臆病者の恋愛歌 | ナノ


沖田さんに引きずられ倒されて、約三分。
いい加減痛いし恥ずかしいからやめて下さいと懇願する時間約一分。
普通に肩を並べて歩いている時間、約十分。

会話時間は、懇願している間の時間を差し引いたら、零分。


わあ、気っまずーい!


と、こんなふうに心の中でおどけなければ、この沈黙に耐えれそうもなかった。
てくてくてくてく。わたしたちは視線も会話も交じらすことなく歩き続ける。

気まずい。気まず過ぎて吐き気が…。気ィ遣いのわたしからしたらこの状況は地獄といっても過言ではない。

何か…何か…話題…!!

脳みそをフル回転して、すくなくとも三分は持つ会話の内容を模索する。

わたしと沖田さんの共通点、とかないかなあ。

“共通点”という言葉にたどり着いた時、わたしは愕然とした。

なくね…?
びっくりするぐらい、なくね…?

…いや一個だけあるけどさ。
でも、“同い年”ってことだけデスヨ?
『沖田さんとわたしって同い年ですよね』
『そうですねィ』
はい終了ー。
そして訪れる沈黙の嵐。
ナイナイ。この話題はナイな。
えっと、あとは…、
わたしの趣味はミントンと読書だけど、沖田さんの趣味は絶対、違うだろうし。

ほか、好きな音楽とか?いや…この人音楽聴かなかそう。ラブソングとか鼻で笑いそう。


…そりゃ、そうだよね。いくら同い年だからといって、真選組隊長の十八歳と、フリーターの十八歳とだったら天と地ほど差があるよね。共通点なんか、あるわけがない。

わたしは共通点を探すことを断念し、違う話題を模索し始めた。


「お、沖田さんって、お休みの日には何をなされてるんですか?」

愛想笑いを貼付けて、できるだけ気さくに話すことをつとめる。かつ、気分を害さないようにするため、丁寧さも忘れずに。

沖田さんは黒目だけをちらっと横に向けたかと思うと、すぐに真正面に向き直した。

「女子プロレス観戦」

刺を含んだ声で簡潔に答えられる。しかも、あれ?負のオーラが発散されてきてるよ?え、なんで?なんでこの人また機嫌悪くなってんのおおお!?
思春期の子供くらい扱いづらいよ!あ、わたしたち思春期真っ只中か!じゃあ仕方ない…の…か!?

考え過ぎて混乱しているのと、恐怖感が重なってわたしのテンションは逆に変に上がってしまった。

「ああああ、そ、そそそうなんですかー!いいですよね!女子プロレス!もう、なにからなにまで最高なんですよね国技と認定され民衆から崇められるべきですよねアハハハー!」

自分でも自分が何を言っているかよくわからない。
あああもう絶対これ沖田さん怒ってるってええ。
そしてわたしはどんどんパニック状態に陥っていく。

「わ、わわわたしはですね!この前のお休みに新八くんと神楽ちゃんと一緒に遊園地に行って、そこのジェットコースターが、」

――――ピシッ。

沖田さんのポーカーフェースが、皹が入ったかのように、固まった。

「…?沖田さん、どうしたんですか?」
と、わたしが問い掛けても返事はない。それどころか、反応すらない。

少し顔を覗き込んで、ぎょっとした。真っ青な沖田さんの顔。
どうしたのだろう。急に体調が悪くなったのだろうか。
…いやでも、この真っ青加減、よく知ってる。

わたしは首を捻って考えた。
そして電気がつくかのように、パチッと答えは出た。

そうだ、これは、何かにビビっている時の、青さ。

先程の会話から、怖いものと推測できるものはただひとつ。


「沖田さん、もしかして……、

ジェットコースター、怖いんですか?」



ややあとあいまって、ごくっと唾を飲み込む音が、やけに鮮やかにわたしの耳の中で響いた。








なんか、意外と、うん。
…普通の少年なの、かも。

そんなことを思った、なんてことのない、普通の日。

だけど、少しだけ彼を知れた、ちょっと変わった日。





駆け出した、追いかけた

「…勘違すんじゃねえぞ。お前が怖いって思ってるから、俺が怖がってるって見えんだろィ」

「いやわたし、別にジェットコース「みなまでいったらコロス」


どんだけ嫌なの。





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