東雲


東雲は嫌気がさしていた。
自分のことを実質永久予約をしている藤里に愛想を振りまくのにはもう疲れたし飽きていた。
藤里が毎朝飲むコーヒーに下剤を大量に混ぜては腹を下させ休ませるという作戦をたまに実行していたのだが、今日も早速その手を使い、朝から処理課の自分の席でゆっくり時間を過ごしていた。

「あっあんっだめっ雪村さんっまだ抜いちゃだめぇっ!」
「お前なぁ俺はただ慣らしてるだけなんだからな、人の指を勝手に性欲処理に使うな」
新穂の朝の準備に手伝わされている雪村が文句を言っている。
「あーん、だってぇ、雪村さんの指長くて気持ちいいんッスよぉ…っ、あ、そこぉ、ぐちゅぐちゅしてくらさいっ、イけそお……っ!」
「お前なぁ、いい加減にしろよ本当に」
「雪村さんってば処理課の人気者なんでしょ!俺の処理もして欲しいッス−!お願ぁい!今日の雪村さんの一番目俺にしてくださいよぉ!」
尻を振りながら雪村にアピールする新穂だが、雪村は新穂の尻をぱちんぱちんと叩きながら怒っていた。
「処理課員が処理頼むなんておかしいだろ!」
「べつに出来るぞ」
雪村と新穂の掛け合いに、話を聞いていた久遠が入った。
二人だけではなくその場にいた処理課員が久遠に目を向ける。
「処理課員だって社員だからな。処理課に処理の依頼をするのは問題ないんだぜ」
久遠の言葉に新穂は目を輝かせる。
その隣の雪村は余計な情報だと嫌な顔をする。
しかしこの言葉に喜んでいるのは新穂だけではなかった。
東雲もかなり衝撃を受けた。
そう言われれば当然なのかもしれないが誰も試していない上に考えもしなかった。
陰ながら久遠にずっと想いを寄せている東雲にとっては喜ばずにはいられない話だ。
「ま、そんなこと頼む奴なんて……」
笑っている久遠は自分に伸びてきた影に気付いて言葉を止めた。
東雲が立っている。
「では課長…、今後の勉強のためにも、お願いします」
真剣な表情をしている東雲に、久遠は今更引ける話ではないと悟った。
そして東雲の想いに気付いている周りの処理課員は、心の中で静かに祝福した。


東雲は久遠と、あまり使われていない古い仮眠室へと移動した。
誰かに見られて騒ぎになっても嫌だったからだ。
東雲をベッドへ寝かせて、久遠は頭をカリカリ掻きながら見下ろした。
「俺が言い出したものの、こんなこと初めてだからなぁ。どうしたらいいかわかんねぇな」
そう言いながら久遠もベッドに上がる。
体重がかかりベッドが軋む音すら、東雲を興奮させる。
東雲は心臓が飛び出すのではと思うくらいドキドキしていた。
久遠とふたりきりだというだけで緊張するのに、今から久遠が処理をしてくれるのだ。
東雲はずっと妄想し続けたことが現実となることに期待と恐怖を抱いていた。
「どうして欲しいんだ?」
久遠はどうしたらいいのかわからず戸惑いから単純に質問しただけだったが、東雲にとっては羞恥プレイをされるような感覚でその言葉を受け止めた。
「く、久遠課長の…、す、好きにしてください…っ」
東雲は顔を真っ赤に染めて、か細い声でそう伝えた。
「んー…、わかった、」
久遠はそう言って、東雲の首筋にキスをした。
「っ!」
東雲はびくっと反応する。
「嫌だったらすぐ言えよ」
「そ、そんなこと……っ」
あるわけがなかった。
久遠に触られることをずっと望んでいたのだ。
今夢見た世界がリンクしようとしている。
久遠は優しく東雲の肌にキスをしていった。
ワイシャツのボタンを一つずつ丁寧に外していく。
久遠は自分もそうだが、東雲も体を愛でられる側なので、そう扱おうと決めて手を進めていた。
とにかく自由に喘がせて、気持ち良くさせることを考えた。
「あっ…!はぁ…っ」
東雲の乳首を久遠は優しく甘噛みする。
舌で転がすように舐めると東雲の体はびくびくしていた。
すでに東雲のペニスは勃起している。
想いを寄せる久遠に触られているのだから当然だった。
胸に目を寄せると、自分の乳首を舐めている久遠が見えて東雲は頭をクラクラさせた。
「ぁん…、あっ、はぁん…っ」
久遠はちゅっと乳首にキスをしてそっと離れる。
なぜやめてしまうのかと目で追うと、久遠はサングラスに手をかけて静かに外した。
東雲は改めて久遠の顔の美しさを知る。
長い睫毛は瞬きすら華麗に見せる。
「…かちょ…きれい……」
ぽーっと見とれながら呟く東雲に久遠は笑う。
「お前の方が綺麗だろ」
「え」
「どうした?茹で蛸みたいになってんぞ」
憧れの久遠に綺麗だと言われて東雲は顔を真っ赤にした。
褒められた喜びに舞い上がりそうなのに、久遠が笑顔を向けるので東雲の心臓はもたなかった。
久遠は汗ばんだ東雲の肌に舌を這わせる。
家族のように大切にしている自分の部下の体を愛でるというのは久遠にとって少し複雑ではあったが、毎日藤里のような男の相手しか出来ない東雲の不幸を思うと、自分が役に立てるのであれば東雲の望む通りにしてあげようと思ったのだった。
東雲のペニスは久遠に触られる悦びを感じて勃ち上がり濡れていた。
辛そうにひくひくしている東雲のペニスを見て、久遠は長い指でそっと握る。
「あっ…!」
久遠の手でペニスを擦られて東雲はぎゅっと瞑っていた目を開いた。
ローションも使っていないのに東雲のペニスはぬるぬるで、久遠の手がよく滑った。
くちゅくちゅ音が出て、東雲は恥ずかしさに震える。
「あっあっ課長ぉ…っあんっあんっあぁんっ」
東雲は目の前がチカチカしていた。
そして心の中が満たされる。
初めての感覚であった。
好きな人に触って貰うことがこんなにも嬉しく幸せであることを、東雲は今まで知らなかった。
久遠にペニスを扱かれているだけなのに、東雲はもう果てそうだった。
「あっあんっ課長、だめですっあぁんっもぉ、イッちゃう…っ!あぁんっ止めてぇ…っ」
「イッていいぜ、処理なんだから」
久遠が指の腹で東雲のペニスの先端をくりくり弄る。
東雲は涙を浮かべながら喘いだ。
「ひっひんっ、だめっだめです…っ!あぁっイッたら、終わっちゃう……っ!あぁん…っ」
東雲は久遠と二人の時間を終わらせたくなかったのだ。
自分が射精したら終わるのだと思い焦っていた。
そんな東雲を見て久遠は優しく笑う。
「べつに終わりにしねぇよ。お前が満足するまで処理してやるから、構わずイけよ」
「かちょ…っ」
久遠の優しさに東雲は泣きそうだった。
そして安心した途端我慢しようとしていた射精感が押し寄せる。
「あっあっイッちゃ…、あぁん課長っ課長…っイッちゃう…っ!あぁあっ!」
東雲はびくびくしながら射精した。
久遠の手にびゅるびゅるかかる。
「っ…はぁー…っ、はぁー…っ、」
東雲はぽろぽろ涙を溢しながら息を荒くした。

