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「なまえちゃん!」
「奇遇ね!」


学校が終わった帰り道、本屋に向かう途中でばったり会ったのは蘭と園子。彼女達とは学校が違うけど、新一繋がりで仲良くなった。
二人はこれから新しく出来たパンケーキ屋さんに行くという。誘ってくれたけど、仕事があるから泣く泣く断った。


「そういえばなまえちゃん、この前阿笠博士の家にいた?」
「この前?」
「キッドが出た夜よ」
「キッド…あ、うん。いたよ」
「コナン君もいた?」
「うん。途中で帰っちゃったけど」
「やっぱり!ねえ、今度からコナン君と一緒にいる時連絡くれないかな?連絡つかない時多くって」
「そうなんだ…わかった!連絡するね」
「ありがとう!じゃあ私達行くね」
「次はなまえも一緒に行くわよ!」
「うん!気をつけてね」


手を振りながら遠ざかる二人に手を振り返す。
私も食べたかったな、パンケーキ…
でも今日の仕事は時間がかかりそうだから仕方ない。
ポアロに行って安室さんに作ってもらおうかとも考えたが、長居してしまう未来しか想像できなかった。いつもなんだかんだで安室さんや梓さんと喋っちゃうし。

はあ、と大きくため息をつく。
素直に本屋に行って帰ろう。







「情報解析してシステムの再構築に、アップデート…うう、考えただけで吐きそう」


本屋からの帰り道。
買った本が入った袋をぶら下げて、これからやらなければならない作業を思い浮かべては項垂れていた。
頑張るご褒美にせめてドーナツでも買って帰ろうかなあ。
ていうか、今何時なんだろ。
携帯を取り出して画面を見た。


どんっ


「わ、!」
「おっ、と。悪い!大丈夫か?」


肩が誰かにぶつかって持っていた本の袋が落ちる。
完全に携帯を見ていた私の不注意だった。
慌ててごめんなさい、と言いながら散らばった本を拾い集めるためにしゃがむ。
ぶつかってしまった人もしゃがんで本を拾ってくれる。
差し出された本を受け取って顔を上げると、同い年くらいの男子高校生が立っていた。
この制服は確か…江古田高校のだったっけ。


「すみません、私の不注意で」
「………」
「本も、拾って頂いてありがとうございます」
「………」
「……あの、」
「っえ、!?あ、いや、ホラ、気にしなくていいぜ!な!」
「?じゃあこれで」


何故か私の顔を見て固まっている男子高校生。
彼は突然我に返ったように焦りながら返事をした。
その可笑しな様子に首を傾げつつ、ハッと仕事のことを思い出して直ぐにその場を離れようと身を翻す。
が、突然後ろからぐいっと腕を引っ張られた。
振り返ると男子高校生が私の腕を掴んでいる。


「…何でしょうか」
「…名前」
「え?」
「名前なんて言うんだよ」
「……ナンパ?」
「違えよ!いいから!教えろ!」


わざわざ引きとめられて、聞かれたのは名前だった。
初対面で急に名前教えろってなんか怖い。
しかもナンパじゃないって、じゃあ何だろう。
警戒して何も言わない様子の私を見て、今度は彼が首を傾げる。
そして何か考えるような素振りを見せると、掴んでいた私の腕を放した。
代わりにその手を差し出す。


「オレ黒羽快斗って言うんだ。お前は?」
「…みょうじなまえ」
「なまえな。ん、よろしく」
「よろしく…?」


手を差し出されて、名乗られて、条件反射でつい自分も名乗ってから握手をする。
彼は満足したようで、人懐っこそうな笑顔で笑った。
どういう意図か、全くわからない。
握手していた手を放すと、彼もすんなりと放してくれた。
少し見上げるくらいの背丈。
会ったことがないはずなのに何故かそこに既視感を覚えた。
…って、こんなことしてる場合じゃない。


「ごめん私行かないと!じゃあ、快斗くん。また」
「おう、またな」


快斗くんと分かれて、走りながら時計を見る。
その時刻に肩を落とした。
今日は徹夜確定だ。







「…それ、大丈夫?」


予告を出したものの、盗みは失敗。しかも警察が撃った弾が腕をかすめて怪我。
怪盗キッドとして今までしたことの無かった失敗だった。

…とりあえず止血しねえと。
そう考えて降り立った住宅街。人はいないと思っていたのに一人の少女がそこにいた。

騒がれる。

そう思ったが、意外にも彼女は冷静だった。
騒がないし、世間を騒がす怪盗キッドと対面しているにも関わらず淡々とした態度。
そして、こっちの腕の傷に気づいて止血までしてくれたのだ。


「…ハンカチどうすりゃいいんだよ」


呼び止める間も無く、彼女はその場から去ってしまった。

そしてあれから二週間、街中を探し回っていたがあの時の少女は一向に見つからなかった。
名前も知らない、何の手がかりもない人間を探し当てるなんて無謀か。
なんとなく諦めかけていたその時だった。


「わ、!」
「おっ、と。悪い!大丈夫か?」


ぶつかってバサバサと落ちる本。
それを拾って渡した時、見覚えのあるその顔に息を呑んだ。

まさにずっと探していたあの時の少女だったのだ。


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