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「頼む!」
「いやあ、無理だと思うよ」
「そこをなんとか!」
「わかった…一回言ってみる」


阿笠邸。
両手を合わせて懇願してくるコナン…もとい工藤新一を見て、これから彼のお願いを伝言した時のあの少女がする表情を思い浮かべた。
眉間に皺を寄せる顔が簡単に想像できる。
私が言ってどうにかなるものでもないと思うけど、一度聞いてみてあげよう。


「哀ちゃん、新一が薬欲しいって」
「なまえが言ってもダメ」
「一回だけでいいからって」
「ダ、メ、よ。工藤くんなまえを使うのはやめなさい」


やっぱり。
想像通り、哀ちゃんは眉間に皺をしかめて腕組みをしながらため息をついた。
申し訳なさそうに新一を見るとがっくりと項垂れて灰原のケチ…と小さく呟く。
まあこの間も薬を使って元の体に戻って、正体がバレかけていたからしょうがない。
パソコンに向き直ってハッキングを再開した。


「もう次の仕事入ったのか?」
「うん、まあ」
「…政府御用達の情報屋さんは多忙だねえ」
「あんまり見ないでくださーい」
「へいへい」


パソコンを覗き込んでいた新一が素直にソファに戻っていく。
やたらと絡んでくるあたり、おそらく今日は事件が起きていないんだろう。いつも驚くくらい何かしら事件に巻き込まれているのに、珍しい。
暇なの?と振り向かずに問いかければ事件か?と即座に背中に返ってきた。

…ちょっとくらい平穏な日々を満喫すればいいのに。


『次のニュースです。先ほど午後四時、怪盗キッドからの予告状が米花町の美術館に届きました』


付けっ放しにしていて、誰も見ていなかったテレビから流れてくるアナウンサーの声。
ガタッと誰かが立ち上がる音がしてドアの方を見ると、新一が出て行こうとしているところだった。
その反応の早いこと。
気をつけてね、と言う前にバタンとドアが閉じてしまった。
なんていうかここまでくるともう…事件バカ?って、そんなこと言うと怒られるかな。
自然と口元が緩む。
それを見ていた哀ちゃんがすかさずつっこんできた。


「何ニヤニヤしてるのよ」
「いや、本当に新一って事件好きだよね」
「…本当事件好きでよかったわよね。私だったらあんなに事件に巻き込まれるのはごめんだもの」
「私だって嫌だよ」
「事件バカって言ったら怒られるかしら」
「それ、私も同じこと思ってた」


ふふふ、と二人で笑う。
きっと新一は今頃クシャミをしている筈だ。







「遅くなっちゃったなー」


辺りはすでに真っ暗だ。
こんな時間に帰る予定じゃなかったけど、仕事が捗ってしまってついつい阿笠博士の家に長居してしまったのだ。
小走りで帰路を行く。
今から帰って、ご飯食べて、お風呂入ったらいい時間になるだろう。
そう考えながらふと見上げた空には満月が浮かんでいた。


カシャン、


「?」


突然目の前に何かが空から降ってきて地面に落ちる。
音につられて視線を下にずらすと、何やら銃のようなものが落ちていた。
空から銃?何ごと、?
奇妙な現象に思わず立ち止まると、突然強い風が吹いて白い影が目の前に降り立った。
白いシルクハットに白いマントに白いスーツ。
画面越しに見たことがあるその身なり。
その姿に小さくえ、と声を漏らしてしまった。


「今晩は、お嬢さん」
「…こんばんは」


月下の奇術師、怪盗キッド。
空から降ってきたのは言わずと知れた世界中の誰もが知っている怪盗だった。
私が漏らした声に気づいて振り向いた怪盗キッドが律儀にも挨拶をしてきて反射的に返す。
一般人と遭遇したというのに、彼に驚いた様子はなかった。


「驚かないんだ」
「…?」
「人に見つかったのに」
「ああ、怪盗は常に最悪の状況を想定して行動するものですから」


私に見つかったことも想定内ってことか。
ていうか、夜だとしてもわざわざこんな住宅街に堂々と降り立つこともあるなんて。
そうなんだ、と相槌を打つと怪盗キッドは何故か驚いたように小さく目を見開いた。
無言で見つめてくるから何か言うのかと待っていたのに、怪盗キッドは特に何も言わずに地面に落ちていた銃を拾いあげる。
どうやら彼の物だったらしい。


「…それ、大丈夫?」


銃を拾った時に一瞬見えた腕から滴る液体。
月明かりに目を凝らすと怪盗キッドの足元には赤い液体が数滴垂れた跡が見えた。
怪我を、している。
逃げた時に警察にでも撃たれたのだろうか。
つい口をついて出た問いかけに怪盗キッドは何も答えなかった。
少し迷って、鞄からハンカチを取り出して近づく。
一瞬身じろぎした怪盗キッドだったが、私のような少女には何もできないだろうと判断したのかそこに留まった。


「腕出して」
「何…「いいから」


至近距離で見上げた怪盗キッドの顔はまだなんとなく幼さが残るようで、意外にも若かった。
もしかしたら同い年くらいかもしれない。
有無を言わせない私のその雰囲気に、怪盗キッドは躊躇した後、渋々といった感じで腕を差し出した。
二の腕辺りが赤く染まっている。
応急処置程度にその腕にハンカチを巻きつけた。


「…どうしてこんなことを?」
「怪我してるんだから、当たり前」


きゅ、と巻きつけたハンカチの端を結んで、怪盗キッドを見上げる。
彼はまた驚いて私を見ていた。
その目線から逃れるように、怪盗キッドの横を通り過ぎる。


「じゃあ私はこれで」


振り向きざまにちらっと見えた怪盗キッドが何か言いたそうだったが、それは待たずに足早にその場を去った。


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