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「何を許せってあぁ?阿保なこと言ってないでさっさと起きろこの阿保神流!」
「……いてっ……いや、ちょ………たんま……グーはやばいグーは…ったい!あーっもうさっきからバシバシバシバシドメスティックバイオレンス!DVDV!グーで殴んな馬鹿兄貴!!…………只今の攻撃で私は心身ともに損傷を受けました。防衛本能に従い一切の思考を停止します。起こさないでねv」
「『起こさないでねv』じゃねぇよこのすかたん。俺はいつまでもガキに付き合ってられる程暇じゃねぇんだ。とっとと起きねぇとてめぇ、朝飯のチーズオムレツ全部俺が食っちまうからな」
「お兄ちゃんのチーズオムレツ!?ダメダメ!それ私、の………うべっ」
ガバリと飛び起きた私はバランスを崩して固いフローリングへと転がり落ちた。
何でフローリング何だよおもいっきり頭打ったじゃん。
私が厳選して選んだ愛しの白熊カーペットちゃんはどこ行ったんだ。ってかいつからベッドこんなに狭くなったの。
と、思ったら私が落ちたのは私の部屋のベッドじゃなくて、リビングのソファーだった。
そうか。昨日ここで漫画読みながら寝ちゃったのか。
気が付けば部屋の中には美味しそうな匂いが漂っていてそれに触発される様に私のお腹が空腹を訴えた。
「私のオムレツおっきくしてくれた?」
「うわ。起きて一番にそれかよ食い意地張やば。てか、何時までブッサイクな顔して寝転がってんだよ。遂に豚になるのか?」
そう言って遥か高みから私を見下ろすのは私の兄である。
あなたは信じられるだろうか?
この家畜を見るような目で幼気な少女を見下ろす男が私の唯一の肉親なんだぜ?
それにこんなに可愛らしくてプリップリな花のJK捕まえて不細工とか豚とか、なんて奴。
目、大丈夫ですか?
パ〇・ミキで眼鏡作って来た方がいいんじゃないですか?
「作んねーよ。何だプリップリってオイ。言っとくけど、それ全部聞こえてるから駄々漏れだから。よーしお前のオムレツなしなー」
「ぎゃあぁぁっ!やめてー!私チーズオムレツ食べれなきゃ死んじゃうー!!」
キッチンへ立ち去ろうとする兄の足にがっちりとしがみつくと、結構本気で振り払われた。
ちょ…、「うわっ」ってそれ……、それ結構傷つく。
「お前が傷つこうがつくまいがどうでもいいけどよ。良いのか?学校遅刻するぞ?」
「は?何言ってんのお兄ちゃん?今は夏休みじゃん」
「お前の方が何言ってんの?今日は登校日っつってただろ?」
「なん、だと・・・!?」
ばっ、とカレンダーを見ればそこには私の下手くそな字で、でかでかと書かれた「登校日」の文字。
し…
「しまったあぁぁ!!今日遅刻したらハーゲンダッツおごるってともちゃんと約束してたんだった!!」
「金もねぇくせに何でそういう約束ばっかりするんだお前は…」
「いや、これは敵が兄弟であればあるほど逆に燃えるという少年漫画の………」
「良いからさっさと食え阿呆」
腹立つくらい美味しいお兄ちゃんのチーズオムレツを素早くかつ味わって胃袋に詰め込みとっとと支度を済ます。うぅ…後10分か、際どいな。
バタバタと出てきた玄関では私のリュックを持ったお兄ちゃんが。
おお、荷物をすっかり忘れてた。
「ありがとう!」
「ん。今日部活は?」
「無いけどともちゃんとちょっとだけ歌ってくる!じゃ行ってきまーす!!」
「あ、遅刻したらハーゲンダッツおれの分もな」
「なぜ!?」
「貴重な休日にお前を起こすという重労働でおれ様の手を煩わせた罰だ」
「それだけで!?」
「……許せ神流。これで最後だ」
「に、兄さん…………って何が最後だ!やめろ!この小説とは別ジャンルだ!」
「何の話だよ。で?時間はいいのか?」
「あぁぁぁぁ!!」
「西荻」
「何!?」
「…車に気をつけろよ」
「もちろん!」
あ、おれチョコレートとバニラなー。などとほざく野郎は無視して、私はジリジリと照り付ける真夏の太陽の下へ飛び出した。
てかどさくさに紛れて何?2個買ってこいってか?
