「…千鶴ちゃん、羅刹になっちゃったね」

「そうだね」

「そうだねって、あんた…。あんたがやらかしたんでしょうが」

私の白い目をものともせず、薫は、くくっと、とても楽しそうに喉で笑った。

「愛しい男と同じ体にしてやったんだ。感謝こそしてほしいね。…そうそう、」

薫は、くくく、と笑いながら肩を揺らす。

「あの時の沖田の顔、本っ当に最高だったなあ!あんな飄々とした奴でも、あんなに怒りで顔を歪ませるんだね!」

ああ、なんて面白いんだろう!

そう高らかに言うがいなや、薫は笑いが堪え切れなくなった様子で、盛大に噴き出してお腹を抱えて笑い出した。

あの時の、沖田総司の私たちを見る目は、憎悪、という言葉では納まりきらないくらい、憎しみに満ち足りていた。視線だけで人を殺すことが可能ならば、今この世に私と薫は存在していない。

それだけ、沖田総司は千鶴ちゃんのことが好きなんだろう。
あの人の彼女を見る目は、優しさだとか、愛しさだとか、そんなものを語っていた。彼女のことを大切で大切でしかたない、と思っていることは誰の目から見ても明白だ。

好きな人に、そんなふうに思われている彼女が、すごく羨ましくて、


(…そんなに愛されてるのなら、それくらいの不幸くらい、別に、いいじゃない)


最低なことを、思った。



「薫のせいで、私まで性格悪くなっちゃったじゃない」

と、私は唇を尖らして不平を零す。

薫はニタリと口角を上げて私を見た。

「じゃあ俺達、お似合いだね」

殴り倒したい。


愛という名の戯言におぼれろ


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