復讐娼年@


俺が七歳の時に父親は死んだ。
残された母は、俺と四歳の弟を食べさせるために朝から晩まで働いていた。
スーパーのレジ打ちやビルの清掃、工事仕事、スナック、キャバクラ。
何回か仕事は変わりながらも、必ずどれかは掛け持ちしながら働いていた。
それでも俺が中学に行く頃になると、金がさらに足りなくなって、とうとう母は体を売り始めた。
化粧もしなかった母は、そのために安い化粧品を使って申し訳程度にめかしこんで、夜家を出て行くようになった。
母はどこから見ても苦労人だったが、時間がある時は俺たちのために弁当や夕飯を作ってくれていて、とにかく自分の生活を犠牲にしてまで俺たちをなんとか生かそうとしてくれていた。
ただ俺は、体を売って稼いだ汚い金で飯を食うということに嫌悪感があった。
何も気付いていない弟は母が作った飯を食べて嬉しそうにしていたが俺は吐き気すら覚えて、全部捨てていた。

母が死んだのは俺の中学校卒業式の日だった。
いつも通り狭いアパートに帰ると、母は六畳しかない狭い部屋で倒れていた。
首を絞められていて、青白い顔をしていた。
何も身につけず、全裸で、体中に赤い痕がたくさんあった。性器からは垂れた精液が乾いていた。
これは母ではないのではないか。
意外と冷静でいた俺はその可哀相な人間だったものを見つめた。
ヘソの横に小さなほくろが二つ並んでいる。
なぜか俺にも同じものがあって、紛れもなくそれは俺の母だった。

政治家の男が容疑者に上げられていた。
毎日のように母がいる店に来ては体を求め、仕事が終わってからも付きまとっていたようだった。
結構無理を言う男だったらしいが、通常よりも金を出してくれるため店側も、そして母も困りながらも無碍には出来なかったようだ。
体液も指紋も現場にはあったが、証拠不十分で男は起訴すらされなかった。
メディアでは男の名前すら上がらず、唯一取り上げたある雑誌の記者はその後名前が出なくなった。
早々に母が殺された事件の捜査は打ち切られて、真実は闇へと消えた。



「おや、今日は上玉だ」
金持ちの男が俺の隣に座り髪に触れる。
「君みたいな綺麗な子が、どうしてこんなことをしてるんだい」
「……お金とちんこが大好きだから。」
俺の言葉に男は悦んだ。


母も亡くし身寄りもない俺は、弟を食べさせるために高校には行かず働いた。
中卒の俺みたいな子供にまともな仕事などはなく、転々として最終的に体を売ることにした。
やはり母と同じようにするしか手はないようだった。

「あっあっ!あんっもっと、もっと突いて…っあっあぅっそこ、そこもっとぉっ」
「可愛い顔してエッチな子だ、最高だよ」
幸い母に似ていた俺の顔は高級志向の糞共に受けが良かった。
顔もほくろも、今の状況も、俺はとにかく母と似ている。
母よりも父に似た弟に、こんなことをさせるわけにはいかなかった。今後もあいつだけは苦労なく過ごして欲しいと思う。

「お金とちんぽ、どっちが好きなんだい?好きな方をあげよう」
男は俺の尻穴からちんこを抜いてふざけたことを言い出した。
「あんっ、抜かないで…っ、ちんこっ、ちんこの方が好きっ、だから早くっぐちゅぐちゅ掻き回してぇ…っ」
「あぁ、君はなんていけない子なんだ」
男はまた俺にちんこをハメた。
ガツガツ勢いと力任せに腰を動かし、俺の体に気を遣いもせず突き上げた。
「安心してくれ。君は可愛いから倍以上支払うよ」
「あぁんっあんっあっあっイクっイクぅっ!ちんこ良くてイッちゃうぅっ!」


「オエッ!ウッ!ケホッ、ガハッ!」
俺は洗面台にゲロを吐いた。
鼻の奥がつんとして鼻水まで出ている。
目が真っ赤になって涙がぼろぼろ零れてくる。
ああ喉の奥がイガイガする。
うがいをしてもまだ精液がこびりついているようだ。
身体中を洗っても、俺の身体は汚い。

ベッドの上には男が置いていった金があった。
俺はその金を手に取りぼおっと眺めた。
こんな汚い金。捨ててしまいたい。
なのに今月の弟の食費代を思うと、俺はそれを捨てるなんてことは出来なくて、震える手でポケットに入れた。
母もこんな思いをしていたのかと思うと、俺は胸の中が真っ黒になる。
女を捨てた母が、胃液を吐きながら体を張って稼いだ金。
そんな金で食いたくないなんて、俺は最低な奴だった。
いや、今も、俺は最低だ。


「そうだ、ちょっと君」
店の裏口から出ようとしていたところを、店員の男に止められた。
「明日接待の仕事があるんだけど来るかい。他の子たちも何人か行くんだけど」
「…………」
「お偉いさん方が集まるパーティーに華を添えるんだ。…まぁそんな綺麗な言い方してるけど、要はストリップショーしたり最終的には乱交パーティーって感じ」
俺が露骨に嫌な顔をしても店員は顔色一つ変えよえとしない。
まるで「明日の朝はフロアの掃除をしてね」と簡単なことを言うような顔と声で俺に非現実的な世界を紹介している。
「べつに強制じゃない。いかない子もいるよ。でも君、お金を稼ぎたいんなら行くべきだと思うよ。あそこにいるとお金に価値があるのかわからなくなるくらいだからね」

金がある奴のところに金は集まり、ない奴のところには全く集まらない。
世の中は本当に平等なのだろうか。


「兄ちゃん、俺な、テストの結果良かった」
帰るなり弟は嬉しそうにテストの答案用紙を見せてきた。
弟は家での娯楽がなにもない。
正確に言うとテレビはあるが、見ようとしない。
俺に気を遣っているに違いなかった。
また夜は俺がいないため、何もすることのない弟は読書代わりに教科書を読みまくっている。
弟の成績が上がるのは嬉しいが、表に見えていない弟の姿を思うと俺は何も出来なくなる。
「この成績だったら、難高にも行けるって…、」
進学校の名前を出して弟はとっさに口を閉じた。
その高校は私立だった。
普通の高校に進むよりもはるかに金がかかることを、弟は悟った。
「…兄ちゃん、俺も中学卒業したら、」
「難高目指すんなら、やっぱ塾は行かないとな」
「え…?」
弟が俺を見る目は困っていた。
こんな目をさせるわけにはいかないのに。
「心配すんなよ。今度兄ちゃんボーナス貰うんだ。塾なんていくつでも通えるくらいな」
俺の言葉に弟は小さく笑った。
「はは、そんなに通いたくないよ」
「あはは」
食費代だけじゃだめだ。
ちゃんと中学生らしく遊びもさせてあげたいし、塾に行かせて第一志望の高校に入れてあげたい。
それから大学も出て、いい場所で仕事をしてもらうんだ。
弟の人生を辛いものにはできない。
店員が持ってきた例の話は、思い出しただけで反吐が出そうだが、行くしかなかった。

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