2022/03/12(Sat)


 



 まず初めに思ったのは可愛い≠セった。
 くっきり刻まれた二重瞼にくるり上を向いた長い睫毛。白くなめらかな頬には睫毛の影が落ちている。すーっと通った鼻筋に見るからに潤いにみちた小さな唇。全てのパーツが小さな顔の適切な位置に収まっていた。
 ピンク色のカーディガンに包まれた体は華奢だけど胸は大きい。短いスカートから白く伸びた脚が輝いている。胸まで伸びたふわふわの暗めの茶髪は可愛らしい顔立ちによく似合っていた。
 そんな美少女にイヌピー君は言った。

「どけブス」

 ピキィッと美少女のこめかみに血管が浮かんだ。

「は? なんで私が? なんで犯罪歴のない真っ当な一般市民の私が前科持ちに道譲んなきゃなんないの? どういう理屈? 義務教育もろくに受けてこなかった馬鹿の理屈???」
「テメェは生きてることが罪なんだよいいからどけそして死ね」
「意味わかんねー事言ってんじゃねーよ!! オマエが死ね!!!」

 口わっっっる!てか仲悪!!!!!!

 角を曲がるなりぶつかりかけたイヌピー君と美少女はお互いを認識するなり舌を強く鳴らし、忌々しげに睨みつけ合い怒涛の勢いで互いへの悪口を展開した。

「乾に出会すとか最悪死んだあーーー吐きそう」
「死ねゲロに塗れて死ね」
「あ、あのーー! 二人とも落ち着こう!?」

 醜い罵り合いをいつまでもやめない二人を見兼ねて仲裁に入ると美少女にギロリと睨まれた。大きな目がすうっと細まり、値踏みするような眼差しで私を射竦める。

「何アンタ」

 文句なしの可愛さにこの気の強さ。間違いなくカーストトップに君臨するタイプだ。この手合にうまく取り入り懐柔することはまあそれなりに得意だ。にこやかな笑みを浮かべながら話しかける。

「私はイヌピー君の彼女でなか」
「乾の彼女!?!?!?!?!?」

 美少女は私の自己紹介を途中で遮り目をひん剥いた。

「趣味わる!!!! 怖!!!! てゆーか乾のくせに彼女作るとか生意気!!!!」

 完全にのび太のくせに生意気だの理屈である。こんな目つきの悪いのび太いないけど。美少女は見た目こそしずかちゃんになれる器しているのに性格はジャイアンだった。横暴がひどすぎる。

「――中野」
「え」

 ひき寄せられた直後、自転車が高速で私の横を通り過ぎた。けどイヌピー君が肩を掴んで引き寄せてくれたので事無きを得た。あっぶなー。胸を撫で下ろした後、私はイヌピー君を見上げた。笑顔でお礼を伝える。

「ありがとー!」
「ん。大丈夫か」
「うん!」

 イヌピー君が静かに微笑んだその時だった。

「……………え……………キモ……」

 美少女の恐怖に戦慄く声にイヌピー君は鬱陶しそうに目を細めた。けど美少女は構わずまくし立てる。

「乾が女子にや、やさし、うぷ……! なに今の! 怖いキモい鳥肌やばい! 怖い怖い怖い怖い怖い!」

 イヌピー君が悪く言われてることにムカッとするはずなんだけど美少女があまりにも嫌がりすぎてて圧倒される。鳥肌を総立ちさせながら仰け反っていた。

「いちいちうるせぇな。舌噛みちぎって死ねブス」
「ほら!! 私には死ねとかブスとか言ってくるじゃん!!」
「死んでほしいしブスだからに決まってんだろうが。つーかオマエ如きと喋ってる時間ねえんだよ。行くぞ」
「え、あ、」

 イヌピー君に手首を掴まれて私はずるずると引きずられる。え、これいいの? めちゃめちゃ睨みつけられてるんだけど、憎々し気に睨まれてるんだけど、あ、なんかスクバから取り出して何かを放り投げ――――え?

「ぁいた!!」

 美少女が投げた何かが私の頭にぶつかり、地面に転がり落ちた。フリルがたっぷりついたマリーちゃんのペンケースだった。

「チッ、外した……!」

 忌々しげに舌打ちしている美少女に、私への謝罪の心は見受けられない。え。え。えーーーー。せめて形だけでも謝ればいいのにと怒りよりも心配が先立つ。ムカついたらすぐにキレる。女子高生というよりも幼稚園児のような幼い精神性に呆然としていると、隣でピキピキピキッと何かが切れていく音が聞こえた。ヒヤリと冷たいものが背中に落ちていった。
 ムカついたらすぐにキレる。私の隣にいる子も、そうだった。怖々と見上げた先には、イヌピー君が信じられないくらいにこめかみに青筋を立てまくっていた。

「テメェこのクソカスアマ……! 楽に死ねると思うなよ……!」

 イヌピー君はゴミ捨て場に落ちていた瓶ビールを拾い上げると叩き割り、美少女に向かっていった。殺る気だ……! 間違いなく殺る気だ……! 目が殺意でギラッギラしてる!!!

「イイイイイイヌピー君落ち着いてそんなに痛くないから大丈夫だから!」
「楽に死ねると思うなはこっちのセリフだっつーの!! 痴漢撃退用に買ったコレがあんだからね!!」
「ぎゃーーーーーースタンガン!!! てか私が必死に宥めてんのにどーして更に煽るようなこと言うんやーーーーー!」
「んなちゃちな電流でオレがテメェに負けるかこの史上最悪のブス今ここでぶっ殺してやる!!」
「ちょ、誰かこれ、あ!!! ドラケン君!!! お願い何とかして!!!!」
「何をどうしたらこんな事なんだ」




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