「わあ、このチョッパーのぬいぐるみ可愛い!」
「まあ、ほんと」
ですよね、とわたしがミツバさんに笑いかけると、ミツバさんも微笑みを返してくれて、それがあんまりにも綺麗だったから、同性の笑顔なのに思わず心臓がドキリと飛び跳ねた。
今、わたしは沖田さんと銀ちゃんとミツバさんといっしょにジャンプショップにいる。物凄い珍メンバーである。
このメンバーでいるのには少し訳があって…。回想始まりまーす。
***
『プクク!僕だってよォォ!』
『死ぬ…!、笑い死ぬ…!!』
わたしと原田さんは涙を流しながら机をバンバン叩いて爆笑していた。
だって。だってだってだって。あの沖田さんが、サディスティック星の皇子が、シスコン…!これが笑わずにいられますか…!?ひーっひっひっひ笑いが止まらないよォ!苦しい!
ひいひいお腹を抱えて笑っているわたし達は沖田さんの動きに気付けるはずもなく。
『見てください。あの排気ガス』
と、沖田さんが窓の外を指してミツバさんの視線を誘導してそう言った次の瞬間、沖田さんがこちらを向きバズーカを構えた。わたし達は、えっと思う暇もなく爆風に包まれ、何がなんだかわからないままわたしの意識はそこで途切れた。
『小春、小春』
パチパチと頬を軽く叩かれて、い、る…?
わたしは重い瞼をゆっくり開けると、銀色の光りがぼんやりと揺れている。少し経つと視界もはっきりとしだした。死んだ魚のような目が、目の前にあった。
『あれ…?銀ちゃんどうしてここに…?』
『よかった、小春くん気がついた…!』
『気がついた、って…。なんでファミレスでコイツ気絶してんの。つーかお前はなんでアフロなの』
『うわ、本当だ…!山崎さんなんでアフロ…!?山崎さんが存在感めちゃくちゃあるなんて…!』
『小春くん俺泣くよ?』
そんなやり取りをしてから、わたしは銀ちゃんが今ここにいる理由を知った。
なんと沖田さんの大親友として呼ばれたらしい。
『ったく、いつ俺があいつの大親友になったっつー話、』
『すみませーん。チョコレートパフェ三つお願いします』
途中まで髪の毛をガシガシ掻き毟って面倒臭そうにしていた態度はいずこへ。銀ちゃんは光の如く速さで沖田さんの隣に座り、友達っていうか俺としては弟みたいな感じ?と真顔で語りだしていた。銀ちゃん、総一郎やない。総悟や。
まあ、またこの子はこんなに年上の方と…と懸念するミツバさんに沖田さんは大丈夫です。頭は中2の夏の人なんでと返している。
ハラハラしながら聞き耳をたてていると。
『って、お前。俺なんかよりもっと打ってつけの奴いるじゃねーか』
銀ちゃんはそう言った次の瞬間、『小春ー!』とわたしを呼び、そして手招きをした。
え。
予想外の展開に瞬きをぱちぱちと繰り返すわたしと、なぜかニヤニヤ笑いの銀ちゃん、明らかに嫌そうな顔をしている沖田さんと、まあ、と口に手をあてて驚いているミツバさんの姿が、ファミレスの一角にあった。
『こ…!こんにちは…!わ、わたくし山川小春と申します!よ、よよよよよよろしくおねがっ…いたっ!舌かんだ…!』
『ふふ、そんなに緊張しなくていいのよ?』
テンパりまくっているわたしに、ミツバさんは優しい言葉をかけてくださる。本当にこの人沖田さんのお姉さんなのだろうか。多分、沖田さんの優しさという成分は全てミツバさんに吸い取られてしまったのだろう。
『そーちゃん、ちゃんと同い年くらいのお友達いるじゃない。どうして紹介してくれなかったのよ』
『いや…その…』
ボソボソと言葉を濁す沖田さんを見ながら銀ちゃんは『へ〜え?』を意地悪く笑う。
『…旦那、その気持ち悪い笑いやめなせェ』
『おーこわ。いや〜そっか〜へ〜え、ふーん?』
依然としてニヤニヤ笑いをやめない銀ちゃん。沖田さんはチッと舌打ちを鳴らした。
…それから銀ちゃんがミツバさんのタバスコで生死の境をさ迷ったりなんやかんやで、今に至る、というわけだ。
それにしても…、
…。
わたしはちらりと沖田さんの背中に、気付かれないように目を遣った。
沖田さんは、やっぱり、いやなのかな。
わたしみたいな何の取り柄もないのを友達って、紹介したくないのかな。
女々しくて面倒臭いのは百も承知だが、沖田さんが大親友として紹介されたのはわたしじゃなくて銀ちゃんということに、わたしは結構なショックを受けていた。
たしかに大親友っていうレベルの仲の良さかどうかって言われるとあれだけど…。
それでも銀ちゃんよりは仲いいと思っていたんだけど…。
すっかりネガティブモードに突入していると、頭になにか被せられた。
「おう、似合うじゃねーか」
見上げた先には銀ちゃんの姿。わたしの頭をぽんぽんと弾むように撫でている。大きい掌の感触が帽子越しに伝わってきて気持ちいい。
鏡を見ると、わたしはチョッパーの帽子を被せられていた。
もしかしたら、元気づけようとしてくれてる、のかな?
銀ちゃんの優しさに、思わず笑みがこぼれる。
優しい言葉はかけてくれないけど、いつも掌から暖かい優しさが伝わってくる。
だからわたしは、銀ちゃんが大好きなんだ。
せっかく元気づけてくれている銀ちゃんのためにも、わたしはテンションを上げ、明るい声で返した。
「銀ちゃん、青色のチョッパー帽子もあるよ、被ってみて!」
「これか?」
「そうそうそれそれ。…あ、似合う似合う!いっしょに買おうよ。そんでお揃いに…ゴファッ!!」
突然、わたしの後頭部に衝撃が走った。
「あー。わっりー。手が滑っちまったー」
振り向くと悪魔は、間違えた沖田さんは、無表情でいけしゃあしゃあと言いのけた。
「え、ええ…!?な、なにするんですか…!?今のは本当に意味がわかりませんよ!?」
「お揃いとか気持ち悪いこと吐かすからでィ。なにがお揃いでさァ、なにが」
今にもぺっ、と床に唾を吐きだしそうな小憎たらしい口調で嘲ってくる沖田さんに、流石に憤りが生まれた。
だいたい今わたしちょっと沖田さんに怒ってる、っていうかなんていうか…ちょっともやもやしているところにこの態度って…!これはちょっと、チキンなりに頑張って反撃してやる…!
と、意気込んでいると、ミツバさんがクスクスと口を抑えて、笑い始めた。
「久しぶりに見たわ。そーちゃんの、ヤキモチ」
…、
ヤ キ モ チ…?
ミツバさんは上品に口元に手を当てながら、そーちゃん昔は猫にヤキモチやいていたわよね。私の膝の上で寝るなって、とくすくす笑っている。
沖田さんに目を遣ると、沖田さんは、ただ、瞬きを繰り返すだけの生き物になっていた。
お姉さんの言う通り
「総一郎くーん。俺の帽子譲るよ〜。仲良く被りなよ〜」
「旦那そんなに生き急ぎたいんですかィ?」
「沖田さん…!そんなに、わたしとお揃いのもの欲しかったんですね…!」
「んなこと一言も言って、」
「沖田さんこれとかどうですか!?チョッパーの携帯ストラップ!」
「総一郎く〜んうちの子にはもっと直球でいかないと〜」
「(万事屋いつかぜってー潰す)」
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