スピードスター体験



「謙也って本間に足速いよなあ」

部活後、私は自然に素直な感想を漏らした。
だって残像あるくらいやもの。多分この世の中で一番忍者に近いのは謙也だろう。断言する。

謙也は「まーな」と胸を張る。財前くんが「キモ」と一言。
そして始まる謙也と財前くんの取っ組み合い。うん、もう慣れた。そしてちょっと負け気味な謙也を見るのも慣れた。

「いいなあ、速くて…」

取っ組み合いをぼーっと眺めながら、羨ましくて溜息をついた。
私は足がかなり遅い。50メートル11秒という平均よりもかなり下の遅さだ。
謙也に50メートル11秒ということを言ったら
『お前足の病気ちゃうんやないか!?』と本気で心配された。泣きたくなった。

「そんなに速くなりたいんー?」

小春ちゃんが私の溜息を聞き付け、くねくねしながらそう問う。私はこくんと頷いた。

「せめて一度でええから、謙也みたいなスピードで走りたいねん」

小春ちゃんはしばらく黙り込んだかと思うと「ええ考えを思いついたわ〜!」とテンションを急に上げた。

「けーんーや、くん!ほらちょっとおいで!」

「なんやねん小春!俺は今後輩に目上の者に対する指導を直々に「金色先輩、謙也さんさっさと連れてってください」

謙也はなんやとぉぉぉ!?と財前くんに目を三角にする。小春ちゃんがハイハーイと返事し、謙也の首根っこを掴んでズルズルと引っ張ってきた。

「あんなあ、理恵ちゃんがなあ、謙也くんくらい走りたいねんって」

そ、れ、でェ。
小春ちゃんは両手を組んで、可愛くポーズをキメた。

「謙也くうん、理恵ちゃんをおぶって全速力で走って?」

少しの間、場に静寂が漂った。

「おお、ナーイスアイデア!!」

私は小春ちゃんにグッジョブを突き付け、

「おおおまそんなんそんなん!!」

謙也は何故か顔を真っ赤にして狼狽した。

「あかん?」

「あかんっていうか…!」

「ケチやねぇ、謙也くんはぁ」

「小春おま…!俺の気持ちを知っていて…!」

「謙也今なんて?後半よく聞き取れんかった」

「理恵は聞かんくていい!」

謙也は顔を真っ赤にしたまま、ニヤニヤ笑っている小春ちゃんを睨みつけたり、私をチラッと見てはさらに顔を赤くしたり、火を見るよりも明らかなうろたえっぷりだ。


「やっぱ嫌かあ…」

そりゃそうやんな。
私、重いし。
第一、謙也やってそんなんめんどいやろうし。

肩を落とし、力無くつぶやく。

謙也はそんな私を見て、もっとあわあわうろたえ、そして。

「〜っ!やったるわドアホコノヤロー!!」

やけくそ気味に、叫びましたとさ。













「本間ごめんな謙也。重いやろ?」

「い、いや重いというよりも…!あ、前屈みにはなるなよ!?(胸が当たる胸が当たるいや当たってほしいという気持ちもでかいけど当たったら俺が、ちゅーか俺のムスコが)」

「謙也はんから激しい煩悩を感じる…」

「白石ー煩悩って何ー?」

「エクスタシーってことやで、金ちゃん」

「謙也さんめっちゃキモいっすわ」

「お前ら頼むから黙れええええ!!」








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