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降り立った白い影。
あのシルクハットに、あの白いマント。
あんな風貌をしているのは一人しかいない。


「その女性を返して頂きましょうか?それと、その懐に忍ばせている宝石もね」
「!?お前、か、怪盗キッド!?」
「貴方がゴールデンジュビリー盗んだところは見ていましたよ、コソ泥さん」
「くっ、…テメェもコソ泥だろうがあ!!」


キッドの言葉に逆上した男が私を掴んでいた手を放して銃を乱射する。
複数の銃弾がキッドに向かって放たれる。


「キッド!!」
「やったか!?」

「あれはただのハリボテですよ」

「!」
「すでに警察がこの港は包囲しています。貴方の仲間達も捕らえられている頃でしょう。逃げようとしても無駄ですよ」
「くそっ…!」


よく見るとキッドだと思っていた白い影はただのキッドの形をした人形で。
男の背後に降り立った本物のキッドは、あっという間に彼から銃を奪い取っていた。

暴れる男にキッドが奪った銃を向けると、なす術を無くした男は大人しくなった。







キッドが男をデッキの柵に縛り付ける。

なんともないその姿にほっとした。
撃たれていなくて、よかった。
キッドも私に怪我がないのを確認すると、安堵したように小さく息を吐いた。


「よかった…貴女が無事で」
「キッドもね。助けてくれてありがとう。信じてよかった」


彼を信じてあの時託したのは、間違いじゃなかった。
言いながら笑いかけると、モノクルの奥の青紫の瞳と目が合う。何か答えてくれるかと思ったが、キッドはそのまま何も言わずにじっと見つめてくるだけで。
何とも言えないその沈黙に首を傾げて口を開こうとすると、突然、強い力で腕を引かれた。


「えっ…!?」


よろけた先、ブルーのシャツとピンクのネクタイが視界に飛び込んでくる。
温かい体温に包まれて、キッドに抱き締められていることに気がついた。
反射的に身じろぎするが、キッドの腕がしっかりと背中と腰に回されてしまっていて動けない。


「!?キッド…どうしたの?」
「…貴女が一人で出て行ったあの時、その手を掴めなかったことを後悔しました」
「………」
「そして必ず守りたいと、そう思いました」


そう言ったキッドは抱き締めていた力を緩めて私を見下ろす。
ただならぬその雰囲気に、一歩後ろに足を踏み出そうとするがそれ以上退がれなかった。


「怪盗は盗むのが仕事ですが…盗まれる事もあるようですね」
「…盗まれる?」


聞き返した私の言葉にキッドは答えなかった。
代わりに、彼の手が頬に触れる。
それに驚いた私が何かを言う前に、彼の顔が近づいてきて唇に温かい感触が当たった。


「っ!?」
「私の心は、貴女に奪われてしまったようです」
「…っ、な」


突然キスをされて固まってしまった私に、ふ、とキッドが優しく微笑む。
そしていつの間に取り返したのか、何もなかった手の中からゴールデンジュビリーを差し出した。
キッドは私の手を掴んで掌の上にゴールデンジュビリーを乗せる。


「なまえさん、ゴールデンジュビリーの別名をご存知ですか?」
「…知らない」
「別名は名もなき宝石。貴女にぴったりの宝石です」
「ぴったり?」
「貴女のもう一つの姿も、名は無いと」


それを言われて、ハッとしてキッドを見た。
彼は知っているのだ。私のハッカーとしての通り名を。
強張る私の表情を読み取ったのか、ご心配なく、と続けた。


「貴女のもう一つの姿のことは誰にも言いませんよ。その宝石は返しておいて頂けますか?」
「え?」
「私が探していたものではなかったので。それに、綺麗な女性の元にある方が宝石は一段と美しい…今みたいにね」
「…か、からかわないで」
「本当のことです。そのドレスよく似合っていますよ、なまえさん。このまま連れ去りたいところですが…」


私の後ろの一点を見つめるキッドにつられて振り返ると、新一がいた。
息を切らしているあたり、必死に探してくれていたんだろう。
私の顔を見てほっとする新一が見えた。
キッドがため息をつきながら新一を見る。


「ホンットいいところに来るよな、名探偵…」
「なまえから離れろキッド!」
「ったく、オレのおかげで助かったの忘れたのか?」
「それとこれとは話が別だ。それになまえのハッキングがあったからこそだろーが」
「ケッ、薄情な奴だ。ま、宝箱の中身を言い当てたのはさすがだったな」
「…聞いてたのかよ」
「テロリストに変装してあの場にいたんでね」
「何が起こるかだけ伝えるだけで、その後はこっち任せっつうオメーのが薄情なんじゃねーのかよ?」
「お前なら必ずなんとかするだろ?それに、オレはお姫様を救出しなくちゃならなかったからな…っと、そろそろ行かねーと面倒なことになりそうだ」


チラッとキッドが見た先に、何人か警察の人がやってきているのが見えた。
キッドは私を見るとフ、と笑っておでこにキスをする。
そして耳元に顔を近づけてきた。


「!?」
「なっ…!?キッドテメー離れろ!」
「なまえさん、先程のことはどうぞご内密に。あの名探偵がうるさそうなんでね」
「…」
「必ずまた淡く光る月光の下、お迎えに上がります」


耳打ちしながらそう言うと、キッドは船から飛び立ってハンググライダーで夜の闇に消えていった。


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