2014/09/16(Tue)
「ひゃっほーーー!!私はーーー風になるーーーー!!」
わたしは荒北くんと肩を並べていた。
「今の、未央ちゃんの声だよね?」
そう言うと、荒北くんはチッと舌打ちを鳴らしてからハァーッと息を吐いていた。
今日は少し変わったメンバーで遊園地に遊びに来ています。
何故、こうなったのかというと。それは二週間前に遡る。
「お願いします!」
わたしと東堂と栗原さんはファミレスにいた。栗原さんは額をテーブルにつけて、わたしたちに頭を下げている。
「そ、そんな頭下げなくても…」
「そ、そうだぞ」
「ほんっとーにお願いします!恥ずいんです!!恥ずい!!二人っきりは恥ずい!!」
顔を上げて、パン!と両手を合わせながら「この通り!」とお願いする栗原さん。わたしと東堂は何とも言えない表情を浮かべながら顔を合わせた。放課後、教室にひとりの女の子がやってきた。ショートカットがよく似合う目鼻立ちがくっきりした可愛い女の子だった。見たことがある。確か違うクラスのちょっと派手目なグループにいて、荒北くんと確か最近付き合い始めた…。その子は東堂に何回も頭を下げていた。ど、どうしたんだろう、と見ていると、目が合った。そして、こう言われた。
『東堂くんの彼女の…なんだっけ…よ、よし…吉原さんだよね!?』
お、惜しい。
『頼みたいことがあるの!お願い!パフェ奢るから!』
その子はそう言って、私にも勢いよく頭を下げてきたのだった。そして、半ば強引連れ出されるようにしてファミレスに連れてこられて、今に至る。
「二人っきりはね、まだね、駄目だと思うんだよ」
「まだって…じゃあ、いつならいいんだ」
「と、とりあえず、その、四人で出かけてから…」
東堂の質問に、栗原さんはごにょごにょと口をもごつかせながら言う。
栗原さんはひょんなことから遊園地のチケットを四枚手に入れたらしい。これは神の啓示だと思った。荒北にどっか行くか、と誘われて了承したものの、二人で出かけるなんて恥ずかしいと思っていたところに手に入れた四枚のチケットだから、神の啓示だと思った。二人で出かけるなんて高等なことをするな、誰か友達カップルを誘って四人でデートするのじゃ…!という神の啓示だと思ったんだ、私は…!と、栗原さんは熱弁した。
「二人で出かけたことはあるっちゃあるんだけど〜、あの時はさ、付き合っていなかったし、今は、付き合っているわけで。そんな状態で二人で出かけるのはさ〜…嫌じゃないんだけど、ほんと、嫌じゃないんだけど、恥ずくて死ぬ、っていうか…!」
真っ赤な顔で、視線を下に向けながら言う栗原さん。
…可愛いなあ。
顔立ちも可愛いけど、それだけじゃなくて、なんか。
東堂がわたしの横で目を閉じながら楽しそうに頷いた。
「うんうん、栗原さんもすっかり乙女だな。よろこばし―――ぶべらっ」
「そういうこと言うなあああ!!…はっ!ご、ごめん、また…!」
恥ずかしくて我を失った栗原さんが東堂を殴っていた。東堂は「気、気にするな」と頬を抑えながら、笑っていた。少し、涙ぐんでいた。
そんなこんなで。今日は四人で遊園地に来ている。荒北くんは何が悲しくてこんなバカップルと一緒に来ねェと行けないわけェ?と誘った時怒っていたけど、未央ちゃんにたくさん頭を下げられて舌打ちしてから「…わーったよ」と折れていた。好きな子には甘いんだなあ。
「何笑ってんだヨ、キモ」
「へへ〜、荒北くん、未央ちゃんのこと好きなんだな〜って思って」
「は」
「未央ちゃん、可愛いもんねえ」
「…勝手に言ってろ」
荒北くんの頬に赤みが差した。憎々しげにわたしを睨んだあと、ぷいとそっぽを向いた。可愛い。微笑ましい。
栗原さんから未央ちゃん呼びになるのには時間がかからなかった。未央ちゃんはわたしと違って、人懐っこくて、わたしは人見知りが激しいのに、あっという間に警戒心を解かせた。東堂がオレと仲良くなるにはもう少し時間がかかったのに…とぼやいていたけど、それは、男女の差もあるので仕方ないと思う。わたし、男の子の友達東堂が初めてだったし。
遊園地と言えば、ジェットコースター。未央ちゃんが乗ろう乗ろう!ときらきら輝いた瞳で提案してきた時、困ってしまった。こういう時絶叫系が苦手な自分が嫌になる。
『あ、えっと、わたし…、ごめんね、苦手なの』
『えっ、そーなの!?』
『オレは吉井と伴にここに残るから、荒北と栗原さん二人で―――、』
『あーいいよ、お前ら行ってこい』
『え』
『東堂も好きだろ。オレ、まあフツーってぐらいだからヨ、行ってこい。コイツと待ってるわ』
『え、でもー…』
申し訳なさそうに顔を合わせる東堂と栗原さんを、荒北くんはじれったく思ったのか。
『いいからいけってんだヨ!!栗原がさっきコーヒーカップで回しまくったせいでオレ疲れているんだヨ!っつーかお前らへのツッコミでも疲れてんだヨ!!』
