あーあ。せっかく、バレンタインなのになぁ



誰もいない教室で溜め息を吐く



原因はあいつ



私の前の席のやつ。風丸一郎太のせい



わたし、あいつが好きだから…何度も何度も渡そうとしたけどさ

…渡せなかった


ほら、あいつ顔だけは良いじゃん?…いや、中身も良い奴だけどさ…


わたし以外にも、風丸にチョコ渡したいやつなんてわんさかいる


それはもう、わたしみたいな普通の子から、隣のクラスのすっごく可愛い子まで、たくさんの子が


そりゃあ、わたしはさ、渡したかったけど


どうせ、あの可愛いあの子達に勝ち目がないから



だから、渡さなかった



渡せなかった




「あーあ、勿体無いなぁ。せっかく作ったのに」



勿体ないけど、ポイしちゃおう


こんな気持ち、あるだけ無駄だもの


…さて!明日からは新しい恋でも探しましょうか


チョコは適当に、その辺の机の上にでも置いておく



…本当に捨てたら勿体ないからね



明日来た人に食べてもらおう。うん、そうしよう












side:風丸


「はあ…よりによって、これを忘れて帰るなんてなぁ」


教室のロッカーに入っていたそれらに溜め息を吐く


今日はバレンタインデー

俺が両手で持っているのは大量のチョコの入った紙袋



毎年この時期になるとチョコレートをたくさんもらえる



チョコレートは嫌いじゃない。流石にこんなにはいらないが


でも、嬉しくはない



だって本当に好きな人から貰っていないから



俺の好きな人は、俺の後ろの席であるなまえ



特に美人というわけでもないが、明るくて楽しいやつ


あの子からチョコレートを貰えるだろうかと、朝からそわそわしてしまった


…でも、結局貰えなかった


義理でも貰いたかった…なんて、贅沢な話かもしれない



でも、それでも本当に悲しかったんだ


それに加え、彼女は小さな箱…おそらくチョコの入った箱を持って、そわそわしていたんだ


きっと、誰か好きなやつに渡すために……


「はあ…」



また溜め息



幸せなんて、本当に逃げていってしまってるんじゃないだろうか。現に、失恋したようなものだし



重い紙袋を持ってドアへと向かおうとすると、机の上にあった小さな箱を見つけた


これは…



「なまえが、持っていたやつ…」



もしかして、なまえは誰にも渡さなかったのだろうか


だから、こんな所に置いているのか?



「いらないなら、貰っても…良いよな」



俺は徐に箱を開けて中身を口にする


生チョコだった



少し溶けていたけど、今まで食べたチョコの中で一番美味しいと思った







本命でなくても、義理でもなくても



彼女のチョコレートなら、何でも嬉しいと思った自分がいる






こんな自分を、彼女はいつか好きになってくれるだろうか