臆病者の恋愛歌 | ナノ


あれから沖田さんはお昼時になったら毎日わたしの所に着て、そしてわたしの大好物を掻っ攫うようになった。

毎回毎回大好物を盗まれることに、そろそろ堪えれなくなったわたしは、沖田さんのためにお弁当を作ることにした。

食堂のおばちゃんから貰った食堂の余った材料で作っているから一人作ろうが二人作ろうが、食費には全く問題はない。

しかし、別の問題がある。

はたして沖田さんは、わたしが作ったお弁当を食べてくれるかどうか、ということだ。

沖田さんがわたしの大好物を食べる理由は空腹だったから、とかそんなものではなく、ただわたしへの嫌がらせだというものかもしれない。…いや、“かもしれない”じゃない。絶対、そうだ。

と、いうことにわたしはたった今気づいてしまったァァァァ!あああわたしのバカァァァァ!!

藍色のお弁当包みを見ると自己嫌悪しか沸いてこない。
わたしは自分の脳天気さ、馬鹿さ加減にただただ腹が立ち、頭をポカポカ叩いた。

そうしていると、いつものように襖が開かれ、

「何やってるんでィ。とうとう頭にうじむしが湧いちまったかィ?」

と蔑みの眼差しでわたしを見下ろす沖田さんの姿があった。

こんな人が、わたしのお弁当を食べる訳が、ない…。
いや、それどころかお弁当箱を踏み潰してわたしの絶望に染まった顔を嘲笑いそうだよ。いややりかねないよこの人なら。

わたしがハハハと力無く笑っていると沖田さんは「あー、さっみぃ」と震えながら火燵に入ってきた。

「あり?今日はなんで二個も弁当があるんでィ?」

ギクッ。
思わず身が固まる。
わたしは沖田さんから視線を逸らして、えっとーあのーそのーと言葉を濁した。

「なんなんでさァ。さっさと言いなせェ」

沖田さんは不快そうに眉を寄せ、わたしに答えを催促する。

…ああ、もう!
沖田さんにイジメられるのなんてこれまでもあったんだし!
今更お弁当踏み潰されようがはいつくばって土下座しろと言われようが、今のわたしなら堪えれる!!…多分!!


「沖田さんの、お弁当です!」

わたしは半ばやけくそ気味に、大きな声でそう言った。

続いて、「お、お口に合うかどうかわかりませんが、どうぞ!!」と、沖田さんの方に藍色のお弁当包みを寄せた。

怖くて沖田さんの顔が見れない。ぎゅうっと目を閉じていると、

――――ぱくっ ぱくっ

という咀嚼音が耳に入ってきた。

え?と思い、顔を上げると、沖田さんが無表情でお弁当に手をつけていた。

目を真ん丸くして沖田さんをじっと見ていると、ギロリと沖田さんが睨みを効かせた。

「じろじろ見んじゃねよ。アンタもさっさと食いなせェ」

「今この瞬間に迅速に食べさせていただきます!!」

わたしはマッハでお弁当包みを開け、食べる体勢に入った。

わたしと沖田さんは会話もせず、ただもぐもぐとご飯を食べていく。
けど、なぜだか今までの沈黙と違って、気まずくはない。


「ごちそーさん」

沖田さんはそう言うとごろんと仰向けになって寝転がった。くつろぎモードかコノヤロー。


「あー、弁当なんて久々に食ったぜィ」

きっと沖田さんは何気なく言ったのだろう。

けど、どこかその声色は哀愁を帯びていた。

…そういえば、沖田さんのご家族って…。

真選組の人達は元々武州に住んでいたと耳に挟んだことがある。ということは、沖田さんのご家族も武州に住んでいるにちがいない。

寂しい、って。家族が恋しい、って。
思うのだろうか、この人も。


「…沖田さんんん!!」

わたしは火燵の上に身を乗り出して、寝転ぶ沖田さんを見下ろした。

「わわわわたしも上京組なんでわかります!!寂しいですよね!あ、わたし田舎に父ちゃ、父を残して出稼ぎに来ているんですが!」

突然まくし立て始めたわたしを沖田さんは目を真ん丸にして見つめている。

「万事屋はスッゴく楽しいです!わたしのもうひとつの家族です!けど、時々父ちゃんのこと思い出して、なんか、胸が、ぐあーって詰まって!そ、それで、
わたしのお弁当なんかじゃ、沖田さんのお母さんのに到底太刀打ちできませんが、よかったらわたしが頑張ってお袋の味を再現するんで、これからも江戸で頑張っていきましょう!!」

ぜえはあぜえはあ。

肩で息をしながら、自分でも思った。

“急に何言ってんのコイツ”


あああああわたしの馬鹿ァァァァ!
いやつい上京組を見ると親近感がわいて熱くなってしまって…!

あー気味悪が「次は卵焼きもっと糖分控えめにしなせェ」

…へ。

「じゃーな」

呆気に取られてるわたしを放置し、沖田さんはさっさと部屋を出てった。


えっとー、つまり、

弁当、また作ってこいってコトですかね…?






ひとかけらの太陽


わたし…ただの…パシリじゃね…?




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