「気持ち良かったか?」
久遠に言われて東雲はこくんと頷いた。
「そりゃ良かった」
「…あの、手…汚して、すいません……ティッシュ…」
久遠の手を拭こうとティッシュを探す東雲を見て久遠は大丈夫大丈夫と言葉をかけた。
「舐めときゃいいから、」
「え」
久遠はそう言って自分の手にかかった東雲の精液を舐め取った。
東雲の顔がまたぼんっと赤くなる。
「そ、そんなことまでさせるわけには…っ、ほ、本当に申し訳ありません…ぅ!」
「気にすんなって、それよりほら、寝てろよ」
身を起こした東雲を久遠はまた寝転ぶように体を優しく押した。
「こっち、弄ってやるから」
久遠はそう言うと、東雲のひくついているアナルへ指を挿入した。
「あっ!う、そ、課長…っ!」
まさか自分のアナルまで弄ってくれるなんて東雲は予想外なことに驚いた。
長い久遠の指で中を掻き回されたいと何度望んだかわからない。
藤里のような野暮ったい手ではない、久遠の綺麗な指が抜き差しされているのかと思うと、射精したばかりの東雲のペニスはまた熱を持ち始めた。
「あっあっあんっかちょ、あんっ課長ぉ…っ!」
「やっぱ一本だけじゃ足りねぇか…」
ペニスを挿入されても大丈夫なように慣らされているアナルは久遠の指をもっと受け入れることが出来た。
久遠は二本挿入していく。
ぐちょぐちょ掻き回すと東雲はアナルをべたべたにしながら喘いだ。
「ひぁっあっ!あんっ課長の指っあはぁん気持ちいいっあはぁんっ」
久遠は探りながら見つけた東雲の前立腺を指でこりこり押す。
「あぁあっーあっあっあはぁんっ!そこっそこだめっあぁあんっ!」
東雲はシーツをぎゅっと握った。
久遠にしてもらっているという精神的な快感と、実際に感じる場所を攻められる快感の両方が東雲を襲う。
「ひっひんんっやぁんっあっあっそこっそこっあぁ〜〜っ!あんっあぁんっ!課長ぉ…っ!」
乱れてひくひくしている東雲を見て、久遠はとことん甘やかそうという気になる。
また勃起している東雲のペニスを空いてる手で擦った。
「ひゃぁあっ!」
同時に攻められて東雲は驚く。
ただでさえ感じているのにそれが上乗せされるのだ。
東雲は襲いかかる刺激をむしろ恐怖だと感じてしまうほどだった。
「あっあっ課長っあぁっまた、またキちゃ…っあぁあんっひぃんっんぁっあっあぁんっ」
普段こんなに早く射精してしまうわけではなかった。
藤里との処理ではイけずに自分で扱いてごまかしながらする時だってある。
久遠のテクニックはもちろん、また想いを寄せる久遠だからこそ、東雲は全てが快感に感じてしまうのだった。
「課長、課長…っ、もぅ、あっあんっおちんちんっいいです…っあぁんっ触らないでぇ…っ!あぁんっおかひくなっちゃう…っ!」
「ここだけでいいか?」
久遠は東雲が嫌がることはしたくなかった。
ペニスを擦るのをやめて、東雲の穴の中をぐいんと円を描くように掻く。
「あっあんっお、ねが…課長…っ、あんっひとつだけ…っあはぁんっ、お願いして、いいれすか…っ?」
「うん。なんだ?」
東雲は目をうるうるさせながら優しい表情をしている久遠を見つめた。
「き、キス…っ、ぁぁっ、キスして…っ、くれませんか……?」
「え?」
そこまで贅沢を言って良いものか、東雲は久遠が嫌な顔をしないか不安になりながらも一生のお願いをした。
「ごめんなさい…っ、あ、あ、い、一回だけで…っ、いいんです……っ、それ以上、は、望まない、から……っ」
なんていじらしいのか、と久遠は思った。
周りの人間は自分の欲や煩悩のままに動いているのに、その捌け口とされる処理課員は全てを我慢して、やっとの思いで伝える欲は小さな事である。
可愛く思っている部下の切実な頼みを断る選択肢などはなかった。
久遠は東雲の顔にそっと寄り、愛しい言葉を紡ぐ唇へキスをした。
「ん、」
久遠の唇の柔らかい感触が伝わったと思った途端離れていく。
「あ…」
東雲が久遠の目に視線を写すと、息をする前にまた久遠の唇があたたかさを伝えるように優しくキスをする。
「ん…、ふ……、っ、か、ひょ……、んんっ」
何度も柔らかく甘いキスを繰り返した久遠の舌が、急に口内に侵入する。
途端に愛しさを感じるキスから激しく熱いキスへと変わり、東雲はシーツを強く握った。
口内を舌で、アナルは指で暴れるように掻き回され、東雲の頭はぼわっとした。
「んっ、んん、ふ、ぅん…っんんっ」
一回だけでいいと頼んだキスを何回も何回も繰り返してしてくれる久遠の優しさに東雲は胸を熱くした。
快感は波のように押し寄せるが引いていくことはない。
「っ、っ、ん、ん〜〜〜〜〜っ!」
東雲は悦びに満たされ、口を塞がれたまま、射精した。
かたく瞑られた東雲の目から流れ星のように涙が横に伝ったのを、久遠は見逃さなかった。


