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「快斗!」


本屋の前、快斗が立っているのを見つけて駆け寄る。
よう!と片手を挙げながら笑う快斗は、以前会った時と変わらない屈託のない笑顔で。
久しぶりに会うはずなのに、そう感じさせないのは彼の親しみやすさからだろう。


「なまえ、よく見てろよ?」
「?うん」
「よっ、と」
「!?え!すごい!」


拳を掲げて笑った快斗。
快斗は私が頷いて拳を見ているのを確認すると、拳を開いてその中から一輪の薔薇の花を出した。
マジックだ。
快斗がその薔薇の花を渡してくれる。


「快斗ってマジック出来るんだ」
「まーな。結構自信あんだぜ」
「すごい…ありがとう」


にっこり笑ってそう言うと、快斗が照れ臭そうに頬を掻きながら頷いた。
ああ、なんだか安心する。
初めて出会った時からだが、彼の隣はとても安心感がある。
そんなことを考えていると、何にも言わなくなった私を不思議に思ったのか、怪訝そうな顔をした快斗が覗き込んできた。
ばちっ、と青紫色の瞳と目が合う。

ーあれ、?

その瞳の色には見覚えがあった。


「なまえ?どうかしたか?」
「あ、…っううん、何でもない。行こう?」


思い浮かんだのは、あの大怪盗。

…まさかね。







「で、青子のヤローがそこでオレのことを殴ってきてよー」
「あははは!あー面白い」


なまえとカフェに行って、二時間は喋った。
その帰り道にも話は尽きず、街灯が照らす夜道を二人で歩く。
オレの話にずっと笑いっぱなしでその涙ぐんだ目を拭うなまえ。
彼女は笑い疲れたようでふう、と息を吐いた。


「快斗ってさ、」
「ん?」
「本当に青子ちゃんのこと、好きだよね」
「!?な、何でそうなるんだ!?」
「だって、ずっと青子ちゃんの話してるから」


クスクス笑いながら言うなまえに少しムッとした。
確かに青子の話は多いかもしれないが、それは学校もクラスも一緒で、共通の知り合いの人物だからだ。
青子は自分の幼馴染だから、気を許しているし、人として好きではある。

だけど、オレが好きなのは、

なまえの腕を掴む。
立ち止まったオレに合わせて、なまえも立ち止まって振り返った。


「?快斗?」
「…前も言ったけど、青子はただの幼馴染」
「うん、わかってるよ?」
「わかってねー」
「…快斗?」
「オレさ、好きなヤツがいんだよ」


なまえをじっと見つめる。
彼女のその大きな瞳が見開かれて、だんだんと丸くなる。
気づいたらその掴んでいた腕を引いて、なまえを抱き締めていた。
ぎゅっと強く抱き締めて彼女の肩に顔を埋めると甘い香りが鼻を掠めた。
あー…やべー。
気付いたら思いが、口をついて出ていた。


「…付き合って」
「、え?」
「オレと、付き合って。なまえ」


しん、と静寂が広がる。
すぐそこにある自動販売機の作動音だけが、聞こえてきた。
なまえの柔らかい髪が顔に触れる。
きっと今の自分の心臓の音は、なまえに聞こえてしまっているだろう。
戸惑いがちな声が、耳元から聞こえてきた。


「あの、快斗…今の本当?」
「………嘘じゃ言わねーよ」
「快斗は私のこと、」
「…好き。だいぶ」


そう言ったところでなまえが身じろぎする。
身体を離して、再び目を合わせたなまえの表情はすごく、苦しそうだった。
あ、これは言わなきゃよかったかも。
なんて後悔先に立たずだ。
耳を塞ぎたい。
その口から紡がれる言葉の予想はついている。
なまえが小さく口を開いた。


「快斗のことは好き。でも、突然でビックリしちゃって…今は答えが出せない。ごめん」
「……そっか」
「気持ちはすごく嬉しい。だから、ちょっと考えてもいい、かな」


頭に大きな鉛を打ち付けられたようだった。
俯き加減で申し訳なさそうに言うなまえの姿に、こっちが申し訳なくなってくる。


「あっ、そうだよな!いきなり言われても困るよな!…悪い」


慌てて返事をした。
掴んでいたままだったなまえの腕を放す。

オレは、たった今好きな人に、フラれた。







家について、鞄を無造作にソファに置いて座った。

『付き合って』

快斗に抱き締められて、言われた言葉を思い出す。
嬉しくなかったわけじゃない。
むしろドキッとしたくらいだ。
それでも答えはすぐに出せなかった。

まさか快斗が自分のことを好きだとは思ってなかったから、初めは冗談かと思ってしまった。


「…はあ、」


悪い、って言った時の快斗の顔が忘れられない。
謝らなきゃいけないのは私なのに。
快斗の気持ちは嬉しい。
嬉しかったけど、

あの時一瞬だけ、あの怪盗のことを思い浮かべてしまったのだ。


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