2015/01/29(Thu)



「ババンババンバンバン」

「アビバビバビバ」

「ババンババンバンバン」

「アビバビバビバ」

「ババンババンバンバン」

「アビバビバビバ」

「ババンババンバンバン」

「「いっい湯だな〜」」

最後に二人で一緒に合わせた後、笑い合う。ついたてを隔てた状態で。向こうから、兼さんの「お前らよく飽きねえな〜。っつーか、ガキか」という呆れ返った声に続いて、骨喰くんが淡々とした声色で「うるさい」と言った。鯰尾くんが「へへへ、ごめんごめん」と軽い調子で謝っている。『風呂場で歌うのってどう思いますかね…?』と恐る恐る訊かれたので、いいと思うよ?って言ったら、鯰尾くんは『ですよね!?』と、ぱあっと顔を明るくした。それから鯰尾くんはお風呂場で歌うようになり、その楽しそうな歌声を聴いているといつのまにか私も同じ歌を口ずさんでいて、今では毎日ババンババンバンバン、アビバビバビバとデュエットしている。ゴスペラーズはハモりが難しすぎてやめた。

「審神者、この歌いい歌ですねえ、なんか心が洗われるっていうか。どういう意味なんですか?」

「ババンババンバンバンっていう意味かな」

「わっかんねーよ!!」

兼さんのツッコミは今日も切れ味が鋭かった。鯰尾くんはけらけらと「そんなに怒ってたら禿げますよ〜」と笑っている。鯰尾くんはいつもこんな感じだ。馬の掃除と畑仕事はたいていの子が嫌がるのに、鯰尾くんだけは自ら進んでやる。馬の掃除やらせたら『審神者、この馬糞すっごいでかいですね!』と綺麗な顔立ちに綺麗な微笑みを浮かばせて持ってきた時は口の端がひくついたけど。

「鯰尾くん、次何歌う〜?」

「ポニーテールとシュシュがいいです!」

「…あーオレもう出るわ、付き合ってらんねえ」

「オレもオレもー」

お湯が揺らいだ音が向こう側から聞こえた。ガラガラとドアが開けられ、ピシャリと閉められる。

「ちゃーんちゃーちゃーちゃーちゃーちゃー」

「え、そこから始めるの?」

「前奏あった方が燃えません?オレ、この前奏好きなんですよ。なんですっけ、ピアノっていう楽器の音、すきです」

そう言う鯰尾くんの声色は戦場の時とは打って変わって、暖かくて安らぎに満ちていた。楽しげな歌声が波紋のように私のところにまで広がる。鼓膜を震わすのは滑らかな声で歌われる初々しい恋の歌。

「たっばねーたー、…なんでしたっけ。えーっと」

鯰尾くんは、うーん、と首を捻りながら考え込んでいるのだろう。多分、眉を若干眉間に寄せながら。一緒に過ごしていくうちに、こういう時はこういう顔をするんだろう、こういう時はああいう顔をするんだろうということが、少し予測できるようになった。鯰尾くんも、きっと同じ。私が冷蔵庫のプリンを大切にしていることとか、それを食べたら怒り狂うことを予測できるに違いない。今は。

そう、今は。
いつか、いつの日にか。
私も、前の主人のように、忘れられてしまうのかな。

「審神者」

「え、あ、なに?」

思い浮かべていた人(厳密には違うけど)に、呼ばれてあわてふためきながら応対する。鯰尾くんは何を考えているか掴みづらい口振りで話しはじめた。

「オレ、歌好きなんだよね。重苦しいやつから、こういう軽い感じのまで」

「演歌とアイドルってこと?」

「あーそれそれ。それだ。好きなんだよ。すっげえ。だからさ、また忘れちゃったら覚え出させてくんない?」

「…え」

「忘れたまんまでいたくないんだよね、審神者から教えてもらったもの」

なんとなく、と照れ臭そうに付け足したあと、鯰尾くんは「あははー」と笑って、口を閉じたようだった。広がる沈黙を持て余した鯰尾くんがバツが悪そうな声音で「変なこと、」と切り出したのに、私は覆いかぶせた。

「絶対思い出させる!!」

「え、」

「殴って思い出させる!!ってゆーか、忘れさせない!!絶対に忘れさせない!!忘れたら殴る!!」

「ええー」

鯰尾くんは心底嫌そうに声をあげたあと、ふはっと間の抜けた笑い声をあげた。

「あーあ、これじゃ前みたいに忘れるわけにはいかないなあ」

それは、肌と同様、湯にふやけてしまったような声音だった。


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