私の男の趣味は最悪だと、自分でも思う。


「千鶴のあの時の顔、本っ当に、最高だったよ。お前にも見せたかったなあ」

自分の妹が絶望に染まった顔を“最高”と形容し、喉を鳴らして笑う目の前の男(といっても、美少女といえる風貌)に私はほとほと呆れた。

「薫って性格本当に悪いよね。ねじまがってるっていうか」

「そりゃああんだけ虐げられたらこうもなるよ」

そして、薫は、まだ喉を鳴らして笑いつづける。

私と薫の関係は、幼なじみだ。かつて、私は南雲家に仕えていた。今、彼が生きているのは、私のおかげでもあると言っても、あながち間違ってない。南雲家に虐げられ、食事もろくに与えられていなかった彼を見兼ねて、私がこっそり食事を用意していたからだ。
何故、そんな危ない橋を渡ったのかと言うと、理由は至極簡単。
私は、薫に恋していたからだ。
そして、今も。

自分の趣味の悪さにため息をつき、それはそうと、と話を変える。

「この着物、どうする?」

私は、薫が女装していた時に着ていた、綺麗な着物に、視線を走らせた。

可憐な小花柄で散りばめられた着物。売りに出したらさぞかし高くつくに違いない(まあ南雲家のものだからね)。

「どこに売ろうか。できればぶんだくるだけぶんだくりたいよね。まあもともとの値段が高いだろうけど」

薫は、じっ、と着物に視線を注いでいた目を、不意に私に向けた。かわいらしい(本人に言ったら殺されかけるが)大きな瞳を向けられ、ドキッとする。

「それ、お前にやるよ」


「ああそう私にか…たしかに高く売れ…え?」

マヌケ面とはわかっていながらも、あんぐりと開いた口をなかなか閉じることはできなかった。

「いやいや、ちょっ、え、薫?あのね、そろそろ私達の旅費代とか尽きかけていてね?綱道さんもあの人馬鹿みたいに羅刹作るから資金が無くなりかけててね?」

「うるさいな。いいからやるっつってるんだから有り難くもらっとけよ」

それとも、何?

薫は不愉快そうな表情から一変して、口角を狡猾そうに上げた。

「俺が似合いすぎてたから、自分が着るの、億劫なわけ?」

ああ、本っ当。

私は男の趣味が悪い。






悪魔の虜となるか

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