とおまわりの記録番外編 | ナノ



ダンッという音がして、手の甲が机に叩き付けられた。

「まァ、勝負は最初っからわかってたけどな」

荒北が冷めた眼で俺とフクを見ている。フクと腕相撲をして、負けた。荒北にも、負けた。隼人にも、負けた。

「福富くん、すっごい…!」

愛しの彼女が見ている前で、三連敗した。

「俺は強い」

「本当に強いね〜!すごかった〜!」

パチパチと手を叩きながらフクを絶賛している吉井を見ていると辛いものがある。

「寿一が強いのもあるけど、尽八が弱いってのもあるよな」

「お前のマジレスってかなり毒入っているよネ。別にいいけどヨ」

「…く、くそ…!」

ヤバイ。かなりダメージがある。力が全てだとは言わない。けど、男としてのプライドが…!

「泉田とか黒田とやっても負けんだろーなァ」

「真波にもどうだか」

「真波になら勝てるかしんねーだろ!」

「泉田と黒田には負けるのわかってんのか」

そう荒北に言われて、うっと言葉に詰まる。

「そういやお前、真波より低いよな」

グサッ

「え、そうなの?」

吉井が驚いたように声を上げた。

「ああ。小さい」

フクがものすごく真面目に答えた。余計辛い。小さいって…小さいって…!

「真波くんの方がおっきいんだあ」

「ちょっと真波のがでかいんだよなァ」

「へえ〜。真波くんってまだ一年生だし、これからどんどん身長伸びるんだろうね。かっこよくなるだろうなあ」

グサッ、グサッ、グサッ

吉井の無邪気な言葉のナイフが突き刺さる。俺は三年で…成長期は…ああ…あああああああ…。

「お、尽八が死んでいる」

「…!?」

「福ちゃん比喩表現だから。マジで死んだ訳じゃねェから」

「え、ええ。どうしたの、東堂」

机に突っ伏して悲壮に暮れている俺の背中を優しく揺さぶる吉井の掌が辛い。嬉しいが辛い。

「どうしたんですか、東堂さん」

聞きなれた能天気な声が聞こえてきた。顔を上げるとそこには真波がいた。

「あ、真波くん」

吉井が真波をしげしげと見る。

「真波くんっておっきいんだねえ」

「え、そうですか?」

「うん。おっきいなって思ってはいたけど」

「うーん。東堂さんよりは高いですけど、俺」

グサッと、言葉のナイフがまた刺さった。

「…真波」

「はい?」

「そこに、座れ」

真波は言われた通り座った。不思議そうな顔をしている。その顔を、今。

「俺と勝負しろ…!」

屈辱に変えてやる…!

肘を机に立てて、手を差し出す。

「いいですよ〜」

真波はへらっと笑って、俺の手を握った。

「よし、審判は俺が務めよう」

「真波にペプシ一本」

「うーん、俺も真波にカロリーバー。吉井さんは?」

「え、わ、わたし?」

ちらっと視線を俺に向けてから、意を決するように言った。

「わたしは、東堂、に…なっちゃん!」

きゅうんと胸の奥が甘く疼いた。
よし絶対負けない何が何でも負けない絶対に負けねえ。

「レディー…ゴー!」

フクの合図によって、戦いの火蓋が切って落とされた。(そんな大層なモンじゃねえだろ by荒北靖友)

ぐ…っ、こ、こいつ…力あるな…!細い体しているのに…!

でも、今までで一番良い勝負をしている。フク隼人荒北との勝負は…うん…うん…。

勝負は互角だった。俺の手の甲が机につきそうになったり、真波の手の甲がつきそになったり。真波も真剣な顔をしている。…コイツ本当に真剣な顔をしたら…イケメンだな…。女子ファンを取り合うライバルとしても、今、ここで…!

「おい真波、負けたら承知しんねえからな。罰ゲームさせんぞ」

「罰ゲーム? 何をさせるの?」

「とりあえず俺にペプシ奢らせた罪で三発殴る」

「な、なぐ…!?だ、だめだよ!」

荒北と吉井がそんな会話をしていたのだが、勝負に熱中していた俺の耳には届かなかった。

「し、新開くん、荒北くんが」

「…よ〜し、俺も殴っちゃおうかなあ」

「え!?」

「だな、体育館裏で殴るか」

「そうしようぜ」

「そ、そんな…!」

(吉井さんは面白いなあ)

(コイツ馬鹿だろ)

「ふ、福富くん」

「な、福ちゃんも参戦しようぜ」

「え、ああ、うん(リンゴ食いたいなあ)」

「…!!」

そして―――

俺は、真波の手の甲を机に叩き付けた。

「よっしゃーーー!!」

嬉しさのあまり、思わず、拳を作って雄叫びをあげる。

「あちゃー、負けちゃった」

真波がふうっと息を吐いてから、ははっと笑う。俺は感動に打ち震えていた。なので、周りの音がすべてシャットダウンされた。

勝った…!俺は勝ったんだ…!

「おーし。真波、歯ァくいしばれ」

「えー、なんでですか?」

「ペプシ奢る羽目になっただろーがテメエのせいで」

「ええ〜、理不尽」

「だ、だめ!」

長く苦しい戦いに…勝ったんだ…!

「だめだよ!」

「吉井先輩…」

「真波くん、大丈夫だからね、わたしが、守るからね…!」

「吉井先輩…、先輩がいてくれて、本当に良かったあ」

「…!!」

それもこれも、俺を信じて待っていてくれた、吉井のおかげ。
吉井の為ならどんな力だって出せる。

「真波くん…!!」

なあ、吉井。愛おしむような眼差しを吉井に向けた時、俺の眼は点になった。

吉井が俺に背中を向けて、真波の頭に腕を回していた。つまり、抱きしめていた。

…ん?

「大丈夫、心配しなくていいからね…!」

「ありがとうございます…。吉井先輩、あったかいなあ…」

ぎゅっと吉井の背中に手を回す真波を見て、はっと我に返った。

「真波ーーー!!何してんだ!?吉井から離れろ!!」

「うわ〜ん、吉井先輩、東堂さんが怒っている、怖いです〜」

「東堂怒っちゃ駄目!みんな真波くんをなんだと思っているの!?まだ一年生なんだよ!?」

「うっうっ、怖いよぅ…」

わざとらしい泣き真似を…!!

怒りと悔しさで体がぷるぷる震えた。フクと荒北と隼人はもうこの話題に飽きたのか今夜モンハンやらね?という話題に移っていた。

吉井は真波の頭を優しく撫でながら、優しい声で「大丈夫だよ、ね、だから泣かないで」と言っている。

「吉井先輩…あったかくて、柔らかいや」

やわらか…って…!

理解した瞬間、ぶちんと堪忍袋の尾が切れた。

「真波貴様―――――!!!」




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