「…千鶴ちゃん、羅刹になっちゃったね」 「そうだね」 「そうだねって、あんた…。あんたがやらかしたんでしょうが」 私の白い目をものともせず、薫は、くくっと、とても楽しそうに喉で笑った。 「愛しい男と同じ体にしてやったんだ。感謝こそしてほしいね。…そうそう、」 薫は、くくく、と笑いながら肩を揺らす。 「あの時の沖田の顔、本っ当に最高だったなあ!あんな飄々とした奴でも、あんなに怒りで顔を歪ませるんだね!」 ああ、なんて面白いんだろう! そう高らかに言うがいなや、薫は笑いが堪え切れなくなった様子で、盛大に噴き出してお腹を抱えて笑い出した。 あの時の、沖田総司の私たちを見る目は、憎悪、という言葉では納まりきらないくらい、憎しみに満ち足りていた。視線だけで人を殺すことが可能ならば、今この世に私と薫は存在していない。 それだけ、沖田総司は千鶴ちゃんのことが好きなんだろう。 あの人の彼女を見る目は、優しさだとか、愛しさだとか、そんなものを語っていた。彼女のことを大切で大切でしかたない、と思っていることは誰の目から見ても明白だ。 好きな人に、そんなふうに思われている彼女が、すごく羨ましくて、 (…そんなに愛されてるのなら、それくらいの不幸くらい、別に、いいじゃない) 最低なことを、思った。 「薫のせいで、私まで性格悪くなっちゃったじゃない」 と、私は唇を尖らして不平を零す。 薫はニタリと口角を上げて私を見た。 「じゃあ俺達、お似合いだね」 殴り倒したい。 愛という名の戯言におぼれろ (3/8) 前へ* 目次 #次へ栞を挟む |