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※鬼子番外
「そう…」
そう言った鬼は、とても嬉しそうだった
その微笑みが、とてもきれいだった
「ねえ…あなたはこの近くに住んでいるのですか?」
ふと、鬼が問うてきた
「はい、この近くの村に住んでます。あなたは?この近くの住人なのですか?」
「いいえ。…でも、この近くは昔住んでいたところに…似てる気がするの」
「…ふうん」
「あ。そういえば、まだ名前を聞いていませんね。よろしければ教えてくださいませんか?」
思い出したように言う彼女
また、優しく笑う
「丁、です」
本当は知らない人に名前を教えてはいけないけれど…彼女になら良いかな、と何故か思った
(まあ、丁は名前ではないので別に教えたって構いませんが)
「…!そう…」
丁
その言葉を口にすると、一瞬…本当に一瞬彼女の顔が歪んだ気がした
きっと彼女も“丁”の意味が分かるのだろう
ああ、嫌われただろうか
そう思うと、今まで悲しくも何ともなかった心が痛んだ気がして…
俯いて数歩後退する
すると、不意に温もりに包まれた
「え…?」
彼女に…鬼に抱き締められていた
彼女は何も言わなかったけれど
でも、自分を撫でる手付きはとても優しかった
今まで、自分を撫でてくれる者などいなかったから分からない
けれど何となく…何となく………
…母親がいたら、こんな感じなのだろうかと思った
「…あなたは」
「え…?」
「あなたは何という名前なのですか?」
「私の名前は_____」
彼女の名前は何だったか
容姿と同じように、とてもきれいな名前だったはずなのだが、今はもう覚えていなかった
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