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「で、ジイちゃん。アレどうだった?」
「一名、該当する人物が」


ジイちゃんがオーナーをやっているビリヤード店、ブルーパロット。
カウンター席に座っているのはオレ一人だった。

相変わらず平日の夕方の客の入りは少なく、怪盗キッドのアジトでもあるここで、ジイちゃんと周りの目を気にせずに話すにはうってつけだ。

頼んだオレンジジュースと共にテーブルに置かれたパソコン。
画面にはその界隈で有名なハッカーについての詳細が映し出されていた。


「Unknown…これがその天才ハッカーの通り名か?」
「はい。元々名乗っていないためそう呼ばれております。ハッカー以外に情報屋もやっているとの噂が」
「情報屋…」
「この人物自体が正体不明。情報の漏洩の可能性がゼロに等しく、様々な企業等から絶大な信頼を得ているとのこと」
「正体不明なのに絶大な信頼って…そんだけ実績があるってことか」
「以前にも警察と関連がある事例がある故に今回の件のように警察と組めるハッカーはこの人物のみではないかと思われます」
「なるほどね…」


オレンジジュースを飲みながら片手間にパソコンを操作する。

老婆、ガタイのいい男、細身の女性、眼鏡をかけた若い男…

そのハッカーがどんな人物かに関する情報は全て曖昧で、持ち寄られている情報もほとんど異なっていた。
Unknown自体が情報操作してるってこともあり得るからここの情報はほとんど当てにならないだろう。

…なまえ本人に聞いてみっか?
Unknownじゃないにしてもあれだけのことをやってのけるってことから只者じゃないことは確かだが。


「…心当たりがおありで?」
「まあ、あるっちゃあるな」
「それにしてはあまり乗り気ではない様子で。坊ちゃんといえばやられたらやり返す、と寺井は思っておりますが」
「そうなんだけどよ…今回はちょっとな」
「ふむ…二度失敗したことと関係がありそうですね」
「相変わらず鋭いねえ。ジイちゃんは」
「坊ちゃんのことを一番存じておりますから」


コップを磨きながらジイちゃんが笑う。

その通りだった。
今回怪盗キッドとして一度目はまだしも、二度目も失敗してしまったのはみょうじなまえという人物が関わっていたからだった。

自分が今一番気にしている人物。
ふとした時に彼女のことを考えてしまっている自分がいるのだ。

そんなオレの様子に何かを察した様なジイちゃんがコップを置きながら言う。


「坊ちゃんは恋をしておりますね」
「…怪盗キッドが恋するのは宝石だけだぜ?ジイちゃん」
「おや…焦がれている方、ではなかったですか?」
「!?な、何で知ってんだ!?」
「あの時通信していたのをお忘れで?」


―宝石よりも焦がれている方に出会えましたからね。

あの時怪盗キッドとして言った言葉が、ジイちゃんには筒抜けだったらしい。
だんだんと顔に集まっていく熱。
あれはただセリフとして言っただけでと苦し紛れに言いながらオレンジジュースを飲む。
ニコニコ笑うジイちゃんと目が合った。


「坊ちゃん、顔が赤くなっておりますよ」
「なってねえ!」







「冷蔵庫に何かあったかなー」


学校からの帰り道、なまえは今朝開けた冷蔵庫の中身を必死に思い出そうと記憶を辿っていた。

夜ご飯にできそうなものがあったようななかったような。
不安だからやっぱりスーパーに寄ってから帰ろうかな…帰って何も無かったら嫌だし。
よし、スーパーに寄ってから帰ろう。
進行方向を変えて、スーパーに向かう道を行く。


「あ、快斗くんだ」


久しぶりに見かける、見覚えのある後ろ姿。
快斗くんが女の子と二人で話しながら歩いていた。
なんだか仲よさそうな雰囲気だ。
声をかけようかどうしようか迷っていると、女の子が落とした携帯を快斗くんが拾う。
顔を上げた時に、ふいに後ろにいた私を見て目が合った。


「なまえ!」


すぐに駆け寄ってくる快斗くん。
隣にいた女の子が驚いて振り返っている。
なんとなく気まずく感じて、控えめに笑いながらやっほーと片手を上げた。
片手を上げ返した快斗くんが笑顔で駆け寄ってくる。


「いるなら声かけろよ」
「あーいや、うん、声かけようと思ってたよ」
「本当かよ?」
「本当だってば」
「なあ」
「ん?」
「携帯貸して」
「携帯?」


ん、と突然急かされるように快斗くんから差し出された右手。
彼の意図がわからなくてとりあえず素直に自分の携帯を渡した。
それを受け取ると見事な早打ちで何かを私の携帯に打ち込む快斗くん。
返された携帯には黒羽快斗と連絡先が登録された画面が映し出されていた。


「これ…」
「オレの連絡先。いつでも連絡していいぜ」
「あ、うん」
「なまえの連絡先も覚えたから登録しとく」
「え?今の間で覚えたの?」
「おうっ」


今の間…たった数秒なのに。
自分の連絡先を登録したうえに、私の電話番号を調べて覚えるなんて。
その手際の良さと記憶力に感嘆していると、快斗くんと一緒にいた女の子がやってきた。


「ちょっと快斗!急にいなくならないでよ!」
「あ、わりーわりー」
「この子は?また女の子たぶらかそうとしてるの?」
「違えよ!またってオメー人聞きの悪い言い方しやがって」
「初めまして!私中森青子っていうの。快斗がごめんね?」
「ううん。青子ちゃん、みょうじなまえです。よろしくね!」


中森。
つい最近この名字をどこかで聞いたことがあるような気がしたけど、思い出せそうにないから考えるのをやめた。
ニコニコしながら自己紹介をしてくれる青子ちゃんはとても可愛い。
目の前で並んでいる快斗くんと青子ちゃん。
なんていうか…すごくお似合いだ。
付き合ったりしてるのかな?


「二人はその…付き合ってるの?」
「「え!?」」
「?」
「だっ誰がこんな女と付き合うか!断じて違うからな!?」
「なっ!青子だってアンタみたいな男願い下げ!」
「え?あ、あれ…?」


どうやら私は質問を間違えてしまったらしい。
ちょっとした疑問を口に出しただけなのに何故か言い合いが始まってしまった。
言い合いが終わらず、どうしようと立ち尽くしていると突然青子ちゃんに腕を掴まれる。


「!?」
「もういい!なまえちゃんと一緒に帰る!」
「はあ!?」
「快斗は青子の携帯返して!行こう、なまえちゃん!」
「え?え?」


快斗くんから携帯を奪い返した青子ちゃんに半ば強引に引っ張られながら歩き出す。
快斗くんは勝手にしろ!と言って、背を向けてさっさと違う方向へと行ってしまった。


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