学生の懐嘗めてんのかあんにゃろ。
意地でも間に合ってやる。
死ぬ気で駆け抜けてやる。
「私は風、風は私!私は風になる!!吹き抜けろ私っ!!」
「あら神流ちゃん。今日も元気ねぇ」
「おはようおばちゃん!日射病に気をつけてね!」どんなに急いでいてもご近所さんへの挨拶は忘れない。
それがご町内の人気者西荻神流だ!
「てかあっつ!死ぬほどあついぞ!何でこの世界には学校なんて物があるんだ一体。どうしてこんなうら若き可憐な乙女が必死こいて真夏の太陽の元を全力疾走しなきゃならないんだ。…青春かっ!!」
「あれまぁ神流ちゃん。今日も一人で楽しそうだねぇ。」
「おはようおじいちゃん!別に楽しくないよ!畑仕事も程々にね!」
家を出て5分もしない内にシャツは汗でぐっしょりになった。
あ、そうそう。
汗といえば、冬の寒い日に汗をかくと自分の体から湯気が立ち上っているのが良く見えるよね。
昔は冬の日なんか良くやったなー。
あの頃は若かったからなー。
今見たいに全力で走りながら「ギアセカンドッッ」って叫んだっけ昔。
去年くらいに。
何故か回りの目が凄く痛かったから止めたんだよね。何でだろ。
ああ、ギア2と言えばワンピース、最新刊買わなきゃ…。
あーあ、良いな海賊は。
学校なんか行かなくて良いから毎日遊び放題漫画読み放題カラオケし放題テストもなしでしょ。
…うわっ。
それ何て幸せ?ちょっと私海賊しに行ってくるわ。
行くならイケメンも良いけど癒しがあるとこが良いいね。
可愛い女の子がいるとこ?あ、いや。動物も捨て難…あ!
ベポ!ベポに会いたい!
ハートかぁ。
私の押しメンはサンジとツンデレな(←ここ大切)チューリップ閣下だけどあそこにはローもいるし何よりあのフワフワ白熊をもふもふしたい!
「うんよし。私はハート海賊団に行こう!」
「相変わらず分けわかんないことばっかいってるね。ねぇちゃん馬鹿?」
「黙れクソガキ。ママに言い付けるぞ。子供なんぞにこの妄想の素晴らしさがわかってたまるか!」
「知りたくもない。」
近所の少年に蔑みの顔で一蹴されつつ、そんなこんなで次の角を曲がれば校門が見えて来る。
始業のチャイムまであと3分。
「しゃあっギリギリ間に合うぞ!女子力なんて知ったことか!これでハーゲンダッツは無、し………………だ?」
更に加速し、曲がり角に踏み込んだ途端、私は妙な浮遊感に襲われた。
……だ?」
更に加速し、曲がり角に踏み込んだ途端、私は妙な浮遊感に襲われた。
私の足元には不自然な大穴。
はて、ここにこんなに大きなマンホールあったっけ。
何だか嫌にゆっくり時間が流れる気がして、気づく。
この浮遊感は落下によるものかと。
「………ぁっ!!」
私は悲鳴を上げる暇無く穴の底へと吸い込まれて行った。
プルルルルルル・・・
ガチャ
「はい。西荻です」
『あ、もしもし。私神流ちゃんの友達の田中なんですけど、神流ちゃんご在宅ですか?』「神流?まだ帰ってきてないけど。どうかしたの?」
『いえ、実は・・・』
「え?神流が?」
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[mokuji]
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