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「……ぁ……ぁぁ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!ぎゃっ!!」
ゴンッ!とお尻と頭を強く打ちつけ目から火花が飛んだ。
「いっ…たぁーーー!!何なんだいきなり………………は?ここは………」
強打した腰をさすり鼻につく独特の匂いと気持ち良さそうな鳥の声に、訳が分からず辺りの様子を確認しようと起き上がる。が、直後。
ゴツリとこめかみに押し当てられる冷たく硬い何かがカチリと音をたてた。
「オイ貴様。どうしてここにいる。どこから忍び込んだ?」
地を這う様な低い声にビクリと肩を跳ね上げ、私の首は油の足りていないロボットの様な、ギギギッという動きで声の主を仰ぎ見た。
そこには白い繋ぎ姿の男達がズラリ。
全員何かただならぬ雰囲気を携え、内一人が私の頭に銃を突き付け、射殺さんばかりにこちらを睨みつけている。
・・・え。
何この状況。
「聞いているのか?」
信じ難い事に、私が今いるのはどうやら何かの船の甲板の様で、辺り一面美しい大海原に囲まれている。
そうか。これは潮の香りだったんだ。
……えっ、なんで?
穴に落ちたら底は海でしたってか?
ていうかなんかその、目の前にすっごい見たことのある人がいるんだけど。
バックではためく黒い旗なんか記憶に新し過ぎるんですけど。
「おい。質問に答えろ」
ああ、もしかして私あの穴に落っこちて気絶して夢でも見ているのか?
・・・・・・ゆ、め・・・・なのか?
夢ってこんなにリアルに匂いとか冷たさとか感じるものだったっけ・・・?
てか。
こんなに意思がハッキリしてる夢なんてあるの?
沢山の疑問符を浮かべた私の頭を一瞬で真っ白にさせたのは、至近距離で放たれた一発の銃声と、頬に走るピリッとした熱。
変だな右耳が良く聞こえない。
「自分の置かれた状況を良く考えろ。もう一度だけ聞くぞ。お前一体何処から出て来た?」
ぼんやりとした頭でそっと右頬へ触れる。
ぺっとりとした感触。
見れば指先には真っ赤な液体が付着していた。
これ本物?現実?
殺される・・・?
途端に真っ白だった頭がパニックに陥る。
違う違う違う違う何これ!
おかしいおかしい絶対におかしいって何で私が殺されるの!?
ああああ早く逃げなきゃなのに指!なんでなんでなんでなんでなんで一本すら動せないんだけど!?
ゴリッと熱を持った銃口で頭を押され、ひっと喉から引き攣った声が出る。
な、何か言わなきゃ。
何でも良いから。とにかく何か。
「・・・・・・!・・・ぁ・・・・・・・!」
だけど思いと反して震える喉からは空気ばかりで声らしい声など出てこない。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいいつもは阿保みたいにスルスル言葉が出て来るのに何でこんな時に限って声出ないんだよ使えない!!
「・・・飽くまで答えない気か」
銃口は、今度こそ私の眉間にぴたりとつけられる。
その瞬間、こんがらがってぐちゃぐちゃになってた頭の中がフッと綺麗になって浮かんだのは
"逃げろ"
それ一つ。
今まで石になったみたいに動かなかった身体が突然動くようになり、私は弾かれた様に駆け出した。
ばかだよなぁ。人間パニックになると後先考える事ができなくなるみたい。船の上に逃げ場なんてあるわけが無いのに。
大体相手は鉄砲持ってんだよ。
当然私は撃たれた。
たったの三歩目で左足がカッと熱くなって堪らず痛いと悲鳴を上げたけど声にはならなかった。
何時も大事に使ってやってんのに。この役立たず。
ドサリと崩れ落ちた私を男達がぐるりと囲む。
「あんだけ大層な捨て台詞吐て消えた割にはこんなもんかお前?」
「……?」
「惚けんなよ馬鹿にしやがって…。どの面さげて帰ってきやがった。髪切ってすっぴんになったくらいでおれ達を騙せるとでも思ったのか?」
痛い痛い痛い。
でも頭はさっきと違ってびっくりするほど冷静だ。
でもキャスケット帽のグラサン男とオシャレペンギン帽子の男が言っている事は全く分けがわからない。
だって初めて会ったのにまるで前に私に会った事があるような口ぶりだ。
いや二人だけじゃない。
まるでそこに居る皆が私の事親の敵を見るような目で見てる。
違うよきっとそれ私じゃないよ、人違いなのに何で私を殺すの。
やだなああああこわいなああああ!お兄ちゃん助けて助けて助けて助けて。
「このアマなめやがって!」
と、鳩尾に重たい衝撃をうけて吹っ飛んだ。
何かに叩き付けられ胃の中の物をぶちまける。
勿体ない!せっかくのチーズオムレツが…ってあれ、何か異様に赤………
「ゲホッ」
咳込むと甲板の床に血液が飛び散った。
お、おぉ・・・・・・・。
血反吐吐いたのなんて18年間生きてて初めてだわ。
てか今までに無い変な激痛がするんですけど。
さっき吹っ飛ばされた時嫌な音したし骨折れたんじゃないのこれ。
私を吹っ飛ばした男は他の男達に羽交い締めにされていた。
船長がどうとか言ってるけどよくわかんない意識まで飛びそう。
寧ろ何で気絶してないのか謎なくらいの激痛なんだけど、何これ生存本能ってやつ?
もう動く事も出来ない私は、あれよあれよという間に縛り上げられ喋る白熊の肩に担がれ船長室という場所へ運ばれるらしい。
ああもう誰か嘘だと言ってよ。
ああいうのは結局ただの妄想なのであって絶対に起こり得ない事のはずでしょ。
だからここが、かの大人気漫画、「ONE PIECE」の世界の中で、「ハート海賊団」というキャラクター達の海賊船の上だなんて絶対嘘だ。。
しかし。
いやはや全く、不思議なもので。
あれほど行きたいと思っていた世界に来て、一番最初に感じたものは想像を絶する"恐怖"だった。
とりあえず肋が痛いので担ぐのはやめて欲しいです。
私の押しメンは閣下とドフラさんです。
全くあいつら怪しからん筋肉だよ。筋肉筋肉…
12/6/9
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