放送室から愛を叫ぶ



私の好きな人は何をするにしても速い。
走るのはもちろん、ペン回しでさえも。好きな音楽はラップだそうな。


「す、すみません、遅れました…!!」

それに対し、私は。
走るのも遅い。ご飯食べるのも遅い。ペン回し?できません。好きな音楽?バラードです。

「本っ間に、すみませ…っはあっ、はあっ」

「いや大丈夫やけど…。それよりも自分大丈夫か?息荒らすぎんで?」

忍足くんが「とりあえず座り?」と私に席に着くように促す。私は「ありがとう」とぜえぜえ言いながらノロノロと座った。

私と忍足くんは放送委員。何故かよく同じ当番になり、最初はなんてせわしない人なんやと思ってただけなのだが、なんか…いつの間にか…好きになってたというか…。ぎゃあああああ恥ずかしいぃぃぃ。

「佐藤先生至急職員室に来て下さい」

「いや忍足くん今のは別に至急ちゃうくても…」

「あ、またやってしもた!」

忍足くんは、あちゃーと脱色した髪の毛を掻き回す。そんな姿ですら輝いて見えるのだから私は相当な重症だ。

「ま、でも。なんでも速いことに越したことはないし!」

ニカッと無邪気に笑いのける忍足くんに、私はうまく笑顔を返せなかった。

ネガティブな私には、それは、なんでも鈍い私を否定しているような言葉に思えたからだ。

「そ、そうやな…」

ハハハ、と口角を無理矢理上げる。

本間私うざい。別に忍足くんは私の悪口言うた訳ちゃうやん。こんなんですぐ傷ついて。ナイーブ気取るなって。

…でも。

こんな鈍臭い女、忍足くんは好きにはならんやろうな。

「…え、ええええ!?吉野さん!?どどどどしたん!?」

「…へ、……。…ええええ!?」

何でもかんでも速い忍足くんは私よりも先に私の涙に気づき、何でもかんでも遅い私は、自分が泣いていることにすら気づくのが遅かった。


「どうしたん!?目ェ痛いん!?どっか悪いんか!?」

忍足くんはオロオロしながら、優しく心配してくれる。

ああもう、どうしてそんなに優しいんですか君は。
何でもかんでもテキパキ素早いし。
それに比べ、私は。


「…う゛あーっ!ごめんなさい!鈍くてごめんなさいぃぃ!のろすぎていらつかせていたらごめんなさいぃぃぃ!」
「へ、え、はあ!?」

「ごめんなさいごめんなさい!私もっと速くなるからぁぁっ!だから、だからっ」


嫌いにならんといて、


私は最後に、小さくそう泣き叫んだ。

忍足くんは目を見開き、口を半開きにしたまま黙った。そして俯いたかと思うと、次の瞬間。私は彼に肩を強く捕まれた。

「そんなわけないやろ!?」

忍足くんが大きな声を出すから、私はびっくりして彼の顔を凝視した。今までで一番近い距離にいる。前髪と前髪がもう少しでぶつかりそうな勢いだ。

「俺はなあ、吉野さんののんびりしている行動とか喋り方とかにな毎回めっちゃ癒されてんねんで!?遅いなりにも頑張って走っている時とかめっちゃ可愛い思うとるし…!ああもう!もう言ったるわ!様子見なんてもうやめや!」


好きです!!







私達はまだ知らない。

私がパニックになって泣き出したことや、忍足くんの告白が、オンのスイッチが入ったままのマイクによって校内に公開され、何ヶ月にも渡る冷やかしの種になることを。






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