2023/02/22(Wed)




「続き」
「無理」
「つーづーきー!」
「無理」

 私はココとヤるとなると三分の一確率で鼻血を垂らす。その三分の一が今日回ってきた。キスされながらキャミソールの中に手をしのばされて脳みそぐわんぐわんになっていたら鼻に熱が一点集中し、鼻血を出した。
 
「やだ!! ヤる!! 大丈夫だもん!!」
「前も大丈夫つってヤったらマジやばくなったじゃん」

 うっと言葉が詰まる。ココの言う通りだ。以前鼻血出した時も『大丈夫!』と何の根拠もないのに言い張り続きをせがみ鼻血が止まってから再開したら鼻血もまた再開ししかもなかなか止まらなかった。
 
「で、でも今日は違うかもじゃん!」
「今日も同じ可能性のが高ぇだろ。寝ろ。オレも寝るから
「なんでそんな簡単に切り替えられんのーーー!! てゆーかなんでこんな健気な美少女のこんな姿見といて冷静でいられんの!? 色気むんむんの私を襲いたくなんないの!?」

 昨夜高いボディクリームを隅々まで塗りムダ毛の剃り残しがないか丹念に調べぬいぐるみをココに見立てて今日のシュミレーションをしてたら頭がぐわんぐわんし始め中断しエロい下着を買いに行ったら乾の女が乾を連れて入ってきやがり乾は私とエロい下着を見てうぷっとヒマワリの種を頬張るハムスターのようになり『吐く』とほざき……という数々の試練を乗り越えてやっと今日に辿り着いたというのに鼻血出して終わりとか!!
 
 並々ならぬ執念を胸に、寝転がっているココに下着とルームウェアの中間に値するキャミソールワンピ姿の私を両手を広げて見せつけると、ココは「ハンッ」と鼻で笑った。 

「はーーー!? なにその態度!!」
「色気かっこわらいかっことじる」
「笑うトコじゃないじゃん!!!」
「興奮すんなって鼻の穴からティッシュ飛び出んぞ。まぁあとアレだわ。〜するなって言われるとしたくなるじゃん? それと逆の原理が働いてる」
「なにそれなにそれなにそれ!! 意味わか……んなくはないけど!!! あーもう!! いいから襲え!! 襲え!! 襲ってよーーー!!!」
「オヤスミー」
「おーーそーーえーーーーーー!!! ねられないーーーーーーー!!!!







 寝てんじゃねえか。

 寝られない! とじたばた暴れまくっていた麻美は三十分後普通に寝だし、肩透かしを食らったような気分と呆れた気分が胸の中に混在していた。

 麻美とは三分の一の確率でヤれないから、確実にヤれると確証を得るまでオレはブレーキをかけている。流石にヤる気満々の時に途中でストップかけられたらきつすぎるからだ。つっても、鼻の穴にティッシュ詰めてる女に色気のいの字もない。

 麻美の呑気な寝顔を眺める。ぎゃあぎゃあうるさい口が少しだけ開いていてあどけない。眉も垂れているからか激しい気性が引っ込んでいた。いつもこうだったらいいのにとも思うしそれは物足りないとも思う。

 ……オレも寝よ。目を閉じて寝る体勢に入る。
 すると、暖かくて柔らかい何かが、オレに密着した。いや、何かじゃない。

「ココ〜〜〜〜」

 麻美だった。

「……だから、また鼻血出る……って、え、寝て……る……?」

 麻美からすやすやと寝息が聞こえてきた。寝ていた。寝ぼけてオレに抱き着いていた。

「マイスイートダーリン〜〜〜〜〜〜〜〜」

 麻美は夢の中でなんか死ぬほど馬鹿な呼称で多分オレを呼んでいる。恋愛脳ここに極まれりだ。麻美の恋愛脳には慣れつつあるからよくねぇけど一旦いいとして問題は、密着している体だった。オレは胸よりも脚派だ。でも、流石に、上に乗っかられるとなると。オレの胸板の上に胸が乗っかっている状態となると。

 …………………………ムラァ……………………

 性欲がふつふつと沸き上がってきた。が、今日は三回に一回のターン。今からしたところで前と同じオチだ。それにさっきあれだけ馬鹿にした手前わざわざ起こして『ヤらせてほしい』と頼もうものならこの女は調子に乗って周りに惚気まくるだろう。女のダチはいいとしてガチでドラケンとか松野に言うのはやめてほしい。松野の『ココ君結構ロマンチストなんすね』という半笑い顔を思い出し麻美への怒りが最熱した。

 ……いけるいける。こんな何回ヤッても処女みてぇで駆け引きのかの字もない女とか全然余裕……。
 静かに息を吐いて昂りを鎮めようと目を閉じた瞬間、更に体が密着した。麻美の胸が更に押し付けられて、形が変わっているのがわかる。あーそうだネこいつガキの頃から発育よかった頭に回る養分が胸に流れたんだろうなそうそうそれだけあとオレは脚のが……。

 頭の中で状況と自分の趣向を冷静に言語化していたら、麻美が脚をオレの脚に絡めてきた。

 …………………………
 ………………………………
 ………………………………………………
 ………………………………この……………………女………………………………

 わなわなと震えている手で麻美の肩を掴んで起こさないように引き剥がそうとしたら、オレの背中に回した手に更に力を籠めてきた。ぐずるような声を漏らしながらオレの首筋に顔を埋めてきた。オレと麻美の皮膚の凹凸がちょうどぴったり重なったように密着する。

 …………………………いや?
 全然余裕。ふっつうに余裕。マジ全然だってなぁそんなさっきまで鼻の穴にティッシュ詰めてたような、キスマークつけようとして全力で噛みついてくるような、そんなんに性欲コントロールできねぇほど欲情するとか絶対ない、元々得意な方だし、そんな童貞みたいに盛るようなそんな――









「ココーーー!! 起きてよーーー!! いつまで寝てんの起き………目ぇ赤!?」
「……一睡もしてねぇんだよ今から寝るんだよ静かにしろ」
「はぁーーー!? なんで寝てないの!! あっまたなんか難しい本読んでたとか!? 今日横浜行くって約束したじゃん!!!! なんでちゃんと寝とかないの!! 馬鹿!!!!!」
「オマエまじいい加減にしろ」
「なんでマジ切れしてんの!?!? ココが悪いんじゃん!! 自業自得じゃん!!!」
「騒ぐんじゃねえ頭に響く」



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