君の声を教えてよ



青学に負けた帰り道。

「理恵、泣いてもええんやで」

不意に蔵が日常会話をするように、そう言った。

「は?」

何言うとんのこの人。
今日のバイキングも楽しみやなあって話から泣いてええんやで?にどうやったら飛ぶねん。

「意味わからん。ちゅーか私別に泣きたくないし」

私はマネージャーだ。
別に私が試合をして実際に負けを味わったわけではない。
厳しい練習に耐えて、実際に青学レギュラーと戦って、敗北したみんなに比べたら悔しさもまだマシなはずだ。

蔵は眉を下げ、少し呆れたようにふっと笑った。

「お前が泣くのを我慢していたら、俺らも泣きたくても泣けへんねん」

蔵がポンと私の頭に優しく手を置いた。温かくて大きな手。ラケットを握り締めてきたせいで、綺麗な手とは言えない豆だらけの固い手。

なんで、あんたはそんなに優しいんよ。

あかん、視界が濁ってきた。

「…っ、ぐすっ、ふぐっ」

そう思った時には涙がとめどなくこぼれ落ち始めた。

「…え!?理恵!?どしたんめっちゃ泣いてるやん!?」

「蔵リン女の子を泣かすなんて最低!」

「理恵どしたん!?腹壊したん!?」

「やばいなんか意味わからんけど俺も泣けるばい」

「もらい泣きしとる場合か!」

みんながわらわらと私と蔵に群がる。
私に掛けてくる言葉は、どれも私を心配してくれる言葉ばかり。

「なんでっ…ぐすっ、なんでぇ…!」

「え?なんて?」

小春ちゃんが手を耳の横に置いて、私の言葉をよく聞こうと耳を傾ける。

「みんな…っ、あんなっ、頑張ったのに…っ、なんでぇ…っ!」

空気がさっと変わった。
みんなは何も言わず、私の言葉だけが響いている。


「みんな、あんなっ、頑張っ…って、練習して…っ」

『今年は絶対優勝できるって!』

『せやな!金ちゃんも千歳もおるし!』

「おかしい…!こんなん、おかしい…!」

青学の皆さんやって、頑張って練習して、それで掴んだ決勝への切符やろうけど。

それでも、それでも。

私には、おかしく思えて仕方ない。


「…ありがとう」

蔵が私の髪の毛を優しく撫で、ぽつりと呟いた。


泣きそうな、声だった。





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