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まあね。
まず体ばらばらにされといて何がドッキリだってはなしなんだけどね。
「ペンギン。これ倉庫にでも突っ込んどけ」
「了解」
やっぱりそうか。
いや、その自己主張いっぱいの帽子でもう気づいてたけどさ。
そうか。
ご本人様でしたか。
倉庫に連行される前に体はくっつけてもらえた。
あれ、いいの?とか思ってバラバラ事件の元凶を見ると、
「アホみてぇな顔でこっち見んな。目障りだ」
と吐き捨てられた。
結構気傷ついた。
倉庫なる所に着くと枷を嵌められた。
そっか、バラバラだと拘束するの大変だもんね。
「ったく。お前のせいで船長の機嫌ががた落ちだ。何で殺されないかが不思議なくらいだぜ」
そう睨みを聞かせてオシャレ帽子改めペンギンはどすどすと、怒りも露わに去って行った。
どうやら彼らは人違いをしているみたいだ。
私は不運にも彼らの言うベティという人物そっくりの容姿をしているらしい。
そしてベティはハートの海賊団から多大な怨みを買っている様だ。
全く持ってはた迷惑な話だ。こんな全開の日本人面晒してなにが『ベティ』だよ。
そういうところさすが異世界ってか?
・・・・・・っというか寒いなここ。
何か急に冷え込んで来た。
ここグランドライン?
冬島近いのかな?
何にしろこの格好は些か辛いものがある。今まで真夏の太陽の下を全力で駆け抜けていた私の制服は、凄い量の汗でぐっしょり濡れていて、更に言うと半袖だ。
マジ寒い。
ガチで寒い。
汗が冷えて今にも凍りそうだ。
暖をとるため、とりあえず倉庫の中でもウロウロしてみようとたちあがる。
・・・2秒で終了。
肋がいたくて息止まるかと思った。
足を撃たれた事も忘れてて、体重かけた瞬間死んだ。
枷から伸びる短い鎖は部屋の隅の手摺り見たいな奴に括りつけられていて、反対側の隅に積み上げられた積み荷を漁ろうにも全然届かない。
この枷も冷えていて痛い。
な、何とかしなきゃこれ。
凍え死ぬぞ私。
あ、大声出して見たらどうだ?
「ーーっ!!・・・・・・。」
・・・声、出無いんだった。
肋も痛かった。
絶対折れてるよねこれ。
抵抗を諦めて冷たい床に横たわると頬に暖かい物が流れた。
ああ、やだ。
何があってもバカみたいに元気なのが、私の唯一の取り柄なのに。
あーあ、今日のお昼は何だったんだろ。
今日は仕事休みって言ってたから、きっとお兄ちゃんが何か美味しいご飯を作ってくれていたはずなのに。
「(・・・・・・お腹すいた・・・。)」
家には親が居ない。
産みの親は小学生の兄と、まだ赤ん坊の私を残し失踪。
育ての親は9年前に他界した。
それからは社会人になった兄に養って貰い、二人で生活していた。
この境遇を知った友人達は皆私の事を可哀相と言うけれど、別に私は自分が哀れだなんて思った事はない。
産みの親の事は幼過ぎて記憶に残ってないので、私の中では実質育ての親であるお父さんとお母さんが本当の両親だ。
二人が事故で死んだ時はすごく悲しかったけれど、兄が私の事を支えてくれたから私は立ち直る事ができ、今まで普通に過ごして来れた。兄は、下っ端で忙しい仕事の合間を縫って授業参観に来てくれた。
運動会にも、体育祭にも、学芸会にも、文化祭にも。
そんな兄に私は何時も憎まれ口ばかり叩いて居たけど、ホントはすごく嬉しかったんだよね。
なんだ。
今思うと、存外私は散々憎いと思ったあいつの事が大好きだったみたいだ。
ばかだなぁ・・・。
そんな事に世界を跨いで初めて分かるなんて。
本当に大切なモノは失ってからでないと気づけないというのはどうやら本当らしい。
「(・・・会いたい。お兄ちゃんに会いたい)」
何だか眠くなってきた。
このまま寝たら死んじゃうかな。
できれば元の世界に帰れるとうれしいな。
思考を巡らせながらズルズルと深い闇へと落ちて行っく意識の中で、誰かの私を呼ぶ声が聞こえたのは、気のせいだったのだろうか。
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[mokuji]
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