「恭弥くんは恋をしたことってある?」
そう訊くと、恭弥くんはこの世で一番愚かなものを見るような目で私を見下してきた。泣くも黙る雲雀恭弥にそんな目で見られたら大概ひっと声をあげてすみませんすみませんと謝り倒すのだろうが、私は恭弥くんと幼馴染で尚且つ恭弥くんより一つ年上なので、彼が可愛い弟分にしか見えず、どうにも怖いと思えないのだ。怖いって思わない方がいいのだろうけど。
「そんなくだらない質問をするくらいなら帰って。酸素も面積も時間も奪う君は本当に邪魔以外の何物でもない」
トントンとプリントと揃えて私を見ることもせずに言う恭弥くんと応接室備え付けのソファーでだらしなくごろんと寝転がりながら「え〜つれないな〜」と不平を漏らす私。うん、よく性格が出ているね。
「高校生になったらねー、みーんな当然のように恋してんの。中には彼氏がいる子もいるしね。なんだかさー、中学生の時はさー、男女関係なくわちゃわちゃーってしていたのに。なんか、みんな遠くに感じるんだよー」
無視。雲雀恭弥氏、無視でござる。
「恋とかさー、よくわかんないよー」
無視を貫く雲雀恭弥氏。ここはとっておきの爆弾で焚きつけてみるか。
「告白されたんだけどさー、よくわかんないから振っちゃったんだよねー」
食らえーなかなかの爆弾だぞー。
恭弥くんにちらりと視線を遣る。ばちりと目が合った。おっし、ようやく食いついた!むふふと我ながら気色の悪い笑いが込みあがった。
「いやねーでも私も高校生になったなーって思ったよ。なんせ告白されちゃったんだからね。もうほんと、私って大人になったよねー。でもね、やっぱり、恋ってわか、」
ん?
気が付いたら恭弥くんの顔がものすごく至近距離にあった。あれ、さっきまで天井が見えていたんだけど?なんで恭弥くんが?
頭の中がハテナマークで埋め尽くされていると、がっと顎をあげられた。
「いたたっ、ふがっ!?」
無理矢理顎を掴まれて、あげられて、唇をふさがれた。え、なにで?何で塞いでいるの?柔らかいから唇か。そうか、わあー恭弥くんって睫なが〜い…って!?!?
「〜っ!」
睫だけじゃない!チューも長い長い長い!死ぬ!これ死ぬ!!私お陀仏になる!!
ばんばんとソファーをたたいて、ギブアップということを伝えて、ちょっとしてからようやく離れた。がばっと身を起こして、恭弥くんを見ると、息を切らしている私と違って、恭弥くんはとても涼しげな顔をしている。
後頭部に手を回されて、またしても顔と顔の距離が近づいた。いや、近づいたというよりも零になった。私の鼻と恭弥くんの鼻がくっついている。
「これぐらいでギブアップすることの、どこが大人?」
そう言ってからあげられた口角は間違いなく嘲笑を意味している。目を点にして恭弥君を見ていると、恭弥くんはふんっと鼻を鳴らしてから、元の椅子に腰をかけた。いつ見ても立派な椅子…。
「あ、あのー恭弥くん」
「なに」
「恭弥くんって私のこともしかして…アイラブユー的な意味で、好き?」
資料に通していた目が私に移った。
「…さあ?」
そして、また資料に戻った。
以前ツイッターで雲雀さん妄想をしたらとあるお方が雲雀さん需要ありますよ!と仰ってくれたので、ちょっと書いてみました…!こちらいつかシリーズ化したら楽しそうですね!私が!(笑)友達でも恋人でもない中間地点(by宇多田ヒカル)的な感じで!
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