バレエで得たのだろうか。綺麗に背筋をぴんと伸ばして堂々とよどみなくスピーチをしていくのは私と同い年の女の子。ロシア人の祖母を持つ彼女は綺麗なブロンドをしていた。染めた金髪とは違う天然の金髪の輝きは眩しくて縮毛矯正ですっかり痛み切った私の髪の毛とは全然違って、いや私なんかと比べるなんておこがましくて。彼女の白い喉を見つめる。細くて白い首。長い手足。吸い込まれそうになる青い瞳。

なんて綺麗な女の子なんだろう。

私は生まれて初めて、一目ぼれというやつをしてしまった。

「小川さん」

なめらかなピアノのような綺麗な声が鼓膜に入ってきて、びくりと跳ね上がった。聞き間違えるはずがない。この声は。

「絢瀬、さん」

顔をあげると絢瀬さんが私の目の前にいた。心配そうに眉を潜めながら私をみている。体中の血液が沸騰したように熱くなる。絢瀬さんはパクパクと口を開閉することしかできない私にさらに声を掛けてくれた。

「この量、今まで一人でやっていたの?」

この量、とは。ああ、これか。私は机の上に広がっている大量のプリントを見て合点がいった。このプリントを順番に並べてを二つに折ってホッチキスでとめていく。明日の放課後までに提出しなくてはならないのに、要領が悪い私はまだ半分も終わらせていなかった。家では弟や妹がちょっかいだしてきて集中できないのでこうして学校で居残りをして作業をしている。そう言えばいいのに、絢瀬さんが目の前にいてうまく喋ることができない私は口をもごつかせることしかできない。

「大丈夫よ、責めたりなんてしないわ」

安心させるように柔らかい声で絢瀬さんは言う。

違うの、そういうことじゃなくて。

「私も手伝うから、大丈夫よ」

え。

気付いたら絢瀬さんは私の前の席の椅子を借りて、私の目の前に座っていた。てきぱきとプリントを二つ折りにして順番に並べていく。流石絢瀬さんだ。手際が良い…ってそういうことじゃなくて!

「いっ、いいよ絢瀬さん!これから帰るところだったんでしょ!?」

「こんな量、小川さん一人になんて任せてられない。明日までなんて無理よ。それに終わらせられなかったらみんなにも迷惑かかるのよ?あなたのためだけじゃないわ」

きっぱりと絢瀬さんは言い切る。絢瀬さんの意見はもっともな正論で私は二の句が継げなくなってしまう。憧れの絢瀬さんに私如きの作業を手伝わせることが申し訳なくて自分自身に腹を立てる。それならば少しでもはやく作業を終わらせて、絢瀬さんを帰らせてあげよう。そう思って、私は再び作業に取り掛かった。

の、だ、が。

緊張して…緊張して…!!

手を伸ばせばすぐ触れられる距離に絢瀬さんがいるのだ。これで緊張しない方がどうかしている。

ちらりと視線を絢瀬さんにやると、夕日が絢瀬さんのブロンドの髪の毛を照らしていて、
ブロンドが輝いていた。

ああ、なんて。

「…きれい」

うっとりと恍惚を帯びた声がするりと口から漏れていた。はっと我に返った時はもうすでに遅かった。絢瀬さんが青い瞳を真ん丸にして私をみている。

かあっと羞恥が全身を包んでいく。

「ご、ごめ、ごめ、なさ…!」

動揺で椅子を後ろに下げて立ち上がろうとすると、椅子の足に足をとられて、もつれて、私は転んでしまった。ガッシャンと派手な音をたてて私は転がる。

「…っ」

痛みで悶絶する私に絢瀬さんが「大丈夫!?」と声を掛けて駆け寄ってきてくれた。

ああもう痛い。いろんな意味で痛い。恥ずかしい。もうやだ。さっきの声気持ち悪かった。どうしよう気付かれちゃったかな好きってこと。女の子が女の子に?ああどうしようどうしようバレちゃったかなどうしようどうしようああなんでさっさと終わらせなかったの私もうやだ穴が入ったら埋まりたい地中深くもぐりたい。

不意に、わきの下に手を入れられた。

え、と思うよりもはやく絢瀬さんの「よいしょっと」という声が聞こえてきた。

机に座らされて、絢瀬さんの顔が私よりも下の位置にある。青色の瞳に目と鼻を赤くした不細工な私がうつっていた。

「泣かないの、もう高校二年生でしょう?」

年下の子を慰めるような大人びた口調。ああそういえば絢瀬さんは妹さんが一人いたなと思い出す。

絢瀬さんは膝を折り曲げてしゃがみこみ、私の膝小僧を凝視しながら顎に手をあてて、ふむふむと頷いていた。

「うーん、一応…保健室に行っておいた方がいいわね」

「あ、絢瀬さん」

「注意するにこしたことはないし…。ん?なあに?」

絢瀬さんがにこりと私に微笑みを投げかける。

ああ、それだけで、こんなにも。

胸がぎゅうっと押しつぶされるような感覚。

『きもちわるくないの?』

そう訊いたら絢瀬さんはどんな反応をとるだろうか。

さっき、私が放った言葉は、どう考えても“憧れ”とは違う声色だった。絢瀬さんは人の気持ちに鈍感なほど馬鹿ではない。馬鹿どころか聡いぐらいだ。気持ち悪くないのだろうか。同じクラスで同じ性別のものが自分を性的に見ていたなんて。

優しい絢瀬さんはきっとこう答えるだろう。

『気持ち悪くなんてないわよ』

とっても優しい笑顔で。

そういう人だから、私は。

嗚咽がこみ上げてきた。絢瀬さんはどうして私が泣いているのか理由を訊かない。そう、こういう人なの。絢瀬さんは。だからそうなの。だから、だから。

「…さ、保健室に行きましょう?」

私の手をとって、微笑みかけてくれる絢瀬さんだけは。今この瞬間の絢瀬さんだけは。私が独占していると思ってもいいでしょうか、神様。



















というものも妄想しています実は…!エリーチカは生徒会長ですし女の子人気が高いそうなので一人くらい本気で好かれてそうだなと思い…!かしこい可愛いエリーチカ、可愛いよお…





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