2022/04/24(Sun)


「あ〜〜〜〜重かった」

 麻美ちゃんはテーブルの上にアルバムをドサドサ降ろすとしんどさをアピールするようにこれみよがしに肩をぐるぐる回し、そして掌を私に突き出した。

「三万」

 ぼったくり過ぎと思うけど、致し方ない。私は財布から三万を出して、麻美ちゃんに恭しく献上した。

「はい、どうぞ。重いのにありがとね」
「マジそれー。ホント感謝してよね。何買おっかなーそろそろ財布買い換えよっかなー」

 どうやら私のバイト代は麻美ちゃんの財布に生まれ変わるらしい。なんとも言えない気分になるけど、まあ、うん、いいか。深く考えないようにしよう。私が汗水垂らして稼いだお金が彼氏の超絶仲悪い幼なじみの財布に化けることに虚しさを覚えたら負けだ。それに単に貢ぐわけじゃない。私はこのために、お金を払ったんだから。

 アルバムを開くと、そこには。

 あまりの衝撃に目を見張らせてから、ほうっと息をつく。頬が緩みに緩みきった。
 
「ちっちゃい…! かわいい……!」

 アルバムを開いたそこには、桜の木の下で小1の青宗君が半目で映っていた。かわいいかわいいかわいい!好き!!!大好き!!!!この写真の中に飛び込んで全力で抱きしめたい!!!!!でもそんなことしたら何すんだやめろ離せとか言ってきそう!!それでもいい!!!

「趣味悪子マジ趣味悪い。半目の乾の何がいいんだか。てか乾って存在とよく付き合えんね、まぁどーーでもいいけど」

 麻美ちゃんは私の名前を覚えない。趣味悪子と呼んでくる。麻美ちゃんにとって青宗君と付き合うなんて正気の沙汰じゃないらしい。本来、私は青宗君のことを悪く言われるのが嫌なんだけど麻美ちゃんの場合例外だった。青宗君も負けじとものすごい勢いで麻美ちゃんを罵倒しているからだろうか。青宗にとって麻美ちゃんは史上最悪のブスらしい。いやいやいやいや。顔は可愛いよこの子、柚葉にも負けてない。お兄さんのDVから八戒君を守り続けてた強くて優しい柚葉と違って性格はアレだけど。

「てか麻美ちゃんもこの頃から可愛いねー!」

 ぼったくられたけどアルバム持ってきてくれたことだしと思って、一応褒めておく。実際麻美ちゃんは小さな頃から可愛かった。子供だから可愛いんじゃなくて単純に可愛い。私のおべっかに対し麻美ちゃんは「あーはいはい」と髪の毛を人差し指に巻き付けながらどうでも良さそうに流した。言われ慣れてるんだろうな……。羨ましい限りだ。けど持ち上げてるんだからもうちょっとこう……さぁ……。ナナコ以上に可愛いけどナナコ以上にめんどくさい。会話を広げる気のない麻美ちゃんに辟易しながら「ぱっちり二重いいなー」と笑いながら次のページをめくっていく。

 あ、ココ君。視線の先にココ君がいた。小学四年生か。麻美ちゃんと二人で映っている。麻美ちゃんは今のような仏頂面じゃなくて、ピンク色の頬を綻ばせて満面の笑顔を咲かせていた。くしゃっとした笑顔には『しあわせ!』と書かれている。

「麻美ちゃん、ココ君のこと好きだったの?」

 麻美ちゃんの指が一時停止した。頬に赤みが差す。「悪い?」と私をじとっと睨みつけてくる。「いや悪くないけど…」と返す。昔好きなだけだったら、頬を赤らめないだろう。どうやらまさかの現在進行形らしい。小学生の頃からって……え、数年も……?
 もう一度写真に視線を落とす。恋する乙女モード全開な麻美ちゃんに対してココ君はどーでも良さそうにつんと澄ましている。赤音さんと写真に写っている時のようなドギマギしている感はない。あ、これは触れちゃいけない奴だ。元・転勤族の私は空気を読む事でクラスに馴染んで来た。乗っていい話題、乗っちゃ駄目な話題を犬のように嗅ぎ分けて判断する能力には自負がある。ココ君から麻美ちゃんの思いに触れないことにする。

「そーなんだ! いいじゃん! お似合い!」

 とりあえずおだてとくかと思っておだてると、容姿の時は反応しなかった麻美ちゃんも「趣味悪子になにがわかんのよ」と指に髪の毛を更に巻き付けながら、満更でもない声だった。口元が緩んでいるし小鼻がぴくぴくと震えているので言われて嬉しいのだろう。

「小学生の時から好きなの? すごいなー一途じゃん!」
「まぁそりゃ合コンなんかで乾の馬鹿と出会った趣味悪子に比べたらそうだけど」

 こ、こ、このやろぉ………。口の端が痙攣しているのを感じるけど、無理矢理持ち上げる。青宗君と死ぬほど仲が悪いけど、青宗君の幼なじみだ。今後もアルバムとか昔話とかでお世話になるかもしれない……。ココ君から聞けたらいいんだけど、どこにいるかわかんないしな……。

「私ちょっと前にココ君に会ったんだけど――、」

 そこまで言うと、気付いたら、麻美ちゃんの顔がすぐそこにあった。元々長い睫毛にマスカラを加算しているから、麻美ちゃんの睫毛は人形のように長い。大きな目が何故か吊り上がっている。

「なんでアンタがココに会ってんの」

 何故か、低めた声で凄まれている。何故か、胸蔵を締め上げる勢いで掴まれている。

「あ、会ったというか、」
「なんでアンタみたいなぽっと出の尻軽ビッチがココに会ってんの」
「え、ちょ、あの、」
「私のココに近づかないでよ!!! 趣味悪子は乾の馬鹿だけの相手してろよ!!! つーかどこで会ったんだよ!!!」
「えええええあのちょ何がそんな怒りのスイッチになった、ちょ、胸倉掴むのやめ、息が、ぐええぇ」
「麻美今すぐ陽子ちゃん離せ!!!! イヌピーがオマエを本気で殺そうとしてる!!!! おいコラ暴れんな!!!」
「うるせぇ離せ止めんならオマエも殺す!!!! あの史上最悪のブスともども殺す!!!!!」






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