「銀ちゃん山崎さんとなに話してるんですかねぇ」
「そうねえ、長いわねえ」
まあどうせエロ本とかAVとかエロ本とかAVのことで盛り上がってるんだろうけど
昨日と今日、わたしは真選組の仕事がお休みで、連日でミツバさんのお見舞いに来ていた。
なにやら真撰組はそろそろ大きな討ち入りがあるらしく、物騒なので来ない方がいいと土方さんに言い渡されたのだ。
―――土方、さん。
ミツバさんが土方さんを、土方さんがミツバさんを見た時の顔は、ただ事じゃなかった。
そういうことに鈍いわたしですらわかった。
この二人は、何かあったんだって。
そして、次に思い出すのは。
『どのツラさげて姉上に会いにこれたんでィ』
そう言われたのは土方さんなのに、自分が言われたみたいに固まった。
沖田さんが土方さんのこと、嫌いなことは知っていたけど、なんだかんだ言って、本当は好き、というか認めているのだと思っていた。
けど、
あの目、声、空気。
全身で土方さんを拒絶していた。
「小春ちゃん?」
「はははははい!!」
突然、ひょいと顔を覗き込まれ、わたしは飛び跳ねた。
「あら、脅かしちゃってごめんなさいね」
「い、いえ!全然大丈夫でございまする!」
わたしが動揺を引きずったまま、変な口調で謝ると、ミツバさんはクスッと口に手を当てて笑った。
「ねえ小春ちゃん。女同士でしかできない話しましょうか」
「…?どういうお話でしょうか?」
あの女優絶対プロデューサーとにゃんにゃんしてるわー、とか?そんなの、かなあ。
いわゆるガールズトークという名前の会話に疎いわたしは、どんな会話をするのか全くわからず、見当はずれなことを首を傾げながら思った。
ミツバさんの口からそんな汚い話が出るはずもなく、出てきた言葉はわたしには、縁のない言葉だった。
「恋の話」
いたずらっぽくそう言う様は、すごく、綺麗で、わたしは暫くの間、見とれてしまった。
わたしがマヌケ面を晒していると、私から言っていいかしら?とミツバさんは尋ねてきた。
「ど、どうぞ!」
「ふふ、ありがとう」
ミツバさんはぽつりぽつりと、言葉を落とした。
私の好きだった人はね、ぶっきらぼうで、変な人で、優しい人だった。
ずっといっしょにいたくて、気持ちを打ち明けたけどね、
…無理だった。
早い話が、フラれちゃったのね。
「あれは正直、堪えたわね…」
ミツバさんは、ここではないどこか遠くを見ながらそう言って、ふふっと笑う。
それって、その人って、土方さんですか?
という質問は言えなかった。
だって、その人の話をしているミツバさんの顔は、とても、とても綺麗で。
今でもその人に恋をしていることが、はっきりとわかった。
「小春ちゃんは?」
「、へ?」
「小春ちゃんは好きな人いないの?」
好きな人?
…わ、わたしの!?
「い、いいいいませんよ!!そそそんなわたしのような甘ちゃんが恋愛だなんて滅相もない!!」
予想外の質問に、わたしは顔を真っ赤にして首をちぎれるのではないかというくらいにぶんぶん振る。
わたしには、恋愛とかよくわからない。
恋とか、好き、付き合う、とか。
そういうの、難しい。
よく、わかんない。
「そうなの。じゃあ好きな人ができたら、教えてくれる?」
「あ、はい!」
「じゃあ、」
ミツバさんは小指をすっと差し出してきた。
ふふっと柔らかな微笑を浮かべるミツバさんを見ていると、幸せな気持ちになれて、つられてわたしもマヌケな笑顔を返し、その白くて綺麗な小指に、自分の小指を絡ました。
ゆらゆらとふるべ
「小春ちゃん、そーちゃんと仲良くしてくれて、ありがとうね。あの子小春ちゃんといるとすごく楽しそう」
「そうですよね…あの人がわたしを虐める時の顔ものっそい生き生きしてますよね…」
「え?」
「な、なにもないです!」
「ふふっ、小春ちゃんって一緒にいて楽しいわ」
でも、これだけは本当よ。そーちゃん、あなたといる時ね。とっても、あったかそうなの。
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