マックで友人とたむろしながら、くだらないことを喋っていた。テストのこと、親がうざいこと。それから、女のこと。
「星井美希?あーあのちゃらそうな女。あいつ絶対ちやほやされたいだけの馬鹿女だろ」
そうせせら笑った時だった。
「ふうーん」
甘ったるい声が背後から聞こえてきた。なんだこの声、どーっかで聞いたような…って、え!?
勢いよく振り向くと、目がちかちかした。綺麗な金髪がきらきら輝いていて、眩しい。
「そう思っているんだ、きみは〜」
ずずい、と顔と顔の距離を縮められる。すらっとした鼻筋、きめ細かい白い肌。人形のようにはっきりした目鼻立ちに圧倒されて、言葉を紡げない。あ、とか、え、とか何も言えないでいると、ぺしっと額に手を置かれた。それが俺の顔を伝って、はらり、と床に落ちた。
「それ、美希のライブのチケット。暇なら観に来れば?ちやほやされたいだけか、そうじゃないか。君自身の目で見てみればいいの」
そう言うと、勝気にウインクしてきた。心臓がどくっと跳ね上がって、何も言えないでいると、星井美希はマネージャーらしき男に名前を呼ばれて、あっという間に群集の中に姿を消していった。
「ほ、星井美希だ…!」
「え、ちょ、超可愛い…!」
「か、可愛くねーよ!!ただの派手顔じゃねーか!!」
そう言いつつも、俺の手はしっかりとチケットを握り締めていて。
ライブに、来てしまった。
…何やってんだ、俺…。はあ、と肩を落としながら、会場に入る。なんでここに来たのか。…しいていうなら、あの瞳が頭から離れられなかったから。きらきらと輝いている瞳が、頭から離れられなくて。
ドアを開けた瞬間、俺は圧倒された。熱気、歓声、なんだ、これ。瞬きをしていると「みんなー!今日はありがとうなのー!」と、叫んでいる星井美希の声が耳に飛び込んできた。視線を声の先に目を向けると、ショーパンからなめらかな長い脚を惜しみなく出しているセクシーな衣装を着た星井美希がいて、なんとなく目を逸らす。
「今日も美希、いっぱいいっぱい輝くからねー!よそ見なんかさせないのー!」
うおおおと盛り上がるむさ苦しい声。うわ、おたく、キモい。
…マジで俺なんでこんなとこいるんだ。帰ろう。まあ、ここまで来たし、一曲聴いてからにするか。
そう思っているとイントロが流れ始めた。あ、これ知っている。妹がよく聴いているやつだ。
ぼーっとしながらステージに目を向ける。
星井美希の纏っている雰囲気が変わった。
さっきまでの人を食ったような笑顔はもうそこにはなく。
凛とした、一人の少女がいた。
ぞくっと鳥肌が立った。星井美希はすうっと息を吸い込んだ。
「どうだった〜?」
星井美希がにこっと笑いながら観客に聞く。観客はぽかんとしていた後、口ぐちに最高だった!と叫び出す。俺はと言うと。まだ、口をきくことができなかった。テレビで観るよりも何倍もダンスのキレが激しく、歌声は滑らかで。
ごくっと唾を飲み込む。
すると、星井美希が俺の方を見た。いや、見たような気がした、の間違いだろう。アイドルが俺の方を見た、なんてそんなことあるわけないだろ。バカバカしい。頭を振る。
「これでもまだ、ちやほやされたいだけって思う?」
え。
星井美希は、にこっと笑いかけた。
その笑顔は天使なのか悪魔なのか。
多分どちらも兼ね備えているのだろう、と熱に浮かされた頭で思った。
管理人がこの世で一番好きなアイドルです。
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