2023/02/15(Wed)




「青宗君チョコだよーー! 今年はちゃんと味見したし柚葉監修の元作ったから大丈夫! 安心して! 今年は水で誤魔化さずに食べれるよ!」

 去年、陽子からもらったチョコはクソまずかった。陽子が作ったものでも不味いものは不味かった。松野の好きな漫画に出てくるチン毛が生えてなさそうな男は『オマエの作るものならなんでもうまいよ』とかほざいていたがアレは奴のやせ我慢だ。不味いもんは不味い。
 まぁでも、嬉しかったことは嬉しかった。オフクロとか赤音とかクラスメートに渡されたものとは比べ物にならないくらい。

「ありがとな」
「いいえー! どいたまー! てか開けて開けてー!」

 陽子にせっつかれて箱を開けると、チョコのケーキが入っていた。「今年は絶対美味しいよ!」と陽子は得意げに笑っている。

「柚葉んちのオーブンがお金持ちのオーブンでさぁ、すごかった! キッチンも超綺麗だった! 青宗君も柚葉んち行ったことあるんだよね? 柚葉が昔言ってて………………うん! 食べて食べて! そーだ食べさせてあげる!」

 陽子は何かを取り繕うようにばーっとまくし立てると、プラスチックのナイフを取り出して切った。

「はい、あーん!」

 陽子は一口サイズのチョコケーキを刺したフォークをオレに向けてきた。がぶりと噛みつく。陽子以外の人間にされたら頭沸いてんのかテメェとぶん殴るけど陽子だからしない。頬張って堪能すると、去年と違い普通にチョコケーキの味がした。普通にうめぇ。

「おいし?」

 食ってるから無言で頷くと「やった!」と陽子は破顔した。心臓がもぞもぞした。

「あ、青宗君。ついてる。違う違うそっちじゃない。右右。あーもういいや、取ってあげる」

 陽子はオレの頬に手を這わせると、親指で口の端に触れ、ぐいっと拭ってきた。そしてそのまま陽子は自分の唇に運んでぺろりと舐めてから、にやぁっと笑った。さっきのくしゃりとした笑顔とは違う、挑発的な笑い方。

「まずそっちを食べてからね?」

 陽子の良い奴≠カゃない方の面に、神経がぴりっと痺れる。陽子はこういう一面を基本的にオレしか見せないので、他の奴らに『あいつそんな良い奴じゃねえぞ』と言っても『何言ってる』と白い目で見られる。八戒も『は? 陽子ちゃん面白いし優しいしいい子じゃん』と言って…………………………
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「陽子」
「ん?」
「昨日柚葉んちに泊まったんだよな」
「うん。そーだよ。チョコパしたんだー。あ、このチョコパはチョコレートパフェの略じゃなくてチョコパーティーの略ねー! 作ったチョコとか買ったチョコ食べまくった! 八戒君もうまいうまい言ってた!」
「八戒」 
「最近よーーーやく喋ってくれるようになったんだよね! お風呂入ったあとに一緒にチャーリーとチョコレート工場見たよー! 私がウンパルンパの物真似したら八戒君にウケて嬉しかったなー!」
「風呂上がり」 
「今度はホワイトデーにとりまなんか食べよパーティしようって話にぎゃっ!?」

 陽子の肩を掴んで真剣に言い募った。

「オレもそのなんか食うパーティに参加する」








「イヌピー君なんかすげぇ落ち込んでない? どしたんすかあれ」
「陽子ちゃんと柚葉の女子会に参加しようとしたの断られたんだとよ。柚葉が『乾と九井だけは二度と家に上がらせない』って断固拒否」
「身から出た錆っすね」



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