素直なあまのじゃく 「生意気やねんこのカス!!」 素行が悪いことで有名な男子生徒の拳が宙に上がる。そして次の瞬間、あれは光くんに降り注ぐ。ということを予測した時、私の体は反射的に動いていた。 ドゴッと鈍い音とともに私は地面に倒れ込んだ。 「…先輩…?」 光くんが見開いた目で私を見下ろしている。光くんも不良グループ達も何が起こったかまだ理解していない。 痛いというか頬がジンジンと痺れる。頬だけがやけに熱い。私は光くんに大丈夫やで、と笑ってみせようとしたが口の端が切れているらしくうまく笑えなかった。 「…っ、な、何邪魔すんねんこの女!」 「引っ込んどけこのブス!」 女子を殴ったという罪悪感を掻き消すかのように、容赦ない罵声が私に降り注ぐ。というかブスとは何やブスとは。 「…お前ら…」 光くんが地の底から出しているかのような低い声を出した。そして光くんの体から放たれる真っ黒なオーラ。 感情の起伏にあまり変化が見られない光くんなのに、露骨に怒りを表している。不良グループも私も恐怖でごくりと唾を飲み込んだ。 「いい加減に「お前ら姉ちゃんに何しとんのじゃああああああ!!」 声変わりがまだ終わっていない高い怒声とともに、机がものすごい速さで吹っ飛んできた。それは不良グループの横の壁に当たる。壁さん、ご臨終。 「げ、遠山…!」 「ちょっアイツはマジ死ぬマジ死ぬ」 「アイツ車持ち上げられるらしいで」 「もうどこのサイヤ人やねんんん!」 不良グループは口々に何かを言いながら尻尾を巻いて逃げていった。それを後から「待てコラァァァ!」と髪の毛を振り乱して追い掛けていく金ちゃん。 「金ひゃんもふへへから」 「何言うとんのか全然わからんっすわ先輩」 光くんが呆れたように言う。 いつのまにやら光くんは真っ黒なオーラを引っ込めて、膝を折って私と同じ視線になっていた。 「ひょっと光くん金ひゃんとめてきて」 「ちょっと金ちゃんとめてきて、って言うとるんスか?」 こくこくと首を縦に動かす。光くんははあっと大きなため息を一つ零した。 「それよりも先に、やるべきことがあるやろ」 光くんは立ち上がり、そして、私の手首を強い力で掴んで無理矢理立たせた。 「保健室行きますよ」 有無を言わせない口調でどんどん私を引っ張っていった。私はただただされるがままだった。この子、手ェ大きくなったなあ、なんて呑気に思いながら。 保健室の先生は出張中だったので、光くんが適当なアイスノンを見つけて私に差し出した。 「あひがとう」 と笑って(笑えてはないけど)受け取ると、光くんの顔に陰りが宿った。 「どしたん?そんな顔して?」 「ありがとうなんて言われる資格、俺にはない」 ??? 私の頭上にハテナマークがたくさん浮かんだ。 「ひゃんで?らって光くんは保健室に連れてきてくれひゃしアイスノンもくれひゃし、」 「その原因を作ったんは全部俺やないですか」 「私を殴ったんは光くんひゃうやん」 何食わぬ顔でしれっと答えた私に光くんは「先輩いつか幸せになるツボとか買わされますよ」とボソッとつぶやいた。 「え、幸せになるツボとかあるん!?」 「食いつくなやアホ」 「ぬぐっ。本間アンタって子は…。私を先輩やとひゃんと思っとる?」 「さあ」 「ひあってアンタなあ!」 「呂律が回ってない状態で凄まれても全然怖くないっすわ」 光くんはくっくっくと喉を鳴らして笑う。 「いつもの光くんらひくなってきたなあ」 「は?」 怪訝そうな表情を浮かべる光くんに、私は笑ってみせた。痺れもようやくとれだしてきたから、今度はちゃんと笑えた。 「光くんはそうやって先輩に盾突いてるくらいが、ちょうどええ」 背伸びして、頭をポンポンと撫でると、光くんはほんのり頬を赤らめ、一言。 「先輩、キモいっすわ」 *補足 ・主人公はテニ部のマネージャー ・光はピアスつけているし態度悪いし、というわけで先輩からの評判悪いという。 TOP |