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- ナノ -

優しさはいつか自分を殺すと、
そう思い知ったのはいつだったか。


04


その日は朝から雨が降っていた。
街にいく用事があったからたまたまその日だけ、家をずっと空けていた。

街から戻ってきて鳥居をくぐる。
…ずいぶん遅くなっちゃったな。
もうすでに夕刻は過ぎて夜に差し掛かる頃。
やけに静かな神社内に違和感を感じた。
いつもだったらすぐに相太が駆け寄ってきて、おかえりなさいと言ってくれる筈なのに。


「相太?ただいまー?」


境内を進んで、社にたどり着く。
夜の闇に佇む人影が見えた。
その人影にぎょっとするが、恐る恐る近づいていく。
それは見慣れた後ろ姿だった。
こんな時間にここにいるなんて珍しい。


「ハオ?何してるの?」
「遅かった」
「何?何がーーー」


ハオが佇んで見つめる視線の先。
相太と一緒にいつも座っていた社の縁側。
魂の残骸が、視えた。
遅かった?どういうこと?
どうして相太は出てこないの?
ハオの言葉と相太が一向に現れないこの状況。
そして消えかけている魂の残骸。
これじゃあまるで、


「ハオ…相太は?」
「僕が来た時にはもうすでにこうなっていた」
「どうして?なんで?何が、」
「…天照大神を狙ってきたシャーマンがいた。君も天照大神もいない状況に腹を立ててこうなった」
「その、シャーマンは?」
「僕が灰にした。スピリットオブファイアの餌にもならない程度のヤツだったさ」


ハオのその言葉の最後の方はもう聞こえなかった。
瞳からは涙が溢れていた。
その場に崩れ落ちるように座り込む。

相太に天国へ連れて行くと約束した。
相太にはちゃんと成仏してほしかった。
あんなに良い子が、どうして。
魂を壊されてしまったら成仏さえ出来ない。

ハオが座り込んだ私の腕を掴む。


「なまえ…服が汚れるよ」
「なんで、こんなっ…うっ、」
「……君の優しさはちゃんと相太に届いていた」
「…っ、相太にはちゃんと、成仏してほしかった」


腕を掴んでいたハオの手が離れる。
そしてハオは目の前にしゃがむと、私の顔に流れる涙をその指ですくい取った。
顔を上げると少し困ったような、それでも優しい表情をしたハオと目が合う。

…いつも張り付けたような笑顔で、感情なんかわからない表情をしているくせに。
どうしてこんな時だけこの人はこんなに優しい顔をするのだろう。

ハオの顔が今までで一番人間らしい顔をしているから、より一層涙が止まらなかった。





「落ち着いたかい」
「ん、ごめん」


泣いて、泣いて、ようやく涙が止まった頃、合わせたかのように雨が上がる。

縁側に座って泣き続けていた私の横にはずっとハオがいてくれた。
帰ってもいいと言ったのに、何故か彼は何も言わずに片膝を立てたまま一切こっちを見ずに隣に座っていたのだ。
ずいぶんと、長居させてしまった。


「ハオ、ありがとう」
「ん?」
「悪いヤツやっつけてくれて。あと、ここにいてくれて」
「…ああ、君には十分振り回されてるからね。慣れてるよ」


ハオの言葉にふと口元が緩む。
そんな私の様子を見て大丈夫だと判断したのか、ハオはそろそろ行こうかな、と呟いた。
反射的に、何故か私は立ち上がろうとした彼のマントを掴んでいた。
びっくりした様子でハオが私を見る。
なんで掴んでしまったんだろう。
私もびっくりだ。


「………何でなまえが驚いてるんだ?」
「いやなんか…手が勝手に…なんでだろう…」
「…ククッ、本当に面白いな。なまえは」


そう言うとハオは上げかけていた腰を下ろして、その場に座り直した。





雨の中、泣き崩れるなまえに自分が幼少期に母を亡くした姿を重ねた。
相太の魂を壊したシャーマンを見つけた時に、昔感じた憤りに似たような感情が心に広がるのを感じた。
そしてそのシャーマンを灰にした瞬間、母を殺した人間に復讐したあの日の自分を思い出した。

彼女に、あの日置いてきた自分を重ねた。


「……君の優しさはちゃんと相太に届いていた」


そう言って彼女の涙を拭ったのは、あの日の自分を救いたくてそうしたのかもしれない。
あの日の自分を、誰かに救ってほしかったのかもしれない。

復讐を遂げたあの日、唯一の友だった鬼は自分を見捨てたが、千年の時を越えてきた今日。
代わりに復讐を遂げた自分に、なまえは感謝をした。

何故かあの日の自分が救われたような気がした。

雨に滲む