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「…ふっ」
「なあに?快斗。さっきからニヤケちゃって」


気持ち悪い、と言って目を細める青子からの悪口は今日は全く気にならない。
何故ならオレは今、物凄く機嫌がいい。

先週末、ゴールデンジュビリーを盗みに入った先での出来事。思い出すだけで口元が緩む。

捕まっているお姫様を助け出し、二人きりの船の上。
怪盗キッドとして完璧な振る舞い。
そして、なまえを抱き締め、前回叶わなかったキスまでやり遂げたのだ。
ニヤけが止まらねーのは仕方ねえだろ。
おまけにニュースでは怪盗キッドがテロリストから客を救出したなんてヒーロー扱いで大騒ぎだ。


「クッ…ふふ…!」
「ねえとうとう頭おかしくなっちゃった?」
「なんとでも言え青子。今日のオレは一味違うぜ」
「ハア?」


何言ってんの?と眉をしかめる青子を他所に携帯を開いた。
みょうじなまえと連絡先が表示された画面を見る。
ブルーパロットに行った以来、快斗としては会っていなく、連絡も取っていない。
あの時の怪盗キッドを、なまえはどう思ったんだろうか。
今何してんだろーなあ。………会いてえ。


「…連絡してみっか」







「無事で良かったわよ、本当に」
「ありがとう哀ちゃん」
「突然パソコンに知らないシステムがインストールされて、貴女の携帯に出たらキッドが出てくるから、ビックリしたけどね」
「本当にありがとうございました…」


船上パーティーの一件は無事に解決した。
ゴールデンジュビリーも鈴木次郎吉の元に戻り、テロリスト達も全員捕まって、私達も皆無事だった。

あの時、頼れるのは哀ちゃんしかいないと思ったからこそ、船のシステム権を彼女のパソコンにインストールされるようにして良かった。
キッドと連絡を取り合った哀ちゃんは見事にシステム操作をしてくれて、助けてくれたのだ。
普段から新一のサポートしてるからこその適応力の高さはさすがだ。

コーヒーを飲みながらじっと私を見つめてくる哀ちゃんに首をかしげると、何かを探るように目を細める。


「で、貴女とキッドはどういう関係なの?」
「!な、…っ何で!?」
「気になっただけよ。そんなに慌てなくてもいいじゃない」
「べ、べつに何でもないよ。うん」
「その割には動揺してるし、顔が赤いわよ」


じーっと頬杖をつきながら見てくる哀ちゃんの視線が痛い。哀ちゃんは鋭いから、何かを察しているんだろう。
あの時のことを考えないようにしていたというのに、キッドという名前を聞いただけで一瞬で脳裏に蘇った。

『私の心は、貴女に奪われてしまったようです』

そう言った時の、キッドのあの瞳が忘れられない。
彼は、どういう気持ちであの言葉を言ったんだろう。
それにあろうことか、キス、まで。


「何があったのかしら」
「うっ…何もない、けど…」
「けど?」
「キッドって…女たらしなのかな?」
「さあ?あれだけキャーキャー言われてたらそうなるかもね」
「そうだよね、うん」
「あら、好きにでもなった?」
「え!?う、ううん!まさか」


私がキッドを好きに?
そう言われて勝手に意識してしまう思考を振り払うように首をぶんぶん振る。
哀ちゃんが意外ね、と小さく笑いながら呟いた。その素ぶりはまるで私がキッドのことを好きになっていることを肯定しているようで。


「ちょっと!好きじゃないってば!」
「何にも言ってないじゃない」


涼しい顔をしてコーヒーを飲む哀ちゃんは読んでいた雑誌に目を戻す。
うう、意地悪。

ちらっとテレビを見ると、怪盗キッドがテロリストから乗客を守ったというワイドニュースが丁度流れていた。
ところどころキッドが画面に映る。
あの笑みの奥に何を考えているのか、全くわからない。
…からかわれているだけかもしれないし。
冷静になろう。
ふう、とため息をついたところでピロン、と携帯が鳴った。


黒羽快斗:よう!元気にしてっか?


通知欄に出る文字。
ビリヤード店に連れて行ってもらった以来の快斗くんからの連絡だった。
続けてピロン、と携帯が鳴ってまた通知欄に文字が出る。


黒羽快斗:なまえちゃんに会いたいなー
黒羽快斗:笑
黒羽快斗:(スタンプ)


なまえちゃん、て。
思わず口元が緩む。
ついでに送られてきた可愛らしい熊が泣いてるスタンプが快斗くんらしい。


みょうじなまえ:私も快斗くんに会いたいなー
みょうじなまえ:笑
みょうじなまえ:(スタンプ)


快斗くんに合わせて、返事してみた。
前に会ったのもちょっと前だし、会いたいのは嘘じゃない。
送った文章が一瞬で既読になったと思うと、間髪入れずに快斗くんから電話がかかってきた。
驚いてその電話をとる。


「もしもし?どうしたの?」
『今どこ?』
「え?ええっと…友達の家」
『………会いたいんだけど』
「え?今から?」
『まあ…』
「んー、じゃああの本屋で待ち合わせする?」
『あ、会えるのか!?』
「うん、大丈夫。今から向かうね」
『おー』


電話を切って、鞄を持ちながら立ち上がる。
どこかに行く様子の私を、哀ちゃんはまた面白そうに眺めていた。


「…まさか、呼び出されたのかしら?あの大泥棒さんに」
「なっ、違うって!やめてよ哀ちゃん!」
「ふふ、冗談よ。気をつけて」
「もー…またね!」


哀ちゃんはくすっと笑うと雑誌を見ていた顔を上げて、手を振ってくれた。
手を振り返して、阿笠邸を出る。
十五分くらいで行けると思う、と快斗くんにメッセージを送って本屋に向かった。


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