ありえない。

ありえないったらありえない。

「いつまでも、んな切れてんじゃねーよ」
「うっさいバカ。アホ峰」
「おいコラブス。いい度胸だな、あ?」

青峰は低い声を一層低くして凄んでくる。だが、私はそんなことお構いなしに、依然として、三角座りをしたまま、青峰に背中を向けてふくれっ面をしたまま。

青峰はなんだよ。生理か?なんてデリカシーのないことをぼやいている。

そう、この男は本当にデリカシーというものがないのだ。

この男は、先程、こんなことを言った。言いやがったのだ。

『おい、さつき。…あ。間違えた』

『わりーわりー。つい癖で。あ?…ぶっ、んなわきゃねーだろ。似てねーよ。お前とさつき全然似てねーもん。乳とか』

耳をほじくりながらアホ面をさげて、そうほざいた青峰に殺意を抱いた私を、 誰が咎められようか。

そんなこんなで、青峰と同じ部屋にいながらも、青峰と喧嘩してはや一時間。部屋はどんよりとした重い空気に覆われている。

青峰は私に話しかけるのをやめ、ちっと大きく舌を鳴らした。

青峰の横着な性格のことだ。今、私のことをめんどくさい女。だっり。なんて思っているだろう。

『大ちゃんね、昔は性格良かったんだよ』

記憶の中で桃色の女の子が形の良い唇に手をあてながら、クスクス笑う。
さつきちゃんと青峰の過ごした時間は私の何倍もあって、さつきちゃんは青峰が苦しんでいる間も中学時代から、ずっと、見限らずに傍にいてあげて。
私と青峰が過ごした時間より、何倍も、密度が濃い。

私は青峰が苦しんでいた時を知らない。ましてや中学時代の性格の良い青峰なんて。

私とさつきちゃんが全然違うのなんて、そんなの、知っているよ。
なんで、そんなこと、わざわざ言うの。
バカ。青峰の、バカ。

瞳が涙に覆われていって、視界が揺れていく。

すると、肩をぐいっと力強く掴まれた。痛いと言う暇もなく、強引に振り向かされて、後頭部に手を回されて、

目の前には獣のような二つの青い瞳。

「っ、むぐっ」

唇を無理やり押し付けられ、色気のない声が漏れる。そして強引に舌で口をこじ開けられ、冷たい舌が入ってきた。ぬめぬめとした感触が気持悪いと、確かに思ったのに。

「ふぅ…っ、ん…、は…っ」

徐々に、徐々に、官能的な熱を帯びていって。

リップ音というにはいやらしすぎる音をたてられて唇をようやく離される。青峰はいつの間にか私の腰に手を回していて、それがなかったら私は今上体を起こすこともできなかっただろう。青峰の腕の中でハアハア息切れしている私を見ながら、青峰は「えっろい顔」とにやっと笑って言う。

カァッと羞恥心が全身が包み込む。

「あ、あんたがっ、あんたが…急にこんなことしてくるから…!」

息を絶え絶えにしながら、やっとの思いで、そう言葉を吐き捨てる。

「しょうがねーだろ。お前には、ムラムラすんだからよ」

…あー。

お前にはとかそんな陳腐な言葉でほだされ、なんでも許せてしまう女は、冷凍食品なみにお手軽な女だと、思う。



あなたが私に期待しているすべて

「…嘘吐き…。マキちゃんにはムラムラしているくせに…」
「バッカお前、マキちゃんと自分を比べんなよ」
「やっぱり最低!いっぺんしね!!」





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