家がすきすぎて、外に出たくない。

何が何でも、外に出たくない。家が好きすぎて。

一生家にいたい。働きたくない。遊ぶのも家の中がいい。

「駄目人間道まっしぐらアルな」

布団にくるまりながらモンハンしている私に、クラスメートの神楽が容赦ない毒舌を吐いてきた。なんとでも言え。私は今モンスターをハントしているのだ。級友の言葉になんぞ耳を傾けている暇はない。

土方くんがハァッと深いため息を吐いた。

「お前これじゃ卒業できねーぞ。いいのか?」

「良くないけど家が好きすぎてさあ…。君たち結構会いに来てくれるから寂しくないし」

「も、もしかして苗字さん、オレのことが好き…なのか…!?」

「近藤くん。耳にセメント流し込まれたいの?」

PSPをぴこぴこ打ちながら怒りを表す。近藤くんが「そんなにキレることをォォォ!?」と嘆いた。ゴリラの雄叫びのようで、ただただうるさい。

「何故急に家が好きになったんだ?」

「九兵衛殿!それは俺が質問する予定だったんだぞ!くっ、どこまでもキャラ被りしてきて…!」

「してねーようぜーよ長髪うぜーんだよ」

心配そうに私を労わってくる九ちゃんにウザ絡みをする桂くんをバシッとスリッパで叩く銀八先生。この狭い部屋に十人もいるので喧しいったらありゃしない。

なんで急に家が好きになったっかって?

モンハン買ったらそのモンハンにドハマりして廃人になっちゃっただけって話だってばよ。

私は三か月前までZ組のツッコミ担当で、サッカー部のエースに恋をしていた。彼に好かれるために毎日のヘアアレンジも頑張って、ナチュラルメイクも施して、鏡で笑顔の練習もしていた。あの頃の私は可愛かったな…。過去の自分の乙女っぷりが懐かしい。

私は彼がモンハンを好きだという情報を入手した。彼と仲良くなるために、私もモンハンを購入した。一緒に狩りしな〜い?と誘おうと思って。私が狩るのはモンスターではなくて、彼のつもりだったけど。はっはっは。

だが。予想外にモンハンは面白くて、面白くて、面白くて。

―――今に至る。

そんな事情を知らない級友たちは、何故私がこのようなヒキニートになったのか、円になってこそこそと話し始める。

「こうなった原因は失恋じゃないかしら」

「失恋?」

「名前ちゃん、サッカー部のエースに目がハートだったじゃない。でも、彼、彼女三か月前にできたでしょう?」

妙ちゃんの意見に、皆が「あー…」と頷いた。私はずっとモンスターを狩っていた。

「確かに、そうかもな…。失恋とは、辛いものだからな…」

九ちゃんが何かを思い出したかのように、ふっと寂しく笑った。ゴリラも悲しそうに笑った。

「まー、私は失恋したことないからわからないけど、銀八先生にフラれちゃったら…って思うと夜も眠れなくなるわ!だから先生!私眠れないからベッドイ―――ゴファッ」

「まあ猿飛さんこんなところで寝ちゃ駄目じゃない。はしたない」

「あんたが無理矢理寝かせにかかったんでしょーが!!」

「女はこえーや」

「人の住所2チャンに書き込んでいるおめーもこえーわ!!何してんだコラァァァ!!」

「2チャンに住所書き込んでいるんですよ。そんなこと、見てわからないんですかィ?」

「総悟ォォォォォ!!」

チッ、うまくいかない。逃した。クッソー。

「新八ー、お前失恋のスペシャリストだろ?名前を元気づける良い方法とかないネ?」

「スペシャリストじゃねえよ…!うーん…ラブチョリスとか…?」

「おー、現実逃避アルか」

「既にモンハンに逃避している奴をこれ以上逃避させてどうすんだよ!!」

くそっ、あっ、ちっ、こうか…!!

昨日から一睡もしないでモンハンをしている。狩りもうまくいかないことが手伝って、だんだん眠気が到来してきた。うつらうつら。瞼が徐々に重くなってくる。

「―――苗字」

銀八先生が、私の名前を呼んだ。いつものような、ちゃらんぽらんした声に僅かに真剣さが伴っている。私は布団にくるまりながら、俯けた顔を先生に向けた。

「失恋をなんとかする方法ってのは、時間以外ねェ。時間が一番の薬だ。他の男好きになって忘れるとか、簡単にできるような思いだったら、お前はそんな苦しんでねェだろうしな。つーか周りの男ろくでもねェのばっかだしな」

「お前に言われたかねーよ」

土方くんがこめかみに血管を浮かばせながら毒づいた。

「サッカー部のエースが、可愛い彼女に鼻の下でれでれ伸ばしている姿を見るのは辛ェだうよ。受け止めろとは言わねェ。けど、逃げんな。逃げている限り、忘れるスピードは遅いまんまだ。だから、隠れろ。俺の後ろでも、新八の後ろでも、神楽の後ろでも、多串くんの後ろでもいい」

「多串じゃねーよいい加減生徒の名前覚えろよ」

「土方さん、良い話している時にツッコミはいけやせんぜ」

「だから小声で突っ込んでいるんだろーが」

銀八先生が、私の頭にぽんと手を置いた。暖かくて、大きな掌が乱暴に私の頭を撫でる。

「お前がいねェと、俺までツッコミしねェといけねェから、はやくこい」

言葉とは裏腹に優しい声。鼓膜を震わせるその声は、どこまでも気持ち良くて。気持ち良くて…。

「…んがっ、あっ、すみません、寝ていました」

私を寝かせていた。皆の目が点になった。

「あ、ごめん。昨日から私一睡もしてなくてさー、寝ちゃって…え、ちょっ、なにみんな指の関節折ってんの、えっ、い、いやだ、ちょっ、ギャアアアアアアアア!!」



fin.


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