しぶりなのだ。
どうにかして次も呼ばれたい、いい思いをしてもらって誰かに自分の話を広めて欲しい。
そんな思いで新穂は意気込んできた。
「熊田さん…っ、俺の雄まんこ…、熊田さんのおっきいちんぽの性欲処理に使ってください、お願いッスぅ…!」
いやらしく尻を振りアピールする新穂を見て、熊田はため息をついた。
熊田はしつこい男だ。まだ挿入する気はさらさらなかったが、新穂の熱意に圧倒された。
「そんなに言うならハメてあげるよ、その代わり、俺より先にイくんじゃないぞ」
熊田はそう言いながら、新穂のアナルへペニスを挿入した。
新穂は挿入される感覚にゾクゾクと震えながらシーツをぎゅっと握る。
「あっ、ぁっ、き、たぁ…っ!熊田さんの、でかちんぽぉ…っ!」
「ほら、あんまり締めつけないでよ。全部入んない、」
「あっ、はぁっ、はぁ…っ、もっと来るのっ、やばいぃ…っ」
熊田のペニスは、新穂が今まで処理したことがある男の中では一番大きいと思われた。
熊田は新穂の腰を掴み、呼吸を乱す新穂に遠慮なく大きなペニスをぐんぐんと奥に挿入していく。
「あっあぁ…っ、すご、ぉ…っ、はぁっ、はぁっ、俺の中…っ、熊田さんのちんぽでいっぱい…っ」
熊田は根元まで挿入すると、ゆっくりペニスを抜いていく。
隙間なくみっちり埋まっているペニスが抜けていく感覚に、新穂は震えた。
「ひゃっあっあぁっめくれちゃうぅ…っ!」
熊田は全て抜けきる前に、またぐんっと奥に挿入する。
「あぁぉんっ」
ペニスに圧迫されて新穂は呻くように喘いだ。
「締め付けはいいけど…、」
熊田はまた引き抜いてぐんっと奥を突く。
「あぁあっ!」
「色気がないよねー、新穂くんって」
グチュッパチュッパチュッヂュクヂュクッパチュンッ
「あっあぁっ!あんっあぁっ!」
「その点雪村ちゃんはさぁ。色気があって堪んないよ、体も最高だし、喘ぎ声も可愛いし」
ゴリュッゴリュッゴリュッパンッパンッパチュンッパチュンッ
「ひっあっあっ、あぁあっごりごり抉るのいぃ…っ」
「君人気ないんでしょ?そこじゃない?人気な雪村ちゃんとの違いってさ」
新穂は喘ぐことしか出来なかった。
自分も尊敬していて大好きな雪村の話はもちろん同感で、張り合おうなんてことは思えない。
元々熊田は雪村指名だったのだし、雪村以外の者が相手なら新穂でなくてもきっとこんな調子だったに違いない。
新穂の仕事は社員の性欲処理。何を思いながらされようが処理さえしていればいいのだ。
「あっあぁっ熊田さんのちんぽぉっあっあっおっきいのすごいよぉ…っまんこきゅんきゅんするの止まらない…っあぁんっあっあっあんっ」
「気持ちいいけどなぁ…、なんだろ、気が乗らないってやつかなぁ。全然イける気しないや」
熊田はそう言いながら腰を振り続ける。
「はっあっあっ、お、俺ぇ、大丈夫ッス…、ちんぽでっ、あっあぅっガン掘りされるのっあぁあっ好きだからぁっあっぁんっ!ずっとちんぽハメててもっ大丈夫ッスぅ…っ!」
「大丈夫…、ってさぁ。そーじゃないよね」
熊田は思いきり奥を抉るように突いた。
「あぁあん!」
「イかせることが仕事でしょ?何がずっとハメても大丈夫なんだよ。ちゃんと仕事しろって。君が自身あり気に言うからハメてあげてんのに…」
熊田はそう言いながら、新穂のアナルに収まっていた自分のペニスをずりゅっと抜いた。
「あっあぁ…っ、や、ちんぽぉ…っ」
新穂は抜けてしまったことに焦り、慌てて熊田の方へ向き直った。
熊田は少し不機嫌そうな顔で新穂を見ている。
「ご、ごめんなさい熊田さん…っ、で、でも俺、どうしても熊田さんに気持ち良くなってもらいたいッス…」
