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眠らなくても思い出せる


「悪い、オレ好きなやつがいるんだ」

そう言って俯くあの日の君を、私は一度だって忘れたことはない。







「なまえ?」
「え?あ、ごめん」
「オメー今全然聞いてなかったろ」
「き、聞いてたよ!」
「じゃあオレが何の話してたかわかるか?」
「うっ…」
「やっぱりな」


はー、とため息をつく目の前の人物に慌てて謝る。
オレンジジュースを飲みながら私を見るその瞳は、ずっと前に憧れていた人のそれだった。心の動きに気づかれないように、反射的に目を伏せる。
あのよー、と聞こえてくる声色は不満げだ。


「久々に会ったってのに、上の空かよ?」
「ごめんってば」
「ったく…すぐボーッとするとこ変わってねーんだな」
「何それ悪口?」
「悪口」
「ちょっと!」


怒る私を気にもせずに、ケラケラと笑う快斗の笑顔はあの頃のままだった。
ああ、この感じ懐かしいなと思ったところで鮮明に脳裏に蘇るのはあの日の光景。

君はもう、忘れてしまっているだろうか。


「2年ぶりか?」
「うん。高校に入って会わなくなったから、それくらいじゃない?」
「2年か。早えなー」
「最後に会ったのは卒業式だね」
「あー、そうだな」


なんとなく気まずそうにする快斗の様子に、彼があの日のことを覚えていてくれているんだと悟る。

あの卒業式の日。
私が快斗に告白をした、あの日。

快斗が誰を見ているかなんてわかっていたくせに、それでも何かを変えたくて告白したあの日の私は、馬鹿だったと思う。
あれから高校が別だったこともあって、なんとなく快斗とは距離を置いてしまっていたんだっけ。


「ねえ、気まずそうにしないでよ」
「いや、気まずいっていうかよ…悪かったな本当に」
「ううん。もう終わったことだし」
「なまえは帝丹高校通ってんだろ?」
「うん」
「いいやつ見つけろよ」
「なにそれ?」
「そのまんまの意味。っと、そろそろ行こーぜ」


ハンバーガーの最後の一口を食べ終えた快斗が言いながら立ち上がる。
携帯の画面を見るとすでにいい時間だった。母親からご飯は?とメッセージが来ていて。
慌てて食べ終えたトレーを片付けて快斗の後を追った。

外に出ると爽やかな夜風が頬を撫でた。
もうすぐ、夏が終わる。


「快斗、久しぶりに会えて嬉しかった」
「おー。また話そうぜ」
「うん」
「じゃあな!」
「バイバイ」


片手を上げながら、遠ざかっていく快斗に手を振った。
ふう、と小さく息を吐く。

今日偶然、学校からの帰り道にたまたま私を見つけた快斗が声をかけてくれたことは本当に嬉しかった。
まさかこうしてまた普通に話せる時が来るなんて思っていなかったから。
変わらずに接してくれた快斗はやっぱり優しい人だ。
私が好きになった快斗のままだった。

もう姿は見えない快斗が行った道をぼんやりと眺める。

あの日の恋はあの日に置いてきた。
そう思っていた筈なのに。