そう怒鳴って、ジェットコースターの方へ突き飛ばした。三メートルぐらい二人が突き飛ばされて、わたしは吃驚した。ものすごい力で突き飛ばしている…。
東堂と栗原さんは突き飛ばされた背中を摩りつつ暴力反対と叫びながら、ここまでされたら乗るしかないと思ったようで、ジェットコースターへ向かったのだった。
と、いうわけで。わたしと荒北くんは二人でベンチに座っている。
「あー、マジできもちわりィ…吐くかと思った…」
「だ、だいじょうぶ?お茶いる?」
わたしは鞄から水筒を取り出した。荒北くんがアンガトネと言いながら受け取る。
「はー…」
「あのふたり元気だね〜」
「テンションたっけーからな」
「そうだね〜」
ピチチチ…と小鳥の囀りが聞こえる。日差しが気持ちいい。
「未央ちゃんみたいに明るくて元気でお喋り上手な子って可愛いね、ほんと。流石荒北くんの好きになる女の子だね」
「…お前ってはっずかしい事しか言わないネ」
「そうかなあ。だって、未央ちゃん可愛いもん。水原くんも可愛いって」
そこまで言ってから、わたしは慌てて口を抑えた。けど、時既に遅し。荒北くんがわたしを睨みながら訊いてきた。
「…水原って誰」
あー…。
おずおずと、荒北くんに説明した。
未央ちゃんと一緒に、荒北くんと東堂を待っていると。バイト先の男の子に声をかけられた。吉井さんも今日ここにいるんだーと。そして未央ちゃんを見てから、『隣の子、友達?すっげータイプ。ちょっととりもってくんね?』と耳打ちされた。『未央ちゃん彼氏いるから…』と言うと、ちぇっと唇を尖らして引き下がってくれたけど、名残惜しそうに未央ちゃんを見ていた。未央ちゃんはそんな水原くんに全く気付かず『やー、好青年じゃん。幸子ちゃんの周りはイケメンが集まるね!イケメンパラダイスってか!あっはっは!』と笑っていた。
「と、いうことがありまして…」
「へーえ」
荒北くん、明らかに、不機嫌になりました。
わたしの馬鹿…。
「やー、楽しかった楽しかった!」
「すごかったな!ぐるんと逆さまになったな!」
「あったあった!なんっかもう…風と一体になるって感じが…サイッコー!」
「栗原さんもロード始めたらどうだ?気持ちいいぞ」
「あーそだねー。大学生になったらバイトしてロードバイクかおっかなー。幸子ちゃんも誘って…やめとこう」
「…やめといた方が良い」
「せやな…」
「なんで関西弁なんだ」
幸子ちゃんがロードバイクに乗っている姿が全く想像つかない。わ〜!と言いながらこけてそうだ。顔面蒼白になった東堂くんが駆け寄っているところまで想像できたわ…。大丈夫か、怪我してないか、と心配して怪我していたらお姫様抱っこで連れて行きそう…うわァ〜。やりそう、やりかねないよこの人〜・
「…なんだ、その目は?」
「いや…東堂くんって、幸子ちゃんのこと溺愛しすぎていてすげーなって思って…」
「は!?なんで今の会話でそうなる!」
真っ赤になる東堂くんだが、否定はしてこない。可愛い奴め…。
さっちゃんかー。今までの私の友達にはいないタイプだ。私の友達は基本的に見てくれがけばくてツッコミが激しい。でも、あの子は。平均より少し小柄で、眉がいつも下がり気味のたぬき顔。性格のせいか、雰囲気からふんわりしている。胸元まで伸びた色素の薄い髪の毛を揺らして、にこっと笑う。あとおっぱいが大きい。
「私があんなパイオツカイデーだったらもっと胸出すのに…あんな…あんな隠したりしないのに…巨乳の考えていることはいつもわからん…」
「く、栗原さん?」
「あ、気にしないで。まーさっちゃん可愛いし気持ちわかるわーってこと」
「だろう!?」
「すごい食いついてくんね…」
「なのに自信を持たないんだよなあ。このオレの彼女だというのに」
「その東堂くんの自信を少しでもさっちゃんに分け与えてあげたい…」
「世間一般の眼から見たら、美少女という類に分類されないのはわかっている。でも、笑った顔とか、見ているだけで、幸せになれるような可愛さを持っているんだ、あいつは」
そう言って、優しく目を細める東堂くんの顔は、私が初めて見る顔だった。暖かい笑顔。どんな決め顔よりも、その笑顔はかっこよく見えて。
イケメンにそんな顔されたら…ちょっと…トゥンク…と胸が高鳴ってしまうのは…女子の性だと、思う…。
「荒北ごめん…」
「ん?どうした?」
「東堂くんってイケメンだよね」
「ワッハッハ!何をいまさらなことを!」
「私東堂くんのそういうところ結構好きだよ」
鼻高々になって、高笑いしている東堂くんと一緒に歩いていると、ベンチに座っている荒北とさっちゃんが見えた。さっちゃんが私達に気付いて、にこっと笑いながらひらひらと手を振っている。うーん、可愛い。
…って。
「荒北なんか怒っている…?」
「は?怒ってねえよ」
いやオーラがなんか…怒っているんですけど…!?
(続く/かもしれない)
とおまわり×天邪鬼 - more