恋を知らない



「いい加減にしいや!」


…なぜ、こんなことに…。


私の周りにはおっかない顔をしたクラスの中心的存在女子が数人、私を囲むようにして立っている。

私はというと、クラスの端っこ系女子。なぜそんな私が中心的女子に目をつけられているのか、私はまったくもって理解できていない。


「ちょっと、あんた聞いてるん!?」

「は、はい!」

般若のような顔つきで私を詰め寄る女子。もー怖い!何本間!?

「あんたなあマネージャーやからってさ、白石くんにベタベタし過ぎやねん!」

…白石?

たしかに私と白石は仲が良い。多分。ベタベタはしてへんと思うけど。けどなんでこの子私が白石と仲良くしてるの嫌なん?

と、首を傾げていると。


「そうやで!」

「白石くんに話し掛けたくても話し掛けられへん子やっておるんやから!」

「あんたはいちいちいちいち白石白石白石…うざいねん!」

「もっと節度弁いーや!」

ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ、ほかの女子達もこぞって私の非難を始める。

ええええ!?皆さんも白石好きなん!?

私は驚きのあまり目を見張り「嘘やろ…」とつぶやいた言葉、それを女子達は聞き逃さなかった。


「は?何が嘘なん?」

苛立ちを露にした声色で問い掛けてくる。

「いやー、そのー、白石がモテるってのにびっくりしまして…」

ポリポリと頭を掻きながらボソボソ言うと、女子達しばらくの間何を言われたのかわからない様子で固まっていたが。

「はあああああ!?」

「何言うてんねん!?」

「アホなんちゃう!?」

先程よりも更に勢いを増して、私を責め立てはじめた。


「い、いやだってエクスタシーが口癖やしナルシストやしウケを狙うためならなんでもやるアホやし…」


だから、



「白石の良いところに気づく女子なんてあんまおらんって思ってた」

私は、白石がたくさんの女の子から好かれてることを知れて、今心底嬉しい。


よかった。

みんな、白石のことちゃんと見てくれてたんや。


「白石は残念なとこも多いけど、それ以上にな、すごいよな。
毎日毎日遅くまで自主練して、朝練も一番早く来てる努力家でな、でも自分が頑張ってることをひけひらかさんと、普通に振る舞って。
あとなあとな!そんで毎日きちんとこつこつ勉強してんねんで?めっちゃ偉ない?部活で絶対疲れてんのに!
テスト前とかさー、丁寧に勉強教えてくれるし。面倒見もいいし。


すごい、すごい努力家で優しくて、いいやつやねん」


私は、何故かぽかんと口を開けている女の子達に向かって笑顔を浮かべた。

「だから、ずっとな。
白石のことわかってて、白石を休ませてあげれる子が表れて、あいつの彼女になってくれんかなって思っててん」


ありがとう。

白石のこと、ちゃんと見てくれていて。



そう言った時。

じゃり、と砂を踏む音が聞こえた。

女の子達の顔が真っ赤になって口をパクパクさせている。


「白石くん…!」


え。


後ろを振り向くと、そこには、胡散臭い笑顔を浮かべた白石がいた。

「ちょっと君達、どっか行ってくれんかな」

ニコニコニコニコ。
胡散臭い笑顔のまま女の子達に話し掛ける。

「…え」

「ど っ か 行 っ て く れ へ ん か ?」

真っ黒いオーラ。ドスを利かした声。笑顔が余計に怖いで白石。

女の子達は今度は真っ青になり半泣きになってそそくさと逃げるように小走りで去って行った。そして私もそれにつづ「そーはさせへんで」

白石にがしっと首根っこを捕まれ、脱走を阻止された。

「は、離せえええええ!」

「あかん。無理」

「いやや私は今めっちゃ恥ずかしいねんお願いやから離せえええええ!」

「なんで?」

「…っ、あんたのことや、絶対私が白石褒めちぎってたの盗み聞きしてたんやろ!?そんでニヤニヤしてたに決まっとる!」

私は離せえええええ、と、じたばたと暴れる続ける。

しかし、白石が黙りこくっているのが気になり、暴れるのを止め、恐る恐る白石を見上げると、私は驚いて、息を呑んだ。

白石は、試合でしか見せない、真剣な表情をしていた。


「しらい「なあ」

力強い声が、私の声に重なる。

「お前、自分やとは思わんのか?」

「な、なに、が」

真っすぐな目で射抜かれ、上手く喋ることができない。

なんか、白石が、こわい。


「俺のことわかってて、俺を休ませてくれる存在、ってのに」


いつのまにか、白石は首根っこを掴むのをやめ、腕を私の首に回して、耳元で囁くように、力強い声で言葉をゆっくりと紡ぐ。

白石の髪の毛が、私の髪の毛に、当たる。

シャンプーの匂いが、ほのかに鼻孔をくすぐる。


近い。


心臓が、うるさい。


「わ、私そんなたいそうな存在ちゃう」

「たいそうな存在かどうかは俺が、決める」

息をつく暇もなく、白石が言葉を私に投げ掛ける。


「もう無理。こんな生温い状況のままやったら、お前いつまでたっても気づかへん」

さっきので確信したわ、と白石が苦笑する。


「お前がわかるまで何回でも言うたる」

耳元で囁かれ、電流が私の体を走ったような衝撃が走る。絶対、わざと耳元で言ってる。


低く、掠れた声で、白石は言った。



理恵、好きや。





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