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運命は白日


出逢ったのは運命だったのかもしれない。なんとなく、予感はしていたのかもしれない。

ここで出逢った少年が、いつの日か肩を並べて戦うようになるのではないかと。







「いないなあ。外れか」


甘味処で鎹烏に指令を受けたのがちょうど半刻前。義勇は東から、なまえは西から山奥に向かっていた。雪がちらつく中、周りを見渡しても鬼がいる様子はなかった。殺された人間も見当たらない。
となれば、義勇さんの方だろうか。

開けた道の先、辿り着いたのは民家だった。そして見えたのは血だらけで倒れている幼子。


「!!…っ、」


駆け寄って脈拍を測る。息をしていない。刀の柄を握り、足を踏み入れた家の中はもっと酷い有り様だった。家の住民は全員惨殺され、壁や床には大量の血がついている。鬼が出たのは半日ほど前だったようで、その一部はすでに乾いていた。

…遅かった。

動かない住民達の前、その場に片膝をついて両手を合わせた。死んでしまった人達が、せめて幸せな夢を見れますように。

追悼を終えて閉じていた目を開けると、不自然に残る血痕が目に入る。


「血の跡…外に?」


外へと続いている血痕は何者かがここから脱出したのを表していた。この状況で生きている者がいて、ここから逃げ出したのだろうか。血痕の横に残された雪の中へ続く足跡はまだ新しい。この足跡の方角のままにいくと義勇さんと鉢合わせるかもしれないが…もしもその間に鬼に見つかってしまったら?
なまえは血痕を追って山奥に向かった。







「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」
「え?」


今の声…義勇さん?
どこからか聞こえてきたのは義勇の声だった。普段の彼からは考えられない憤りが感じられる声色に、声が聞こえた方へと急ぐ。
木々の間から見えたのは誰かに向かって話す義勇さんと、彼の前に座り込む少年。義勇さんは一人の少女を捕らえていた。
その少女は人間…にも見えるがここからでもわかる。あれは、鬼だ。
すると突然座り込んでいた少年が義勇さんに向かって石を投げ、走り出した。


「どういうこと…?」


捕らえている鬼から、義勇さんが少年を守っているのではないのだろうか。
少年が、義勇さんの角度からは見えない位置で持っていた斧を上空に投げたのが見える。
刀を構えて走り出した。
義勇さんが少年に一撃を入れたのとほぼ同時、彼に向かって真上から落ちてくる斧を持っていた刀で一閃する。
真っ二つになった斧はそのまま地面に落下した。


「…義勇さん、避ける素振りもないなんて危ない」
「わざと気配に気づかせたのはなまえだろう」
「バレてる」
「鬼は?」
「私の方はいなかった…って、義勇さん!!」
「グァウ!!」


油断した。捕まえていた鬼の少女が一瞬の隙をついて目の前で義勇さんを蹴り飛ばした。そしてその鬼の少女は倒れた少年の元へと真っ先に向かう。力が欲しいから、喰う気か。それならば鬼の少女が少年の元へ行くまでに息の根を止める。

その僅か数秒の間、刀を握り直して地面を蹴り、彼女の頸に刃を振り下ろそうとしたその時だった。


「!?」


なんと、鬼の少女が自分の前に立ちはだかった。その態度は誰が見ても明らか。少年を喰べるためじゃない、その態度は明らかに少年を守るためのものだった。彼女の威嚇は、私と義勇さんに向けられている。

―――鬼が、人間を守っている?

迷いなく振りかざしてきた刃が思わず止まる。
そして牙を向けて襲いかかってきた少女の鬼に、刀を振れないままでいる私の背後から一撃を入れたのは義勇さんだった。


「あ、ありがとう」
「油断するな」
「だってこの鬼の子…少年を守った?」
「ああ、兄妹と言っていた」
「鬼が人間を守るなんて初めて見た」
「そうだな。こいつらは…何か違うのかもしれない」







炭治郎は夢を見た。
鬼に殺された家族の夢を。


『置き去りにしてごめんね炭治郎。禰豆子を頼むわね』


死んだはずの母が耳元で囁いた。お願いだ。どこにも行かないで。夢の中では喋れない。耳元で囁く母の腕を強く掴んだ。


「!!っ…はあ、…はあ」


目を開けた先、竹を咥えた禰豆子が倒れていた。掴んだのは禰豆子の着物だった。あれ、そうか。家族の皆は死んでしまった。血塗れの家を見てから、それでどうしたんだっけ。確かまだ生きていた禰豆子を助けようとおぶってここまで来て、刀を持った男に襲われて―――


「起きたか」
「おはよ、少年」
「!?」


木の影から現れたのは襲ってきた男と見知らぬ女の人だった。その瞬間に全てを思い出して咄嗟に禰豆子を抱え込んで警戒する。再び男に襲われるかと思ったが、何故か彼らからは敵意の匂いはしない。


「狭霧山の麓に住んでる鱗滝佐近次という老人を訪ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え…おい、なまえ!」


男と一緒にいた女の人がこっちにやってくる。なまえと呼ばれた彼女は目の前に座り込むと、眠っている禰豆子をそっと撫でてこっちを見た。
大きな瞳に、白い肌。綺麗な顔立ちだった。
無意識に緊張して何も喋れないでいると、彼女はにっこりと笑った。


「この子ね、少年のこと守ろうとしてたよ。お兄ちゃんのこと大好きなんだね」
「!」
「君たちなら大丈夫。強く生きて。妹鬼ちゃんを太陽の下に連れ出したらダメだからね」


伸ばされた手が肩に置かれる。優しい手だ。思わず母の温もりを思い出して、目の前が霞む。流れ出そうになる涙を見られまいとぐいっと力強く拭って頷けば、彼女も笑顔で頷いてくれた。


「じゃあね。またどこかで」


立ち上がる彼女の腰には刀、羽織の背中には影の文字。そして二人はあっという間にその場から姿を消した。


『強く生きて』


その言葉が頭の中で響く。炭治郎は腕の中で眠る禰豆子の手を強く握った。



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