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月々のささくれ


何度この刀を振れば、
悲しみを断ち切れますか。







「煉獄さんおはようございます」
「なまえか!久しいな!」


夜が明けた。今日は義勇さんとしのぶと任務へ向かう日。産屋敷邸で二人を待っていると、やってきたのは炎柱の煉獄教杏寿郎だった。煉獄さんと会うのも久しぶりだ。柱同士が顔を合わせるのは柱合会議くらいで、常に居場所を把握してるわけではなく、共に任務をこなすことも多くあることではない。


「任務か?」
「うん。義勇さんとしのぶとね」
「うむ!それなら心配ないな!」
「煉獄さんも任務?」
「いや、俺はお館様に呼ばれてな!」


お館様…
その名を聞いてふと昨夜のことを思い出す。柱という立場だというのに、あろうことか思わずお館様の前で泣いてしまった。
情けなくて、恥ずかしくて、もう穴があったら入りたい。
はあ、とため息をついていると急に煉獄さんが顔を覗き込んでくる。驚いて思わず後退りするが、何故か煉獄さんは更に近づいてきた。


「れ、煉獄さん!?」
「目が赤いぞなまえ。それに隈も少々見えるが…」
「いや、これは、そのっ、ていうかそれより近っ…

「煉獄さーん。義勇さんがものすごーく睨んでいますのでそれ以上なまえさんに近付くのはやめた方がいいかと」
「睨んでいない」


煉獄さんから迫られながら門の方を見ると、義勇さんとしのぶの姿があった。相変わらず微笑んでいるしのぶと、何故かちょっと機嫌が悪そうな義勇さん。
煉獄さんは、しのぶのその言葉にすんなりと納得するとそうか!済まなかったな!と言って離れてくれた。ほっと胸を撫で下ろす。煉獄さんは目力が強く、端正な顔立ちをしているからちょっと心臓に悪い。
私をじっと見る義勇さんと目が合う。


「何?義勇さん」
「…顔が赤い」
「え!?」
「ふふ、煉獄さんに見つめられたからでしょうか?」
「さっさといくぞ」


義勇さんが背を向けて歩き出す。それを見たしのぶが何に納得したのか、わかりやすいですねえと楽しそうに呟いて義勇さんの後に続いた。あっという間に二人に置いてかれて、慌てて走り出す。
振り返りながら煉獄さんに手を振ると、笑顔で手を挙げてくれた。







何十もの剣士が死んだという情報を受けた山についた。どんな鬼が出たのか詳しい伝令はなかったが、これだけの犠牲者が出ているならもしかしたら十二鬼月がいるかもしれない。
ぼんやりと浮かぶ月が、夜の山道を照らす。
周りを見渡しながら移動するが、鬼は見当たらない。


「さて…この辺りで二手に分かれましょうか。私は西からいきます」
「承知した」
「なまえさんと冨岡さんは東からお願いしますね」
「了解。気をつけてね」
「ええ、ありがとうございます」


しのぶはにっこりと笑って、方向を変えて木々を飛び移って行ってしまった。





しのぶと分かれて、暫く走り続けた頃。
義勇さんを横目で見るといつものように無表情のままだった。そういえば産屋敷邸からここにくるまでほとんど話していない。義勇さんはもともと無口だから彼の通常運転といえばそうだが、なんとなく空気が重いのは気のせいだろうか。
そんな空気を破ったのは義勇さんだった。


「なまえ」
「はいッ!?」
「なまえは煉獄の事が気に入っているのか」
「…へ?」
「炎柱の煉獄杏寿郎だ」
「……それはわかるけど」
「………」
「煉獄さんのことは好きだよ。優しいし」
「そうか」


それだけ聞くと義勇さんはまた黙り込んでしまった。質問の意図がわからなくて、義勇さんの横顔を見つめる。
何も変わらないその無表情からは感情を読み取ることなどできそうにない。
視線に気づいた義勇さんが横目で私を見る。


「何だ」
「義勇さんっていつも何考えてるの?」
「?聞いてどうする」
「どうって…気になるから」
「…お前は、」
「?」
「相変わらず変な奴だ」
「悪口!?」


そう言って視線を前に戻した義勇さんの口角は、心なしか少し上がっているように見えた。和らいだ雰囲気に安堵しつつ、今言われたことに眉を顰める。
いや、相変わらず変な奴って。


「!」


ふいに血の臭いが鼻を掠める。
臭いの方角、木々の間から巨大な鬼が猪の皮を被った子供の首を掴んでいるところが見えた。
迷わず向かう義勇さんの後に続いて刀を抜いた。







―――ごめんね。ごめんね、伊之助


鬼に首を掴まれ、頸椎を握り潰される直前の一瞬、伊之助は走馬灯を見た。
脳裏に過ぎるは共にここまできた竈門炭治郎、吾妻善逸。藤の家紋の家で出会ったお婆。指先に止まる蜻蛉。そして、見覚えのない女性。
あの女性は誰だ。崖の上から自分を覗き込むあの女性は。

息苦しさと共に口から大量の血が出た。


ドンッッ!!

「ギャウ!」


突如響いた鈍い衝撃音に、失いかけていた意識が現実に引き戻される。自分を掴んでいた鬼の腕が何かに斬られ、地面に叩きつけられた。顔を上げて目に入ったのは半々羽織を着た男の後ろ姿。
何だ?斬ったのか?あいつが?
斬られた腕を瞬時に再生した鬼が男に向かっていく。
やられ――――


「影の呼吸 壱ノ型【影踏み】」


凛とした声と共に、気づけば鬼がバラバラに斬られていた。その横にはいつ現れたのか、刀を構えている一人の女。
あの女が斬った…のか?
現れたところすら一瞬も見えなかった。
すげえ。何だあの女!
わくわくが止まらねえぞ、オイ!


「俺と戦えそこの女!あの十二鬼月にお前は勝った!そのお前に俺は勝つ!そういう計算だそうすれば、一番強いのは俺って寸法だ!!」
「えっと…?」
「修行し直せ戯け者!!」


ビシィッと女を指差すが、女は戸惑うばかりで首を傾げている。すると何故か半々羽織りの男が出しゃばって前に出てきた。
俺が戦いたいのはお前じゃねえ!!しかもこいつ今戯け者って言ったか!?


「なにィィイ!!」
「今のは十二鬼月でもなんでもない。そんなこともわからないのか」
「わかってるわ!!十二鬼月とか言ってたのは炭治郎だからな!俺はそれをそのまま言っただけだからー…な?」
「己の怪我の程度もわからない奴は戦いに関わるな。いくぞ、なまえ」


言い終える前に何故か自分の身体が宙に浮かんでいた。よく見れば縄で木に吊るされている。
いつの間に。
!?速ェ…速ェコイツ!!
俺を縄で縛りつけたらしい半々羽織りの男は、目の前を通り過ぎてさっさとその場から離れる。
すると女がこっちにきた。
何だ?コイツやる気になったか?


「ごめんね、義勇さん強引で。君の傷は深いから動いちゃダメ」
「………」
「ひどいところだけ止血しておく。すぐに迎えが来るから。よく頑張ったね」


そう言うと女は持っていた布で俺の傷口を縛った。そっと触れる手が温かい。
またホワホワする。
何だ?炭治郎と言い、コイツも?

女は男の後を追ってそのまま森の奥に消えて行ってしまった。



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