2022/05/19(Thu)



 
 陽子を押し倒す。スエットを脱がす。この間、乾青宗は何も考えていなかった。いや考えている事は考えているがすき焼きを食べている時に「この肉うめぇな」と思う程度の思考力で、

 やっとヤれる

 その事ばかりを考えていた。

 なんせ彼女の陽子は太ったからダイエット成功するまでヤらない! と訳の分からん理屈をこね始め何訳わかんねぇ事言ってんだいいからヤらせろと思っていたが、強行突破する訳にもいかない。無理強いはしたくなかった。というかできそうになかった。乾青宗は陽子にひどいことがどうしてもできない。

 昨日、陽子から電話を受けた。最初は当たり障りのない話題だった。今日学校でこんな事があってという毒にも薬にもならない話題を筋トレしながら聞いていた。他の人間から聞いたら0.000005秒で寝る話題だったが、陽子の話なら聞けた。へぇ今度ユカコとディズニー行くのか、あ、ユカコじゃねぇまた間違えた。そんな風にどうでもいい(失礼)話題を聞いている内に、妙な間が空く。

「……青宗君ち、泊まりに行ってもいい?」

 陽子と電話していたら不意に妙な間が空いた後、陽子は躊躇いがちに切り出した。泊まり。その言葉の意味を咀嚼する間もなく、陽子が照れくさそうに続けた。

「その、一キロ、痩せてさ」

 乾青宗の頭の中で花火が百発ぶちあがった。



 とまあそんな具合で陽子が泊まりに来る。「ユカリんちに泊まるって言った」とはにかんでいる表情に心臓がもぞもぞと疼いた。どーでもいい話題をしながら夕飯を共にする。会話の主導権は九割陽子だ。相変わらずどうでもいい話題をしまくる。美味しいモンって何で全部カロリー高いんだろうねー! 知らねえよ。

 そんなこんなで夜が更ける。陽子はパジャマを忘れたと言う。スエットを貸したら忘れたのは嘘だと告白された。「青宗君のスエット着たくてさ」乾青宗はもはや怒りを覚えた。ふざけんなこの、クソ、この。乾青宗は陽子を罵倒できない。ちなみにこれが幼馴染の性悪女だったらクソアマ死ねカス今すぐ呼吸止めろメダカブス(※1)と罵倒できる。というかそもそもスエット貸さないし泊めない。ちなみに「青宗君のスエット着たくて」という陽子の発言も計算の内である。わざと煽っているのである。末恐ろしい女だ。
※1……救いようのないブス

 交代でシャワーを浴びた後、ベッドに押し倒す。スエット脱がす。陽子のブラジャーに包まれた胸が見える。少し久々の光景に頭の芯が熱くなり、血液が沸騰する。なんか今までのと違う気がすると一瞬思うが、乾青宗のIQは下がりまくっていた。思考力はほぼ、ない。とにかく脱がせたいので下のズボンも下ろして、巨大な空白に呑み込まれる。

 パンツが透けていた。そして両サイドが紐だった。

 思考力が消滅した乾青宗は何も言わない。無言が気まずく思ったのか、陽子は「え、えーっとぉ」と声を上げてから、

「勝負下着、みたいなー」

 と、おどける。それから、気まずさを誤魔化すように、へらぁっと笑った。

 乾青宗の体内で、ブチブチブチィッと毛細血管が切れる音が響く。暴力的な熱が全身を支配した。
 その時、彼の鼻に異変が起きる。熱い。ものすごく、熱い。昔抗争最中に相手にぶん殴られた後に感じたものと同じものが、鼻の下に垂れていく。

「………へ」

 陽子が目を丸くして、乾青宗を凝視する。そして、悲鳴を上げた。

「青宗君鼻血出てる!!!!」

 乾青宗は陽子の発言を受けて手の甲で鼻の下を拭った。確認すると確かに、血がついている。鼻が熱いし、そういうことだろう。けど今はどうでもいい。とにかく今すぐヤりたい。

「大丈夫だ」
「ぜんっぜん大丈夫じゃないから!! ティッシュティッシュ!!!」

 陽子は飛び起きてティッシュを数枚引き抜いて乾青宗の鼻に押し付ける。しかし全然止まらない。ティッシュは瞬く間に赤く染まっていく。

「え、ちょっ、どうしよー! 『鼻血 止め方』でググるから青宗君ティッシュ持ってて!」
「すぐ止ま――、」

 乾青宗は起き上がった陽子の胸に、視線を行き着かせてしまった。寝そべっている時は左右に流れるが、起き上がっている時は、まあ、ある。谷間に釘付けになった。生すげぇ。実物の陽子の瑞々しさに乾青宗は感動した。そしてまたティッシュが赤く染まった。

「うわまたティッシュが! 新しいの新しいの!」

 陽子は新たなティッシュを引き抜いて乾青宗の鼻を抑える。

「てか青宗君持ってってば! 調べられないから! しんべヱの彼女みたいな事してる余裕ないの!」
「オレはあんな間抜け面じゃねえ」
「例えや例えーー!」

 ひとしきりツッコミを終えた後、陽子は『鼻血 止め方』でググる。その間乾青宗は真顔でティッシュを鼻にあてていた。

 ググった結果は要約すると「鼻血が出ている方の穴にティッシュを詰め込んで大人しくしろ」だった。二人は大人しく従う。
 ティッシュを丸め、乾青宗の鼻の穴に入れた。

「……よし、これで後は大人しく、ぎゃあ!?」

 とにかくヤりたい。その一点のみで動いている乾青宗は陽子を押し倒した。

「ちょっと青宗君! グーグル先生が大人しくって言ってんでしょーー!」
「知るか」
「知るかって、ちょっと……!」

 乾青宗は陽子の制止を聞かずにブラを押し上げる。陽子の身体がピクリと反応した。「んっ」と鼻がかった声も零れ落ちる。乾青宗はもともとアクセルを踏んでいた状態だが、更に加速させた。顔を近づけてキスしようとした時――、

「……ぶふ…っ」

 陽子が噴き出した。一度噴き出したら、もう止まらない。陽子は喉を仰け反らせて、爆笑を始めた。

「あははははは! あははははは! ひーーーっ、ティッシュ詰まった顔で近づかれても、ひーーーーっ、顔がいいだけになんか、もう、余計に……! あははははは! あははははははははは! あは、げふっ、ごふっ」




ふりだしにもどる(東卍イヌピー) - more

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