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船が冬島の気候に入ってからしばらく。
外でバカ笑いしながら雪と戯れるシャチとベポを生暖かい目で見ていたら、後頭部に重たい一撃を頂いた。
「っ〜〜!!・・・何するんですか船長!」
「アホみたいな顔してないで仕事しろペンギン。あれの場所、変えたのか?」
「は?」
いろんな意味で「は?」だった。
まず第一にあれそれと、主語も述語もへったくれも無い文章で、事の内容を理解できるはずもない。
第二に何故おれ?
ふつうはあそこで戯れるアホと白熊がお叱りを受けるべきではないのか。
この間衝撃のあまり間抜けな顔をしていたおれは、眉間にシワを寄せた船長にもう一度拳骨をくらった。
理不尽だ。
「ベティの事だ。お前の仕事だろうが。あいつがどうなろうと知ったことないが、吐かせるまでは死なす訳にはいかないからな」
「あぁ」
名前を口にするだけで気分の悪そうな船長の意見に相槌をうつ。
確かにあの倉庫は船の中で一番気温の寒暖の影響を受けやすい部屋だ。
こんな"冬"の寒い日にあんな格好で放置していたら、いくらあいつでも寒さで凍え死んで・・・って、
いや待て船長。おれいつベティ係になったんですか?
「部屋に連れてこい。あっちの二匹も一緒にな」
「・・・了解っス」
おれの返事を聞くと船長はくるりと背を向け自室へと戻って行った。
仕方ないのでおれはとりあえず二つの後頭部に一発ずつお見舞いしてからぶーぶー言う一人と一匹に要件だけ伝え放置し、倉庫に繋いだあの重要参考人がまだ生きていることを願って足早に回収しに向かった。
・・・が。
さ、寒っ!
あいつ生きてんの?
これもし死んでたらおれ一体どうな・・・・・・大体予想つくな。
考えんのやめよ。
重く冷たい倉庫の扉を開けるとそこにはぐったりとしたベティ。
悲鳴を懸命に噛み殺し、慌てて駆け寄る。
驚く程冷え切っていたが、命に別状はなさそうなので一安心し、船長室へと連行した。
そこで叩き起こされたベティは周りの状況を理解すると、絶望に顔を曇らせた。
「今更後悔したところでもう遅い」
その通りだ。
お前せいでおれがどれだけ無駄な労力を使ったと思ってんだ全く。
「どうした?答えねぇのか?」
船長は不適に笑っている。
そんな船長を今まで黙って見据えてたベティは、その目をここに居る全員へとむけると、
「・・・・・・・・・!」
何やらわさわさと動きだした。
「・・・・・・・・・何してんの?こいつ」
おれに聞くなよシャチ。
「俺達のこと馬鹿にしてんのか?」
「すいません・・・」
何で謝ってんのベポ?
イライラとベティを見下ろしていると、今度は切羽詰まったようにわたわたしだした。
だんだん哀れに見えてきた。
と、突然、今まで無言だった船長が徐に立ち上がり、ベティの下へと歩み寄った。
そしてきつく目を瞑り、顔を背けたベティに
「お前、まさか声が出ないとか言うわけじゃ・・・・・・」
そう尋ねた。
声が出ない?
「そんな訳ないっすよ船長!だってこいつ船に落ちて来た時ひと、り・・・で・・・・・・」
そう言いながら見下ろしたベティの顔は多分二度忘れられないと思う。
まるで花が咲き誇ったような満面の笑みを浮かべたベティは、目をキラキラと輝かせながら何度も頷いていた。
・・・え、誰こいつ。
おれの記憶の中のベティは、少なくともこんな純粋な顔で笑う奴じゃなかった。
もっと計算され尽くした、男を誘うような艶めかしい微笑み、、もしくは人を馬鹿にした見下した笑みしか浮かべない女だった。
紙とペンをを貰い、ようやく会話のできる様になったそいつは自分はベティじゃなくて西荻神流だといいだした。
ベティからは想像もつかないような、はっちゃけた話し方をするこいつは、ここに来るときも思ったのだが何と言うか少し・・・
「小さくね?」
「「・・・・・・」」
聞くと自称西荻神流は現在18歳の少女だという。
どうりで小さいわけだ。
自分がベティではないということを証明できた少女は、安心したように一度大きなため息を付くとそのまま床に倒れ込んだ。
「お、おい!」
「気絶しただけだ。心身共に疲労が溜まったんだろ。ベポ、こいつを医務室に運んでおけ」
「アイアイキャプテン」
ベポは少女を抱え上げるとすぐさま医務室へと向かった。
「あ、俺も行く!」
「お前は空き部屋の掃除しとけシャチ」
「えー」
そしてシャチは空き部屋の掃除に・・・・・・・・・・・・
・・・・・・空き部屋の掃除?
「ま、待って下さいよ船長!あいつここに置く気ですか!?」
慌てて制止すると、船長は何を当たり前の事をという顔をした。
「確かにあいつはベティじゃ無いみたいですけど全く無関係って決まったわけじゃないでしょう!?それを・・・!」
「ペンギンは心配性だなぁ」
シャチが少し呆れたように笑った。
少し腹が立ったので脳天に一発噛ました。
シャチは悶えている。
「シャチのいう通りだ」
「船長!」
「ほらなっ!」
うるさいのでもう一発お見舞いした。
シャチは崩れ落ちた。
「仮にそうだとして、このおれがあんなガキ一人にしてやられるとでも思っているのか?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」
「大体なぁ・・・」
「ぐえっ」
船長はシャチの上にドカリと腰を下ろし、床に散らばった数枚の紙をつまみ上げ
「心配すんな。あいつはただのバカだ」
クツクツと笑い、おれに押し付けて来た。
その紙を見ると、何故かすごく納得できた。
→アトガキ
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