新穂は涙目で熊田を見つめた。
「な、なんでもするッス…、熊田さんがしたいこと、なんでも…っ!ゆ、雪村さんには出来ないことも、俺にはやってもらって大丈夫…、だから…っ、お、怒らないでほしいッス…」

新穂の必死なおねだりで熊田が妥協し、やらせた処理は結局イラマチオだった。
仰向けに寝転んだ新穂の顔の上に跨がった熊田は、巨根を新穂の口にはめて、無遠慮に出し入れを繰り返した。
新穂は苦しさに涙も鼻水も垂れ流して、ひたすら口で熊田のペニスを受け止めた。
遅漏の熊田が新穂の口や顔に精液を放ったのは、イラマを初めてから四十分以上経ったあとのことで、その間新穂の勃起したペニスや疼いているアナルが触られることはなかった。

熊田が呼び出した仮眠室にはシャワーが設置してあり、先に浴びた熊田は新穂を置いて出て行ってしまった。
新穂はその後シャワーを浴び、精液が喉にひっかかっているため何回もうがいをした。
「熊田さん…、イッてくれて良かったなぁ…」
新穂は熊田の性欲処理が出来たことにほっとしていた。
「やっぱりおっきいちんぽは雪村さんの所に集まっちゃうんッスねー雪村さんのことめちゃくちゃ褒めてたし…。さすが雪村さんッス!」
新穂は体を拭きながら雪村の凄さを改めて再確認する。
「……………、」
ふと、新穂の頬が滴で濡れる。
新穂はそれをタオルで拭いた。
「……俺も…、誰かに褒められたいッス…」
その場にしゃがみ込んだ新穂は、タオルに顔を埋めた。
ふと頭に浮かぶのは司の顔。
新穂は司よりも熊田を選んでここにいることを思い出した。
「俺、バカだったッス…」


綺麗なワイシャツに着替えた新穂は社長室へ向かった。
司がいることを望みながらエレベーターに乗る。
どんどん上に上がっていく階数を見つめながら、司に想いを馳せた。
社長室がある階まで上がると、扉が静かに開く。
すると扉の前には朝比奈が立っていた。
「あ、朝比奈」
「…………」
朝比奈は静かに新穂を見つめた。
なぜ朝比奈がここにいるのか、新穂はその疑問をいだいてすぐに、司の言葉を思い出す。
『一回会ってみたいな、新穂くんの後輩ちゃんに』
「あ……」
司と会っていたのだ、そう理解した新穂は不安そうに朝比奈を見つめた。
しかし司の相手をしたのかどうかということは、なぜだか聞けない。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……帰りたいんだけど」
口を開いたのは朝比奈だった。
「ぁ、っ、ごめん…」
新穂は慌ててエレベーターから出る。
朝比奈はそれ以上何も言わずエレベーターに乗り、帰って行った。
「………」
新穂はエレベーターから社長室の扉の方へ目を向ける。
その目は不安に潤んでいた。
司は自分でなくても別に良いのか。
そう思うと胸が苦しくなった。
熊田がずっと雪村のことを支持していたように、司も自分だけを見ているのではと、新穂は思っていた。
唯一自分を可愛がってくれる人物だと、思っていたのだ。
「………………うぅ…っ」
新穂の視界が滲み始めると、そっと社長室の扉が開いた。
「あれ?新穂くん?」
出てきたのは司だった。
新穂は司の顔を見た途端にぼろぼろと涙を溢す。
司は驚いて新穂の傍へ寄った。
「ど、どうかした…?」
「つ、司さ、俺…っ、もう俺のこと、飽きちゃったッスか…っ?」
「え?」
「おれ、さっき処理してきたんッス…っ、でも全然上手くいかなくて、っ、」
新穂は鼻をすすりながら必死で司を見つめる。
「や、やっぱり司さんじゃないとって、思って…っ!でも、今、あ、っ、朝比奈と、擦れ違って、…つ、司さんは、俺じゃなくても、いいんスか…っ?もう、俺のこと、呼んでくれない…っ?」
