in ニューヨークA


夜、常磐は久遠を行きつけの店へ連れて行った。
「せっかく来たのに、社長とディナーじゃなくていいのか?」
目の前でニョッキを食べている久遠を見ながら常磐は言った。
「ああ」
「薄情なのはあのおっさんだろ。呼んどいて処理しかしねぇなんてよ」
久遠は社長と如月とのディナーに、実は自分も誘われていた。それを言わないのは、形だけの誘いだったからだった。
「ま…、処理するのが俺の仕事だからな」
「お前はそれで割り切れるのかよ」
「割り切った方がいいのはお前の方だろ」
久遠にそう返されて常磐は何も言えなかった。
想いを寄せてしまっている以上、久遠を処理課の人間として扱うことは出来なかった。


「土足じゃねぇのか」
常磐が自宅に入るなり靴を脱いだのを見て久遠は言った。
「靴履いてたら疲れるだろ」
そう言いながら常磐はスリッパを久遠の前に置いた。もちろん脱いで良いのならその方が久遠にとっても都合が良いので、とくに続いて文句は言わず、おとなしくスリッパに履き替えた。
「着替えとか用意しといてやるから、先にシャワー使えよ」
「おー、わりぃな、世話んなるぜ」
久遠はそう言って常磐に案内されるがままシャワー室へ向かった。
ザァザァとシャワーの音が聞こえる中、常磐は帰る前に買ってきた久遠の歯ブラシや、着替えを用意した。
脱ぎ散らかした久遠のスーツをハンガーに掛けて、ワイシャツや下着を拾い集める。
「………………」
常磐は頭を抱えた。
想い人とは言え同じ男の下着にはさすがに興奮はしないが、その男が自分の家でシャワーを浴びているのだと思うといけない気持ちにならないわけではなかった。
しかもその男は今夜泊まっていく。
平常心で居ろと言われれば居られるが、悩ましいことには変わりなかった。
「全部あのおっさんの気まぐれのせいだ……」
常磐は小さく呟いた。

どうにか落ち着こうとしている常磐は、シャワーを浴び終えた久遠によりまたしても心を乱されてた。
いつも綺麗に整えられてセットされている久遠の前髪は下ろされ、いつも見えている額を隠している。
あ、可愛い。と少し幼い見た目になった久遠を見て常磐は素直にそう思った。
それに久遠が自分の部屋着を着ていることも、常磐の心臓を直接狙い撃ちした。
「じろじろ見てんじゃねぇよ糞」
見た目は幼くなったのに、口は悪いままだった。
「…はいはい」
常磐は目に毒なので、久遠と入れ替わるように自分もシャワーを浴びることにした。
「寝たきゃ寝てろよ、ベッド使っていいから」
「お前は」
「ソファで寝るからほっとけよ」
「……………」
久遠は、なんだかんだ文句を垂れつつもニューヨークに来てからずっと面倒を見てくれている同期の背中をじっと見つめた。


常磐はシャワーを終えた後、久遠の様子を確認しに部屋へ向かった。
扉を開けると、ベッドの上にいた久遠が反応する。
「なんだよ、寝てねぇのか?」
「寝てたらなんだよ、夜這いでもする気だったのか?」
「黙れよ恩知らず」
常磐は睨むが、久遠は表情を変えずに常磐を眺めた。
「恩はちゃんと返すつもりだっつーの」
「はあ?」
久遠は自分の隣をぱんぱんと叩いて、常磐もベッドに来るよう呼んだ。
「なんだよ……」
何をされるかわからないまま、常磐は久遠の隣に腰を下ろした。
「抜いてやるよ」
久遠は常磐が隣に座った途端にそう口にした。
常磐は言葉が出ず耳を疑いながら久遠の顔をじっと見る。
常磐は何も発言していないが驚いているのが久遠にはすぐわかった。
「どうせこっち来て溜まってんだろ?」
「……………」
もちろん、常磐は日本にいた頃は久遠に処理をお願いすることもあった。
しかし今日この場でしてもらうことは、いつもと同じではない。
「お前…、俺のこと馬鹿にしてんのかよ」
「はあ?」
「なんであのおっさんと同じことしなくちゃいけねぇんだよ、大体お前だって社内じゃないんだから処理なんかしなくたっていいだろ」
「だからサービスしてやるって言ってんだろ、ぐだぐだカッコつけてねぇで、さっさと糞ちんこ出せよ」
素直にしない常磐に対して久遠も苛ついたが、常磐も久遠に苛ついた。
「お情けなんていらねぇし、」
常磐はそう言って久遠の肩に手を掛けると、そのままベッドへ押し倒した。
「言ってることとやってることがちげーぞ!」
「抜いてもらわなくったっていい、俺がお前を抱く」
「………………」
そう言って見つめてくる常盤の顔は真剣だった。
久遠は迫ってくる常磐の顔を手で思い切り押し退けた。
「ふざけんな糞が!!!」
「い゙てててて、首取れる!」

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