「あー、肩凝るー!」
んー、と両手を組んで天井に向けて伸びをしたり肩をぐるぐる回したりする。
わたしにデスクワークは向いている。
向いている、のだが…、万事屋で飛んだり跳ねたりしているうちに、わたしの体はすぐ動きたくなる性分に変えられてしまったようだ。
「あー、久々にミントンしたいなあ…」
休み時間に山崎さんに頼んでミントンの稽古つけてもらおうかなあ。いやでも忙しかったら悪いしなあ…。
頬杖をついてつらつらと物思いに耽っていると、スパーン!と襖が開いた。
「飯」
…あなたは昔のお父さんデスカ。
わたしはモソモソと二つのお弁当を風呂敷から取り出した。
「どうぞ」
「さんきゅ」
いただきやす、と小さく呟き無表情でおかずを頬張っていく沖田さん。美味しいんだかまずいんだかちっともわからないのだが、毎日わたしのお弁当を求めるのでまずくはないのだろう。
沖田さんの方が先に食べ終わり、少ししてから続いてわたしも食べ終わる。ごちそうさま、とわたしが言い終わるのを待っていたかのように沖田さんはすくっと立ち上がった。
「おら、行くぜィ」
「へ」
目をぱちくりとさせるわたしを、沖田さんが強い力で火燵から引っ張りだした。
「へ、ちょっ、沖田さん、どこに」
沖田さんはわたしの質問にいっさい答えず、廊下をずんずんと突き進んでいく。
そのまま頓所を出て、見慣れた河原にわたしは連れて行かれた。
なにがなんだか…。
しかも沖田さん歩くの速いから最終的にわたしほとんど引きずられてたし…。
すると不意に何かが目に飛び込んできた。反射的にそれを掴むとそれはミントンのラケットだった。
「さっさと準備しろィ。もたくさすんじゃねえよ」
「あ、え!?は、はい!?」
「ほーらよっと」
軽く打っているような掛け声ですけどめちゃくちゃ速いんですけどォォォ!!
見えなかったんですけどォォォ!!
こ、これは…!
わたしはラケットを掴む手をぎゅうっと強めた。
ミントン協会会員No.14として、負けられない!
わたしの目は一昔前のスポ根漫画のようにめらめらと燃え始めた。
***
空はすっかりオレンジ色にすっぽり覆わている頃。
わたし達は草原に座ってぜーはーぜーはーと荒い呼吸を繰り返していた。
「お前…ミントンしてる時性格違わねえか…?」
「ああ…本気モードになると変わっちゃうらしいです…自覚はないんですけど…」
「どおりゃあああああ!」
「うおらああああああ!」
「どっせえええええい!」
※全て小春のミントン時の奇声
沖田さんは、いつものビビり具合は一体どこにいくんでさァ、とぼやいている。
…あー、久々に体動かしたから気持ちいいなあ…。
あ、もしかして。
わたしは沖田さんをそっと盗み見た。
気を遣って連れ出してくれたのかな。
ちょっと前のわたしだったらそんな考えには行き着かなかっただろう。
けど、ここ最近ちょっといっしょにいて、わたしは彼が案外優しい人物だということを少しずつ少しずつ、知っていた。
小さい声だけど必ずごちそーさんって言ってくれること。
わたしが食べ終わるまで傍にいてくれること。
些細なことっていやあ、些細なことだけど。そういう気遣いに銀ちゃんみたいなぶっきらぼうな優しさを感じた。
蜂蜜色の髪の毛を夕日が照らして眩しい。男の子だけど綺麗だなと素直に思える。…若干悔しいけど!
「なにじろじろ見てんでさァ」
沖田さんが眉を潜めてわたしを睨みつけていた。
通常時のわたしなら、ぎゃああああああすみませんんんんと発狂していた。
しかし、今のわたしはミントンモードがまだ若干残っていて。
「沖田さんって綺麗な髪してますねえ」
「は?」
「すみません、ちょっと失礼します」
それに。
綺麗なもの、可愛いものがわたしは大好きなわけで。
だから、恐怖よりも見たいという欲求が勝ったわけで。
沖田さんに近づき、膝を折って背筋を伸ばす。
沖田さんのつむじを見るなんて初めてだな〜なんて呑気に思う。
さらっと髪の毛を一房さらう。きらきらと光りが反射してさらに輝きを増す。
「わあ、きれえ」
きらきら、きらきら。
思わずうっとりし、へらりと口元がだらしなく緩んだ。
「ぎゃあ!」
急に肩を強く捕まれ無理矢理座らされた。
「…それ以上触んじゃねえ」
「あ…、す、すみません!!」
いい今わたしめちゃめちゃ馴れ馴れしかった…!失礼過ぎる!
こんなことしたら、やっぱり沖田さんだものめちゃめちゃ怒るよあああああ馬鹿ァァァァ!!
目をぎゅうっとつぶって降り懸かってくる沖田さんのサディスティックを堪える体勢を作る。
が、いつまでもそれはこない。
恐る恐る目を開けると、沖田はそっぽを向いていた。
沖田さん?と声をかけても無視をされる。
沖田さんの前に行こうと腰を上げたら今こっちきたら殺すと言われたのですみまっせーん!!と叫んだ。
出来心と群青
「あ!隊長俺のラケッもごごご」
「総悟は今青い春の真っ最中だ邪魔するな山崎!!…トシそのビデオカメラはなんだ?」
「可愛い弟分のときめきメモリアルだ。あとで馬鹿にす…。ゴホンほらあれだ近藤さん。子供の運動会をビデオに撮る親父と同じ心境なわけだ今俺は」
「副長すっげえオーラが黒いですよどう見てもお父さんから程遠いですよ」
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