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「ここに船のシステム回線が集まっています」


怪盗キッドと共に部屋の中に入ると、様々な機器が置かれていた。
全てが正常に作動していて機械音が聞こえくる。
こちらです、とキッドが指し示した機器の回線部分がこの船のメインシステムに繋がっているという。
パソコンを起動して船のシステムのハッキングを開始する。


「確かに…警備システムだけが複数の海外の回線を経由してる」
「やはりそうですか」
「うん。何も問題ないように見えるけど、実質乗っ取られてる…システムの脆弱性を突かれてそこからみたい」


誰かが回線を繋げ直して、システムを書き換えて乗っ取っている。
わざわざ手間のかかることをやっている辺り、怪盗キッドが何かあると踏んだのも頷けた。
こっちからまたシステムをハッキングして書き換えることもできるが、恐らく時間がかかるだろう。
実際に何か事が起こる前に、できるかどうか。
携帯を取り出して新一に連絡する。


『どうだ?』
「確かにシステムが書き換えられてた。ハッキングができないことはないよ。時間はかかりそうなんだけど」
『そうか…何か起こる前にシステムはこっち側にしといた方がいいかもな。頼めるか?』
「うん。そっちは異常ない?」
『ああ、相変わらずおっちゃんが飲みすぎて蘭に怒られてるよ』
「ふふっ、相変わらずだね。よかった。じゃあまた連絡するね」
『おう』


携帯を切ってパソコンの画面に目を戻す。
元々書き換えられているものをもう一度ハッキングする作業は結構時間がかかる。
きっと書き換られたシステムセキュリティはかなり頑丈なものにされているはずだから、長くなりそうだ。
キッドを見上げる。


「結構時間がかかりそうなんだけど…」
「お気になさらず。付き合いますよ」


そう言ってキッドは私の横に腰を下ろす。
ありがとう、と伝えると小さく頷く。


「回線まで繋げ直しているということは、業者などに紛れてここにきた可能性もありますね」
「うん。あると思う」
「鈴木次郎吉がゴールデンジュビリーを日本で初公開することは新聞にも載ってましたからそれで計画を企てたかもしれません」
「そうだね。わざわざ手間のかかることをするくらいだし」
「何も起きなければいいですが…」


ドンッ!!


「え!?」


キッドが言いかけたまさにその時、突然大きな音と共に船体が大きく揺れた。
その揺れに急に身体が振られるが、キッドが腕を掴んで支えてくれる。咄嗟に掴まれた腕とは反対の手でパソコンを掴んだ。
何が起きたのかわからずじっとしていると、徐々にその揺れは収まっていく。
ほっと安堵の息を吐く。


「監視カメラの映像、ハッキングできますか?」
「う、うん」


キッドに言われてすぐに監視カメラのシステムだけをハッキングする。
映し出される何十もの映像達。
いくつかはパーティ会場を映し出していた。
そして、その状況は最悪だった。
多数の黒マスクと武装をした者達が会場内で銃を構えているのが見える。
一部の人間は座り込み、一部の人間は手を挙げている。
もちろんその中に新一達もいた。
鈴木次郎吉もいて、今しがた披露したであろうゴールデンジュビリーがそこにはあった。


「テロリスト…!?」
「今回のシステム異常はこの計画のためだったようですね」
「さっきの音は」
「右下の画面、貨物室が一部大破しています。恐らく威嚇のために爆破させたのではないかと」
「そんな…」


キッドは徐に立ち上がるとパーティスタッフから一瞬で変装を解いて、あの怪盗キッドの姿になる。
その変装技術に驚いている私には目もくれず、キッドは片膝をついて再びパソコンの画面を覗いた。
全ての監視カメラの映像を一通り見たキッドが、ある画面を指差す。


「システム管制室も乗っ取られています。客と一部の船員以外がテロリストだったみたいですね」
「監視カメラの映像も向こうには筒抜けってことだよね」
「ええ。ただここには監視カメラはないので、私達の姿は知られていないかと」


こんな時に新一がここにいてくれたらきっと何らかの形で、どうにかする策を思いつくだろう。
でも新一はテロリストがいるパーティ会場にいるままだ。
パーティ会場の映像に目を戻すと、園子がテロリストに銃を突きつけられていた。
鈴木財閥の娘であることに目をつけられたのか、人質となっている。


「園子…!」
「今自由に動けるのは私達しかいないようですね」
「!待って。誰か来る」


機械音しか聞こえていないこの部屋。
その音に混じって微かに扉の外から聞こえて来たのは、人の話し声だった。







息を潜めて部屋の外から聞こえてくる声に耳を澄ました。
なまえを見ると、緊張した様子でじっと扉を見つめている。
近づいてくる会話がだんだんはっきりと聞こえてきた。


「本当にここにくるヤツなんかいたのかよ?」
「確かにさっきここの廊下を通るヤツを映像で見たんだ」


扉の前に人影が二つ映るのが見えた。
…まずいな。
なまえの手を引いて、ひとまず物陰に隠れる。
部屋の施錠が解除される音が聞こえてきた。

どうする?
ここにいるだけでは確実に見つかる。
怪盗キッドの変装を解いて、パーティスタッフとして一緒に捕まるか?
だが、そうしたところでこの状況を打破できる可能性は潰すことになる。
さっきパーティ会場の映像を見ていた時、あの名探偵が監視カメラを何度か見上げていることには気づいていた。
恐らくオレ達が監視カメラの映像を見ていることを予想しての行動だ。

色々思考を巡らせていると、隣にいたなまえに袖を引っ張られる。


「キッド」
「?」
「ここで二人とも捕まったら、全ての可能性が無くなる」
「…」
「私が出ていくからここにいて」
「!?何言って…!」
「彼らの目的はあくまでもゴールデンジュビリー。殺されたりはしないと思うから」
「彼らはテロリストですよ!何をされるか…」
「今このパソコンで船の全システムを書き換えるように切り替えた。完了と同時に私の知人のパソコンにインストールされる。彼女は必ず協力してくれる」
「…」
「これ、私の携帯。これで連絡を取って」


なまえからパソコンと携帯を渡される。
彼女の表情は真剣だった。
確かにここで二人とも捕まってしまえば、この状況を打破できる可能性が無くなるに等しい。
それでもなまえを囮にすることは、

…できるわけねえだろ。

引いていたままだった彼女の手を強く握る。


「…貴女だけを行かせるわけにはいきません」
「今私が出来ることはやった。全ての可能性をあなたに託す」
「…」
「キッドは私の騎士(ナイト)でしょ?頼りにさせてよ」


ね?と言って、笑うなまえ。
二つの足音がもう、すぐそこまで近づいてきていた。
なまえの手がオレの手を握り返す。
それに油断して緩んだその手から、彼女の手はすり抜けていった。

伸ばした手は虚しく空を切る。
立ち上がったなまえは、そのまま物陰から出て行ってしまった。


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