通り魔的恋愛事件




私は目の前の可愛くて、生意気な後輩を睨みつけて、一言ぶつけてやった。

「撫でにくい」

「は?」

アホちゃいますか、と今にも言い出しそうな呆れ顔で財前は私を見下ろす。
そう。見下ろす、のだ。

「財前最近背ぇ高い!」

「成長期っすからね」

「今何センチ!?」

「確か…164センチっすわ」

「わ、私より10センチもでかい…!」

口をぱくぱくさせ、私は後ずさりをした。
昔はさ、私よりも低くてさ!財前ー!って頭撫でれたのに…!

「なんでー!なんででっかくなっちゃうねーん!」

半泣きになって財前の肩を揺さぶる。財前の白い目が突き刺さるのも構わずに。

「そりゃ、男っすから」

「せやけどさ!う゛ーっ」

私は両手で顔を覆って、さめざめと泣くフリをする。

すると、急に頭をがしっと捕まれ、無理矢理上を向かせられた。

財前の真っ黒な瞳が私を射抜いて、体が硬直する。

「代わりにこれからは、俺が先輩を撫でたるわ」

そうしてわっしゃわっしゃとムツゴロウさんのように私の頭を撫で回す。

「ちょ…っ!これでもセットしてるんやけど…!」

「先輩も昔俺の頭むちゃくちゃにしたやないですか。これでおあいこです」

財前はひとしきり私の頭をむちゃくちゃにしたあと、それじゃそろそろ練習なんで、と去って行った。

財前のアホーッと背中にぶつけてやろうとしたら、その背中は昔よりも大きくて息を呑んだ。

…手も、でかなってたな…。


モヤモヤとしたよくわからない感情が、私の胸の中に住み着いた瞬間だった。







もっと、撫でてほい。
あの大きな手に、触れられたい。

そう明確に言葉にできるようになるのは、そう遠くない未来



※財前中一冬くらいです。



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