「あの……課長、ありがとうございました」
仮眠室から出ようとする久遠の背中に東雲はベッドの上から声を掛けた。
「いーや、あんなんで良けりゃ、いつでもしてやるぜ」
久遠は振り返って笑顔を見せてくれたが、東雲はその言葉にもう甘えてはいけないと思った。
好意を寄せている人間と愛を通わすことが出来ないために、処理という建前を利用して自分自身の欲望だけを満たすこの行為を、一番に嫌っていたのは他の誰でもない東雲である。
毎日毎日藤里のような男の相手をさせられ反吐が出る思いでいたのに、その男と同じことをしてしまったこと。
一瞬の快感のために切なくも美しかった自分と久遠との間にある見えないものを汚してしまったこと。
東雲はすぐに後悔し、嫌悪した。
「すいません……、課長、僕……、僕は……、」
「しの、」
久遠は東雲の言葉を遮った。
ベッドに戻り、東雲の白い頬を手で撫でる。
「自分を大切にしろよ」
「…課長、」
「お前は頑張りすぎるから、」
「………、」
「無理するなよ」
久遠の手のあたたかさを愛しく思う頃に、それはすっと離れていった。
先に戻ると言った久遠は、今度こそ仮眠室から出て行った。
扉の閉まる音や久遠の足音を聞きながら、東雲はベッドへ倒れこんだ。
今気持ちの整理は出来そうになかった。
無理をさせてしまったのは自分、最低な自分、藤里と同類になってしまった自分、汚い自分。
そんな自分を大切にしろと言われて東雲はどうすればいいのかわからなかった。
自分がしたいことを素直にすれば、どんどん汚れていくというのに、我慢をすれば現実に押し潰されそうになってしまう。
「課長……、好きになって、ごめんなさい……」
止まらない自己嫌悪の中、それでも押し退けて欲望は存在を露わにする。
二人の時間を望み、叶えば触れられることを望む。
これさえ叶えば本望だと思っていた願いは、成し遂げた途端に新たな欲望を生み出していく。
出来るならば今度は触れたい。
貪欲な自分の醜い欲望に、東雲は涙を流す。
どうしてこんなに汚れてもなお、恋というものは、熱を持ち激しく燃えるのだろうと、胸の奥を締め付けた。

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