「新穂くん、」
喋りながら新たに溢れ頬を伝う涙を、司は優しく指で拭った。
「泣いてる顔も可愛いけど…、悲しんでるところは見たくないなー」
司は新穂に微笑みかける。
「朝比奈くんとは、会ってただけだよ。君の後輩に会ってみたいって、昨日話したろ?たまたま廊下で見つけて…、サボりたいって言うからここに連れてきたんだ」
「え…?」
「朝比奈くんとは何もしてないから、安心して」
司の笑顔と言葉に、新穂は不安でいっぱいだった胸をそっと撫で下ろした。
「ほ、ほんとッスか…?」
「うん」
「っ、ふあああーーっ!」
新穂は事実を確認すると一気に力が抜け、思わず雪崩れるように司に抱きついた。
「良かったッスーーー!俺、捨てられたかと−!」
「捨て…っ?はは、まさか」
司は新穂の頭をぽんぽんと優しく撫でる。
「俺が好きなのは新穂くんだけだよ」
新穂は司の服をきゅっと掴んだ。
「嬉しいッス…!俺、ほんとに…っ!」
「…こんなことなら…あの時強引にでも連れ去ったら良かったなぁ」
今朝会った時のことを思い出して、司はしみじみと呟く。
そして自分の腕の中にいる新穂に目を向けた。
「今からあの部屋行く?」
司の誘いに、新穂は何回も頷く。
「行くッス…!」
二人が顔を合わせお互い笑顔を向ける。
その時、二人の後ろにあるエレベーターが上がってきて、ゆっくりと扉が開いた。
新穂と司はそっと腕を離しながら、扉の向こうにいる人物に目を向ける。
下りてきたのは、司の父である社長と、秘書の如月だった。
社長は新穂と司の顔を見て口の端を上げる。
「やぁ、こんなところで。相変わらず仲が良いようだ。お邪魔だったかな」
司も社長に笑顔を向けるが、そこには警戒が見え隠れしていた。
「いや、すぐお暇するよ。こっちこそ邪魔したね」
司はそう言って新穂の手を掴み、入れ違うようにエレベーターに乗り込む。
「そうそう、前から言おうと思っていたことがあるんだった」
「え?」
司が階数のボタンを押すよりも早く、社長が声をかけ呼び止める。
社長は振り返って司を見つめた。
「君は次期社長かもしれないが、今は社員ですらない勉強の身だ。部外者が処理課に仕事を頼むのはやめてくれよ。規約違反だ。私の息子だからと言って好き勝手されるのは困る」
「……………」
社長の言葉に、新穂は不安げに司に目を向ける。
司は苛つきを表に出しつつ、それでも笑ったままエレベーターの扉を閉めた。
「あのおっさん…、今までなんとも言って来なかったくせに…」
司はそう呟きながら新穂を見る。
新穂はすぐに不安を口にした。
「お、俺、もう…、司さんと一緒にいられないんッスか?」
「まさかぁ…。あの人どうせ思いつきで喋ってるだけだから、あんまり気にしなくていいよ」
「でも…」
「まぁ正論っちゃあ、正論だけどね。しばらくはあのベッドを使えそうにないなぁ」
司はそう言ってため息をつきながら笑った。
社長専用のベッドは大きく、ふかふかで気持ちの良いものだった。
二人はそれを思い出しながら名残惜しい表情をする。
「また今度…。あの人がいない時にしようね」
司はそう言って新穂の手を優しく握った。
新穂はそっと握り返す。
掌に伝わる体温が一気に全身へと駆け巡ったかのように、新穂の顔は赤く染まっていた。
「…………」
どうかこのまま、誰も途中で乗り込まず、二人だけでこの密室にいられないかと、新穂はそっと心の中で願ったのだった。

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