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午後6時。
フェリーが出港し、鈴木財閥が開催するパーティーが始まった。

会場に足を踏み入れた瞬間、小五郎おじさんはビールに一直線。
もー、とため息をつきながら追いかける蘭に、芸能人を見つけるのに必死な園子。
会場の端にはオレンジジュースを手に持った私と新一が残された。


「…みんな相変わらずだね」
「ったく、おっちゃん飲みすぎんなよ…」
「そういえばさ、」
「?」
「怪盗キッドは来るのかな?」
「かもな。予告状は出てねーが、いつ現れるかわかんねえからよ。アイツは…

「神出鬼没の大怪盗、だからな」

「!?」
「キッ…」
「シーッ」


後ろから会話に加わった誰かに驚いて振り向くと、パーティースタッフの男性がいた。
見たことのない顔だったが、ニシシッと笑いながら指に挟んだ予告状をちらつかせているのを見てその正体を悟る。
思わずキッド、と言いかけたところで彼の手が私の口を塞いだ。
人差し指を立てて騒がないように示してくるのを見てこくん、と小さく頷けばすんなり口を塞いでいた手をどけてくれる。
意外にも冷静な様子の新一はパーティスタッフの彼、もといキッドを横目で見た。


「…何かあったのか?」
「っと、名探偵相変わらず鋭いねえ」
「オメーがわざわざ姿を現すなんざイレギュラーすぎるからな」
「流石だな。ちょっと気になることがあってよ」
「気になること?」
「ああ。まあオレはゴールデンジュビリーを頂きに色々調べてたんだが…ここの船のシステムが妙なんだ」
「妙?」
「警備システムだけが別回線から繋がってんだ。ここの管理下じゃない回線からな」
「…警備システムを専門的なとこに頼んでんじゃねーのか?」
「それも考えたんだが、ここの船内システムは当初から変えた記録はなかった」
「ってことは、誰かが故意に変えてるってことか?」
「オレはそう考えてる。そこで、このお姫様の力を借りに来たってわけだ」


新一と話していたキッドが私を見る。
…ん?どういうこと?
今の会話を聞いていても、私にはよくわからなかったのに新一は全て察したようになるほどな、と呟いた。


「オメーの他にもゴールデンジュビリーを狙っているやつがいるってわけか」
「ご名答。だからそのシステムの発信元を探し出すのが手っ取り早いってな」
「つってもそれだけで盗みを企んでるやつがいるって証拠はねえんだろ?」
「同じ盗みを企むこっちの勘をナメてもらっちゃ困るね」
「でも結局はオメーの盗みを成功させるためになまえを利用するってことだろーが」
「今回は休戦といこうぜ名探偵。なんか嫌な予感がすんだ」


言いながら厳しい表情で周りを見渡す怪盗キッド。
彼の態度は真剣で、明るいパーティーに潜む不穏な空気を感じ取っているようだった。
新一は眉を潜めてその様子を見ていたが、いつもと違う怪盗キッドの雰囲気を悟ったのか、わかったよ、と言って息を吐いた。
そして私を見る。


「なまえ、今日パソコンは持って来てるか?」
「あ、うん。小さいやつなら一台」
「調べてもらえるか?」
「わかった。ただこの船の回線がある場所がわからないと…」
「もちろん、私が連れて行きますよお姫様」


パーティースタッフ姿の怪盗キッドがそう言いながら私の右手を取る。
その行動に一瞬ドキッとしたが平静を装ってお願いします、と小さく会釈すると彼は微笑んでくれた。


「…キッド、なまえに妙なことしたらすぐ捕まえるからな」
「何もしねーよ、大事なお姫様だからな」
「なまえ、何かあったらすぐ連絡しろよ」
「うん、ありがとう新一」


キッドに連れられながら行ってくるね、と新一に伝えると彼は小さく頷いた。







警備システムの異常がわかったのはジイちゃんからの連絡だった。
船の他のシステムとは別の回線が経由されていて、ハッキングされている可能性があると。

当初は怪盗キッドとしてゴールデンジュビリーを頂きに来たわけで、予告状も準備していたが、名探偵にそれを伝えることが最善だと判断した。
なまえがいることを知った上での行動だった。

パソコンを部屋から取ってきたなまえと合流して、回線が繋がれている場所へ向かう。


「…怪盗キッドさんって、」
「?」
「新一と信頼し合ってるんだね。なんていうか、敵同士かと思ってて」
「そうですね…信頼というより認め合っているっと言った方が正しいかもしれません。私にとって彼は最も出会いたくない恋人ですから」
「最も出会いたくない恋人…?」


オレが言った言葉に首をひねるなまえのその仕草が可愛くて思わず目を逸らした。
平常心、平常心。
オレは今怪盗キッドなんだ。
気づかれないように深呼吸をする。
こっちのその心情は露知らず、なまえはそういえば、と続けた。


「キッドさんも素は普通の喋り方なんだね」
「普通、ですか?」
「さっき喋ってた時、普通の男の子だったから」
「…まあ、人前に出る時とは違うかと」
「私にも敬語じゃなくて良いのに」
「一端の騎士(ナイト)が姫と同等にお話するなんてことはありませんよ」
「ふふっ じゃあ、ちゃんと守ってね」
「なまえさんも私のことはキッド、とお呼びください」


クスクス笑うなまえにつられて笑う。
やっぱり、彼女の隣は心地がいい。
…いくらでも守ってやるよ。
そう心の中で呟いて廊下の途中、ある扉の前で立ち止まる。


「ここです」


人気が全くない廊下を通り、船の最深部あたりの部屋の前。
ジイちゃんに頼んで作ってもらっていたカードキーを翳して扉を開けた。


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